第33話 打合せ
「セリーナ、アラン、イグナティウス、集まってほしい」
ここにはミレットは呼ばない。彼女には料理に専念してほしいから。
ローグは現状整理と今後起きうる状況を伝えることにした。
「今見ていたように、今後鉄鉱石の事業は安泰だろうが、直接的な嫌がらせはもちろんのこと、今晩か明日の夜に暗殺者が送られるのではないかと思っている」
「ああ。そうだろう。帝国では、不穏分子が出た場合不慮の事故に合うことが多かったからな」
イグナティウスが私の言葉に続け、アランがバトンを受け取った。
「彼(ルイ・オーネスト侯爵)がここで大人しく引き下がるとも思えません」
「また、返り討ちにしてやればいいのよ」
とセリーナだけは余裕そうにしている。
「前回はドミニクに頼んだが、次はお抱えの暗殺者を直接仕向けてくるのではないかと思う。冒険者レベルでいうところのA級以上が複数人いると考えて行動した方がいい。そう想定すると、セリーナ、イグナティウス、そして私は自分の身を守ることができても他の人間を守る余裕まではないから、我々にできることは、、
①戦力アップを目指して鍛える。
②スラム街の制圧
③モリス公爵との提携を強めて手を出せない状況を作る
④ルイ・オーネスト侯爵の失脚ネタを集める
⑤トラップの設置
まぁ、こんな感じかな、と思うがどう?」
「ローグ、あなた珍しく考えてるのね」
「珍しいとは失礼な。いつも考えてますよ」
「ただ、すぐに戦力アップは厳しいし、スラム街の制圧も無理だ」
「そうですね。私たちがすぐ強くなることはありませんので、しばらくはご迷惑をおかけすることになるかと思います。だけど、ローグさんやセリーナさんの魔法を見て、我々も強くなりたいと思って、できるものは魔法の練習を始めています」
「魔法できる人を集めて、衛兵のような組織も作りたいんだよね。セリーナに先生を任せたいんだがいいかい?」
「え、ええ。いいわよ。冒険者ギルドでしたことをここでもしたらいいんだよね。任せておいて」
「トラップの設置とは、いったい何をするのでしょうか」
「まぁ、それはおいおい、かな」
「暗殺者対策まったくできてないけど大丈夫か?」
「今回は、こっちから奥さんに挨拶にいくよ。実はいいネタを持っていてね」
「ふーん、どこから仕入れてくるのかしらね。いつも夜抜け出してどこに行っているのかしら」
セリーナが疑いの眼差しを向けてくる。そして、その通りあまり言えないお店で楽しんでいた私はさっさと話を終えることにした。
「まぁ、そういうことだから、大丈夫だ。任せておいてくれ」
私は、有言実行の男。すぐに作戦に取り掛かった。
決して居心地が悪くなったからとかいう理由ではない。
こうして私、ローグは、ルイ・オーネスト侯爵邸にやってきた。
門兵がいるため、正面から入ることはできないだろうし、堂々と、奥様に会いたいとお伝えしてもいきなり行って会えるものでもない。
そこで、しかたなく、部屋に侵入して置手紙をすることにした。
拝啓 ルイ・オーネスト侯爵夫人様
いきなりのお手紙でのご連絡申し訳ございませんでした。
しかし、内容を考えるとこれ以外の方法が考えられませんでしたので、失礼を承知で書かせていただきました。
それは、半年ほど前のことでした。旦那様が娼館の女性と一緒に部屋に入るのを見つけてしまったのは。それから、よく観察すると、月の見えない新月の夜の前後によくお会いになっているのを見かけるようになりました。その女の名前は、マリー。仮の名前でしょうが、そう呼ばれていました。赤い長い髪に青い瞳をした女性です。
このようなことはよくあることなのでしょうが、それでも今回お手紙を書こうと思ったことは、その女性を新しい妻に迎える、と旦那様がおっしゃっていたのを聞いてしまったからです。
どうか、真偽のほどお確かめください。
奥様に明るい未来がありますように
敬具
長い文章になってしまったが、これで内部告発と思われるだろう。
というか、ルイ・オーネスト侯爵の女癖の悪さは執事たちの中では有名な話で、風魔法で情報を仕入れているとどんどん分かってきた事実であった。
新しい妻に迎える、というのも、その場限りの甘い誘い文句であって、本気ではないだろうが、重要なことはそこではない。大事なのは、奥様の琴線に触れるかどうかだ。ふふふ。
日頃の不貞に足をすくわれたな。ルイ・オーネスト侯爵よ。
娼館通いも立派な情報収集とこれで胸を張っていえるものだ。はっはっは。
モリス公爵の口癖がうつってしまったようだ。
奥様の足止めが成功すればいいが、その前に暗殺命令を出す可能性もあるので、仕方なく偵察として、館に魔力を忍ばせている。これで館の話は全て筒抜けである。
現状まだ暗殺命令は出していないようで、執事との会話を盗み聞きする限り、今日の夜遅くに命令を下すようだ。
さて、一度帰って、また夜にお邪魔するとしよう。
さらば。
それから数刻後、また屋敷に来ていた。静かに状況を見守る。
お、一人しかいないはずなのに話し始めた。
熟練で気づけないのか、それとも私の知らない伝達手段があるのだろうか。どちらにしても油断のできない相手である。
しかし、それは暗殺者の話。ルイ・オーネスト侯爵の話は筒抜けなのだ。ふははは。おっといけない。ここでばれてはいけないからな。
ふむふむ。おお、露店の商品に毒をもって、たくさんの死傷者を出した後、その責任を追及し、営業で禁止にして、責任者を死刑にするのか。
なんてこった。最悪じゃないか。思っていたより最悪だ。危なかった。社会的制裁をくらっては勝負にならない。こういう戦い方もあるんだな。手に力が入り、背中に知らず知らずのうちに汗をかいていた。
具体的な毒の盛り方は、、、任せるのね。
やり方は分からないが、毒だと分かっていれば鑑定で対処できる。
どのような形で妨害をしてくるか分からないので、慎重に行動しなければ。
まずは明日、早速モリス公爵に相談してみよう。
静かに館を立ち去り、セリーナとイグナティウス、アランに情報を共有してから私はベッドにもぐりこんだ。




