表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/47

第40話 簡単に破滅回避はできないモブ

 その日の勉強会もいつも通り行われた。

 俺達が事件に巻き込まれていた事なんかお構いなしに、当然世界は回り続けているわけで。

 中間テストは既に目前に迫っている。

 忘れかけていたが、人生一周目の学生にとっては当たり前に重要な時期だからな。


 と、そんなこんなで気づけば日が傾く時刻まで経過していたのだが。


「あの……勉強会は終わったんですけど、まだ何か?」


 俺は現在、再び拘束されていた。

 場所は美術室奥。

 私物化されたお嬢様専用アトリエだ。

 そんな中で、帰ることも許されずにただ立たされている。

 しびれを切らして言うと、七ヶ条雪海は笑った。


「あら。随分とつれない事を言うのですね。先程はあんなに熱烈に私を口説いていたくせに」

「……はは、冗談きついな」


 じわっと汗が滲み出す。

 五月も中旬であり、もうじき衣替えのシーズンだ。

 茶目っ気たっぷりな言葉に、思わず俺は目を逸らした。


 ……なんて、当然、暑さのせいで汗だくになっているわけではない。

 今俺の真横に立っている、この場にいるもう一人の女への恐怖で、俺は冷や汗をかいているのである。


「ふーん。随分二人で話し込んでると思ってたけど、やっぱ口説いてたんだ」

「い、いや、言葉の綾だから!」


 そんな隙を見逃さずにツッコんでくるのは、羽崎梓乃李。

 破滅ヒロインという属性に違わぬ闇の雰囲気を纏いつつ、俺に凍えるような目線を寄越してくる。


 ……と、しれっとこの場に馴染んでいる彼女だが。

 勉強会が終わった後。

 俺が雪海に引っ張られて行くのを見て、『私も中に入ってみても良いですか?』とか言って付いてきたかと思えばこの有様である。

 どうやら本気で俺の事を監視しようというつもりらしい。


 先程のやり取りの後だ。

 ただでさえ、前から俺が他の女と会話しようものなら機嫌を損ねていた梓乃李。

 それが明確に告白紛いの事をした直後ならどうなるか――というのは、火を見るより明らかである。


 そんな状態で、雪海の危うい話題振りは本気で洒落にならない。


「っていうか、口説いてきたのは俺じゃなくて向こうで――あ」


 しかし、即座に弁明しようと焦ったのが間違いだった。

 余計な事を口走り、咄嗟に口をつぐむが後の祭りである。


「へぇ……そうなんだ? さっきって、私と話す前だよね? あの前に他の女に言い寄られてたんだ? で、私にあんな事言わせたんだ?」

「お、落ち着いてくれ。先輩の方は冗談だから。な?」


 梓乃李の一段と凄んだ声音に、先程まで滲む程度だった冷や汗が滝のように流れ始めた。

 口を滑らせたのは、ここ数日考える事が多過ぎて脳がパンクしていたせいだと言い訳したいところだが、今更もう遅い。


「別に何でもいいけど? 私は君の彼女でも何でもないんだからさ。好きにすればいいんじゃない?」

「そう言うなら、睨みつけてくるのやめてください」


 言動が矛盾しているが、ツッコんでも仕方ない。

 相手は闇属性の最上級とも言える女だ。

 こうなるともはや、穏便に雪海の方から矛を収めてもらうしかない。


 がしかし、そこの女がそんな素直な性格なら俺は苦労しないわけで。


「まぁ、冗談だなんて……。うふふ、卑怯な逃げ方ですね。責任は取ってくださらないという事ですか?」

「あの、もうわざと言ってますよね? 俺のつま先が完全に潰れる前に勘弁してもらえると助かるんですけど……ッ!」


 気づけば俺の足は梓乃李によって踏まれていた。

 校内用の低防御力スリッパなため、ダメージがダイレクトに響く。


 にしても、改めて最悪な状況だな。

 共通ルートのうち二人のイベントをこなしたは良いが、そのせいで二人から好意を向けられる結果となった。

 梓乃李の破滅エンドの巻き沿いを回避しようと躍起になっていただけなのに、気付けば自身が破滅ルートの渦中に入っていたという本末転倒な事態である。


 とは言え、嘆いても状況は好転しない。

 こうなった以上、上手く切り抜けて原作とは異なるルートから梓乃李の自殺を防ぎ、自分の命も繋ぐしかないのだ。


「そう言えば七ヶ条先輩、受験するんですよね?」


 話題を変えるためにも聞くと、雪海は筆を置いた。


「そうですね。別に興味はないのだけれど、とは言え大学を出ないというわけにもいかないので」


 流石に名門のお嬢様が高卒では世間体が悪いといったところか。

 と、そこに梓乃李が口を挟む。


「じゃあ後輩にちょっかいかけてる暇なんてないんじゃないですか? ただでさえ絵ばっかり描いてるし、勉強しておかないと行ける大学もなくなりますよ」


 ……いつの間にこの女は、学園最恐のお嬢様に正面から喧嘩を売るようになったのだろうか。


 すまし顔で放たれる言葉。

 しかし俺にはそれが嫌味にしか聞こえない。

 だってこれ、『私の幼馴染から離れろ泥棒猫』くらいの意味にしか思えないんだもの。

 そして、雪海も同じように受け取ったらしい。


「ふふ、貴方には関係ないでしょう?」

「私は先輩の事を心配してるだけです」

「物は言いようですね。ですが、私を落とせる大学なんて存在しませんよ。財力面でも、能力面でも」


 言うや否や、雪海はニヤニヤしながらデスクの引き出しを漁った。

