第77話 モブは原作を逸脱したヒロイン攻略厨
「ふぅぅぅぅぅ。ははっ、はははははは……」
終わった。
全てのイベントが終わった。
もはや生気を吸い尽くされて白骨体の如くなっている俺。
流石に重労働が連続し過ぎて、再起不能寸前だ。
四月から、暗躍続きの日々だった。
梓乃李のいじめは裏で勝手に解決させ、雪海の復讐は身を挺して阻止。
続く桜花の炎上は地産地消気味になりつつも一応大団円風に終わらせ、葵子の強姦事件は発生する前に犯人が消えるという形で幕を閉じた。
何はともあれ、これで終わったのだ。
元から言っていたが、俺の狙いはただ一つ。
梓乃李の破滅を防ぐために、共通ルートの全イベントを解決する事だった。
ここさえ終われば、ようやく一つ肩の荷が下りる。
既にシナリオは歪みまくり、本来俺が望んでいた世界とは全く異なる方向に進み始めてはいるが、そこはまた考えるしかない。
どのみち、梓乃李×暁斗のルートが五月時点で潰えていたわけだし、この先は未知数。
そのためにも、最低限彼女が病みそうな負のイベントはなんとか全回収したわけだ。
今後彼女が自死を選ぶという線は、もうないだろう。
ない……はずだ。
そう思わせて欲しい。
「難しい顔をしていますね」
椅子に座って干からびていると、その様子をニマニマ眺めていた先輩お嬢様から声をかけられる。
初対面時のキレはどこへやら、随分と丸くなった。
「馬鹿も馬鹿なりに考えるんですよ。色々ね」
「あら、私は何も言っていないのに、随分と卑屈な返答ですこと。——ちなみに、私はその『馬鹿も馬鹿なりに考える』というスタンスは否定派です」
「へぇ。その心は?」
「考えてもみてください。要するに、自我を持って動く無能ということですよ?どうです?」
「最悪っすね」
確かにそう言われると、頭の悪い人にはあまり自我を出して欲しくないかもしれない。
真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である……なんて言うからな。
もっとも、こんな事を他所で言おうものなら大顰蹙を買いそうだが。
相変わらず、この財閥令嬢には道徳心とかがないらしい。
と、俺は、大机の中でも何故か真隣に座っている雪海に聞く。
「というか、今日は一段と距離が近いですね」
「ふふ、そうかしら?」
「……」
佐山家との対峙や、桜花の炎上騒動から一週間ほどが経過した。
全ての鬱イベントを回収したため、ついに平和な時間が流れ始めているのだが、それはそれとしていくつか不可解な事が起きていた。
その一つが、雪海の距離感である。
相変わらずパシリのように、放課後に絵画制作を手伝わされている俺。
のはずだが、彼女は何故か俺にぴったりとくっ付いて来ていた。
作業しにくいなんてものではないように思う。
当然、その大迫力な胸も押し付けられているわけで、意識しないようにするのも難しい。
まるでエロゲのヒロインだな……なんて思って、すぐにその通りだったことを思い出して絶望する。
しかもこの人、何故か今日は体操着姿だ。
何気に初めて見た姿に、俺は一つ疑問に思う。
「あれ、そう言えば七ヶ条先輩、球技大会では会いませんでしたね」
「はい。そもそも参加していませんから。会っていないのも当然ですよ?」
「不良じゃないですか。全員参加イベントだったのに」
「三年は受験もあるし、参加自由だったのよ」
「え、そうなんですか? サボり扱いしてなんかすみません」
「うふふ、嘘よ」
「おい」
「というか、何? そんなに見たかったの? 私が運動しているところ」
妙にエロい言い回しをされ、俺は少し椅子を引きつつ、距離を取る。
それに、見たいかどうかで言うと、頷くしかないのが男の子の性だろう。
なんてやっていると。
「おじゃまー」
断りもなく、女子生徒が美術室に入ってきた。
今日は奥の個室ではなく、教室の方で作業をしていたため、当然そいつと顔を合わせる事になる。
まだ見慣れないショートヘアの季沙は、俺達を見てニヤニヤした。
「おー、今日もやってんねー。流石は財閥令嬢を堕として縁談キャンセルさせた色男だ」
「勘違いされそうなことを言うんじゃない」
「あら、事実ですのに」
「七ヶ条先輩も乗ってこないでくださいよ」
言いつつ、少し珍しいと思った。
この人、意外にまだ俺以外にはあまり冗談を言わないのだ。
だからだいぶ変わったなぁなんて思っていたところ、やはり当人も恥ずかしかったのか、顔を赤くして席を立つ。
そのまま画材を回収すると、奥の個室へ帰ってしまった。
相変わらずコミュ力が雑魚過ぎて心配である。
と、残された俺と季沙は顔を突き合わせる。
そして。
「ヤッた?」
「何を」
「いやまぁ、しのりんには黙っといてあげるから」
「気遣いはありがたいが、何も起きていないので安心してください」
「にしてもしのりんにセンパイ、桜花様にうちまで仕留めるとは。とよちんってばマジでたらしだね。けだもの~」
言われて顔を顰めるしかできないのが苦しい所だ。
