異世界への誘拐3
「地球で”力”を使うことは禁じられてるんだ」
キマキマから逃げ出した後。
ラグノリアの森の中で。
「どうして?…まって!どうせ秘密がばれるとヤバイとか言うんでしょ!?」
アヅマがキクカを連れてきた理由を話していた。
「まぁ、ね。もし、王家のお偉いさんたちに知れたら継承権を剥奪される」
「…そういう、約束?」
理解力を増したキクカの反応に、アヅマは満足げにうなづいた。
「俺を地球に逃がすのさえ本当は危ないことなんだ。時空を越えるしね」
二人の間に、小さな火が燃えていた。
これも、アヅマが”用意”したものだ。
「あってはならない”力”が、時の流れに及ぼす影響は計り知れない……。とても、危険な行為だ」
「どう危険なの…って、私が聞いてもしょうがないかしら…で?」
「オバさんに…地球人に”力”のことが知られれば、最悪時空が歪むかもしれなくて」
「どうしてそうなるのよ」
少々キクカの理解の範疇を超えだした話題に、不満そうにほほを膨らまして訊いた。
「だって、この”力”は第3の地球じゃ発見されてない…」
第3の地球。
その聞きなれない言葉に、キクカは首をかしげた。
「え?ワケわかんない」
「いや、えっと何て言ったらいいのかな」
「第1、第2があるの?」
この広い宇宙、地球に似た星が幾つかあってもおかしくはないが…。
「ってゆうか、この星、インテュバルは第6の地球…かな?」
そう言って、アヅマが土の上に丸い円を書いた。
その中に大陸を幾つか書き、そこから線を引っ張って「ラグノリア」と「ブルテンツ」を書き入れる。
「ぶっちゃけ、オバさんが生きてる地球の遥か未来の姿…なんだよね」
さらに、この辺が日本だったあたりじゃないのかな。などいいながら、線を引く。
「なんですってー!!!???」
「声、でかいから…」
森にいた鳥…のような生物が一斉に飛び立った。
長かった1日が暮れようとしている。
ラグノリアの森の外。
飛び立つ野鳥の群れを目にする人影が、ひとつ…。
不自然な鳥たちの動きに、人影は何かを察した。
地球は、すでに2回生まれ変わり、3度目の世界を構築していた。
「簡単に、これまでの状況を説明しておくね」
アヅマは炎越しにキクカを見つめながら、先ほど書いた地図を靴底で消した。
二人は、学生服のままだ。
革靴でも、スニーカーでもない。
学校指定の、センスがいいとはいえない上履きをはいている。
「俺も学者じゃないから、世界の再構築を詳しく説明しろって言われてもよくわかんないけど」
遥か未来。
6度目の地球、インテュバル。
そこはひとつの統治機構によって管理され、王制をしいていた。
しかし、第6の地球の寿命は尽きようとしていた。
その時、インテュバルで戦争が勃発。
反王統派による「前世界への移住計画」が、王室との溝を深めたのだった。
激化する戦争の危険から、王統派は現王の後継者である王子を時空を越えた第3の地球へ逃がす。
それは、敵が”力”を使う危険性を冒してまで、王子に危害を加えないだろうと踏んでの事だった。
そして、大臣たちは幼い王子に約束させる。
「もし”力”を使ったり、あなたの正体がばれたら、あなたの王位継承権は剥奪する」
と。
第3の地球ではありえない事態に、時空の歪が生じる危険性があったからだ。
第3の地球で暮らすアヅマの元に、王統派と敵対している派閥の刺客が差し向けられた。
そして、アヅマはインテュバルの現状を聞く。
戦火により荒廃した土地。
溢れ出す難民。
妖獣たちの異常繁殖。
アヅマは、ある交換条件を元に停戦を呼びかけることにした。
「5日間で、俺を殺せたなら俺たちの負けだ。移住でも何でもすればいい。だが…」
もし、俺が生き延びれば戦争は終わり、移住計画も白紙だと。
反王統派はその好条件を受け入れる。
まだ子供ともいえる王子一人殺すのは、簡単だと踏んだからだ。
しかし、刺客たちは連絡係を除いて全員が倒されてしまう。
アヅマの力は、侮れないものだった。
その現場を目撃したキクカ。
アヅマは、大臣たちとの約束から、危険を承知でキクカを監視しようとする。
しかし、敵との約束を守り、キクカを監視するためには、彼女を第6の世界に連れて行くしかなかった。
「もう、この世界も長くはないと、学者たちは予測している。その予測は、ほぼ事実だと言って過言ではない」
「…この世界を捨て、人類が助かるためには移住を?」
「そういうバカげた考えをする輩がいたせいで、大きな戦争になってしまった」
キクカは、似たようなストーリーのSFマンガを思い出していた。
しかし、多くのストーリーは宇宙への旅立ちを選択している。
この世界の学者たちのように前世界へ移住しようなどと考えなかったのは、時空の壁があるからだ。
「特殊相対性理論とか、オバさんは知らないかもしれないけど…、そういう技術が、いわゆる”魔術”の解明によって大きく進歩しているんだ。うちの世界は」
小難しい用語は理解できなかったが、キクカは黙ってアヅマの話を聞くしかできない。
キマキマを封じたあの力も、火を用意した技も、きっと解明された魔術に関係してるに違いない。
「まぁ、なんでもいいんだけどさ。ごめんね、関係ない争いに巻き込んじゃって」
アヅマは殊勝に謝罪の言葉を口にする。
「とりあえず、今夜は眠ろうか」
「…ここで!?」
また何かに襲われるかもしれないというのに。
「あ、大丈夫。夜はこの火が守ってくれる」
それも何かの約束か、と訝しげににらむと、アヅマは「大丈夫大丈夫」と無責任な風に返事する。
「あの、布団とか」
「布団…なんていらないでしょ?」
まぁ確かに暖かくて、凍死などという不穏な死にかたはせずにすみそうではあるが。
王子様って、もっとサバイバルには不慣れなもんじゃないのかと、キクカは恨めしそうに視線を投げる。
キクカの視線には気付かないふりをして、アヅマは
「じゃ、おやすみ」
とのんきに寝転がった。
キクカを連れ、インテュバル・ラグノリアでの1日を乗り切ったアヅマ。
1日目が終わろうとしていた。