 まるで待っていましたと言わんばかりの反応だ。

 嫌な予感がしつつ、渡される紙束に視線を落とす。


 中身は全国模試の結果だった。

 どの結果にも、転生体の俺ですら見た事がないような輝かしい順位が載っている。

 なんなら、一位というあり得ない数字すら見えた。


「な、なにこれ……」


 戦慄する梓乃李に、雪海は意地悪く笑みを歪める。


「それで羽崎さん、なんでしたっけ」

「……えと」

「私の成績の心配をしていただけるのは嬉しいのですが、そもそも数少ない私の勉強時間を、自分達のテスト勉強に割いて欲しいと頼んできたのは誰だったでしょうか?」

「あの、それは」

「うふふ、そんな顔をしないでください」


 雪海は、どうやら梓乃李をいじめるのにハマったらしい。

 悔しそうに顔を歪めて黙る梓乃李に、彼女は正論で淡々と殴り返していく。

 随分と楽しそうだ。


 復讐というしがらみから解放された直後。

 様々な苦悩を乗り越え、ようやく吹っ切れた晴れやかな表情にも見える。

 もう少し健全な笑顔だと俺も嬉しいのだが、まぁいいか。

 ここまで愉快そうな表情を見るのは初めてな気がする。

 

 もっとも、この二人の小競り合いは俺にとって迷惑極まりないので遠慮してもらいたいところだがな。


 だって考えてみろ。

 羽崎梓乃李は破滅ヒロインであり、原作では暁斗という自分の想い人が他の女と正式に付き合い始めただけで自殺する女だぞ?

 そして現状はと言うと、その想いの対象が暁斗から俺にシフトしているだけで。

 となると、雪海からも好意を向けられている今の状況は、全く安心できるものではない。

 いや、なんなら最悪の展開なのでは?


 あぁ、不安で今度は寒気がしてきた。


「ふふ、うふふふふふ……」


 見透かしたような顔でこちらを見て笑う雪海。

 俺にはその顔が、悪魔のように見えるのであった。





 なんて、温い日常パートは一旦ここまでにして。


 今回、俺は複雑な事件に巻き込まれた。

 発端は去年行われた雪海への暴行事件だが、そこから派生して規模は拡大。

 結果として雪海の復讐や、その情報に踊らされた元クラスメイトの介入、他にも雪海の暴行事件の件で割を食っていた加害者家族の暴走など、どろどろに縺れまくった事件に発展していた。

 それを俺と暁斗の手によって解決させた――と言いたいところだが。

 実はこの件、まだ終わらせるわけにはいかない。


 今までに明らかになった事だけでは、絶対に説明がつかない点が多く存在しているのだ。

 何故、俺の動きを亜実達は正確に把握していたのか。

 そもそも本当に彼女は俺の脅し動画の粗に、自分の力で気づいたのか。

 それと下校途中に出くわした早瀬だが、果たしてあれは本当に偶然だったのか。

 事前計画だったとしても、何故あの道を知っていたのか。


 確実に、いるのだ。

 俺の情報を相手側に売っていたはずの人間が一人。

 それも俺の狭い交友関係に入り込んだ、身近な場所にな。


 雪海から解放された夜。

 俺は暗闇の中、とある人物に指定された場所へと向かった。

 潮の匂いが鼻に抜ける、海沿いの公園。

 デートスポットという事もあり、周りには大学生くらいのカップルが多くいる。

 併設された水族館の方はライトアップされ、中々に雰囲気も出ていた。


 そんな中、俺を呼び出した張本人は闇に溶け込むように立っていた。


「さて、事情聴取をさせてもらおうか」


 着くや否や、俺は苦笑しつつそいつに声をかける。

 彼女も困ったように笑いながら、それでもっていつものようにおどけた声を出した。


「あはは、ここでドーンと黒幕登場の激熱展開! 的な?」

「……」


 キャップを被り、アウターの下はキャミソールとショートパンツという初夏なコーデ。

 私服姿もイメージ通りなギャルっぽい女だ。

 俺の数少ない友達であり――ここ最近、圧倒的に動きがおかしかった唯一の存在である。

 そんな彼女は俺の無言を受けてまた苦笑し、観念したように口を開いた。


「とよちんはさ、もう大体気付いてるんでしょ?」

「まぁ、大体は」

「うーん、そっかぁ。じゃあ仕方ないかぁ……」

「……?」


 諦めたように絞り出す彼女に、要領が得られずに首を傾げる俺。

 彼女――柊季沙はそこで、珍しく真顔で言った。


「うちも脅されてたって言ったら、とよちんは助けてくれるん?」

「――え?」


 陰で敵側に付いていた友人からのまさかの言葉。

 事態は、思わぬ方向へと転がっていく――。

 大変お待たせしました。

 本日より、第2章の連載スタートに伴い、投稿活動を再開します。

 プロット自体は2章末まで完全に作り終えているので、安心して読んでいただけると幸いです。


 更新頻度に関してですが、そちらは以前告知した通り隔日での投稿になる予定です。

 長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 それと、2章で完結させると前もって説明していましたが、もっと長く連載を継続する予定に変更しました。

 少なくとも共通ルートの終わりまでは書きます。

 というか、プロットを作っていたら2章では区切りまですらまとまりませんでした……。


 全力で面白い物語を書けるように努めます!

 それでは今後とも、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