ここまでの俺の奔走が本当に意味ある事だったのか、今一度考えさせられて辛くなる。
本来その評価は暁斗へ向けてもらうはずだったのに、どうしてこうなった。
ちなみにその暁斗自体は、今のところ誰とも恋仲になる様子はない。
強いて言うなら葵子と良い感じではある。
「っていうか、白城の事を桜花様って呼んでるのか」
「まぁね。周りは誰も気づいてないっぽいけど、うちらは正体を知っちゃったからさ。やっぱ尊敬的な?」
「ただの口が悪いオタク女だぞ」
桜花の件は、俺達のグループ内では流石に周知になってしまった。
みんな口が堅いから、隠し通せてはいる。
本人も問題ない様子で、前より元気だ。
というより、登校を再開してからは元気過ぎるくらいで、俺は困り果てていた。
「オタクって、それはとよちんのって意味?」
「……」
「モデルバレはまだしてないけど、桜花様がとよちん狙いなのはもうみんな気づいてるからねー。ついでに、そのせいでしのりんが不機嫌気味ってのも今熱いニュース」
ここは学園だ。
流石にここまでヒロイン達から露骨に好意を向けられると、他の生徒達にも噂が広がるわけで。
俺自身、周りからの視線を感じるようになっていた。
とっくにモブとしての域は越えていると言って過言ではないだろう。
もっとも、転生体という事で元からスペックだけは高かった俺だ。
化けの皮が剥がれてきただけとも言える。
なんて考えていて、引っかかった。
俺は首を傾げ、隣でケラケラ笑う美少女に尋ねる。
「うちまで仕留めるってなんだ?」
「んー?」
「いや、さっきだよ」
俺を女たらしだのけだものだの言っていた時だ。
他のヒロイン達に並べて、確かに自分の事も言っていた。
それすなわち。
「えー、当たり前っしょ。あれだけ助けられて、好意持たない方が意味不明じゃね?」
「……え?」
まさかの展開に、目を見開く。
そのまま俺はつい先月に、別の少女に聞いたのと同じ質問を口に出してしまった。
「それって……もしかしてお前、俺の事好きって事?」
言った後すぐに、前回の羞恥体験が呼び起こされて後悔した。
意地悪く歪む季沙の表情に、体が強張る。
俺はまた間違えたのだ。
「う、うおー。流石に自分で言うのはキツ過ぎんね。ぎゃはは」
「お、お前が言い出したんだろ!」
「え、何の話?」
「急に梯子外すのやめろ!」
流石に誘導冷笑が過ぎる。
サイテーだコイツ。
と、恥ずかし過ぎて悶えていたところ、季沙は耳打ちしてきた。
「ま、好きに解釈してくれていいよ?」
「どういうつもりだよ」
「あはは。マジウケる」
恥ずかしかったのか、すぐに距離を取って髪を弄り始める季沙。
揶揄ったり照れたり、忙しい奴だ。
しかし彼女は、そのまま最大限の照れ隠しをしつつ、告げる。
「あ、でもうちは非処女だからね。処女コレクターのとよちんの好みじゃなかったかな? 嫌ならいーんだよ?」
「お前、相変わらずエグい下ネタ大好きだな」
本心がどこにあるのかは知らないが。
あんな事件があったのに、それを軽口としてこうして笑い飛ばせるようになったのは、間違いなくこれまでの頑張りがあったからだろう。
そんな事を思って、気まずいながらも嬉しく思った。
……って、待てよ?
頷きかけて俺は絶句した。
もし仮に、本当に季沙が俺に好意を向けてくれていたとして。
それは明確に、おかしい。
これまでとは明らかに流れがおかしいのだ。
だってコイツ、原作ですら攻略不可の、サブヒロインなんだもの。
そんな奴が、何故モブキャラ風情の俺なんかに……?
「こっち見過ぎでしょ。きもーい」
息をする様に暴言を吐いてくる陽キャギャルに、俺は戦慄を覚えるのであった……。
―◇―
【柊季沙・Extra Route】
暁斗への好感度:50%(→)
響太への好感度:?%(↑↑↑)
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今回をもって2章は完結とさせていただきます。
とは言え、自分でも思った以上に重くなり過ぎてしまったため、ちょこちょこ改稿する可能性があります。
具体的に、二話くらい追加で挿入するかもしれません。
その日が来たら、良かったら読んでみてください。
続いて第3章についてですが、勿論書きます。
こちらは全体的にポップなラブコメ回が連続する予定なので、是非読んでいただきたいです。
夏と言えば?なイベントを、ここまで培ってきた関係値の中で、新たな響太の暗躍を含めてわちゃわちゃ書いていきたいなーと、思っています。
ただ、投稿時期は未定とさせてください。
以前同様にプロット整理の時間もありますが、この間に裏で、本作に関連する重要な作業に本腰を入れたいので、一旦は『冬頃までには投稿したいな』程度だと把握お願いします。
気になる方は、よかったらX等を確認してくださると幸いです。
ここまでお付き合いありがとうございました。
是非、今後ともよろしくお願いいたします……!




