第29話 襲撃
ロイ君家族が店で手伝うようになって一週間。だいぶ慣れてきたようだ。
姉のシャルロッテは料理に興味を示し、ミレットの手伝いをしていた。
妹のシャルルは姉シャルロッテのそばで最初は一緒に見ていたがしばらくしたら興味がなくなったのか、つまみ食いばかりをしていたので、違う仕事を与えた。私が風魔法を駆使してバレないようにつまみ食いをしていることは公然の秘密である。
お母さんは苦労してきたのだろう。顔に苦労がにじみ出ている。最初のころは頬がこけ細り碌に食べていなかったのが分かった。少しずつ栄養のある食事を摂り健康的な肌が戻ってきたものの、手はカサカサしており、髪もかなり傷んでいる。生きるのに精一杯でおしゃれをすることなど考えられない状態だったことがうかがえる。
そういう風に冷静にロイ君の家族を観察していると、段々と腹が立ってきた。
最初は「お金をもらって衣食住があるのだからわがままいうもんじゃない」などと考えていた自分に対して。
なぜすぐこのお母さんのような状況を想像できなかったのだろうか。
先ほどキッチンから頂いてきたチキンを食べながら心の底から反省した。
「ねぇ、ローグ。最近店番してくれているのはありがたいんだけど、そろそろダンジョン攻略も進めたほうがいいんじゃない?」
「そうなんだよなぁ。しかし、貴族が何かしてくるなら1,2週間は警戒しておいた方がいいと思うんだ。」
「そうよねぇ。しかし、このままだと、私たちが生活できなくなっちゃうわよ」
「あぁ。ミレットのご飯がない生活は考えられない。何としても死守するので安心しろ」
「というか、ずっと家でゴロゴロしてないで働け」
イグナっちは強いので一人でダンジョンに行かせて、護衛を理由に家でゴロゴロしていたのだ。
買い物には付き添うがマジックバックがあるので、一度大量に買い込めば繰り返し行く必要もない。
露店はロイ君の家族がいるので人が足りている。ということでゴロゴロし放題だったわけだ。
ロイ君の家族は恩を感じているので何も言わなくても一生懸命働いてくれるし、そもそも一応男爵である。
貴族相手に色々と言ってくるのは、うちの従業員だけである。
怒ったセリーナもかわいいなぁ。
指摘はごもっともなので仕方なく重い腰を持ち上げた。
というか、さっさとせめてこないへっぴり腰の冒険者くずれが悪いのだ。
他責万歳!
実は、風の噂で貴族もといルイ・オーネストが裏社会に暗殺命令を出したことが分かっている。
上層部は我々をDランク冒険者と認識しており、その程度の冒険者くずれの山賊に依頼したようだ。一方山賊や冒険者の中では我々は有名になりすぎたようで、一向に攻めてくる気配がない。何もしていない相手をやっつけては外聞が悪い。ということで硬直状態が続いているのだ。
現場のわからぬ上司のもとでは働きたくないよね。うんうん。
山賊も山賊で断れなかったのだろう。心中お察しします。
ということで隙を作るために仕方なく私もダンジョンに行くことにした。
「分かった分かった。ダンジョンのボス部屋行って帰ってくるから、みんなの護衛は任せた」
「今日もあの三人だけよ。問題ないわ」
「ここから存在がバレていることにすら気づかない山賊。可哀想なのです」
「丁寧に対応するから安心して」
「丁寧にねぇ。よろしく頼みます。一応依頼主聞けたら聞いといて」
「ええ。きっとすぐに自分から言いたくなるわ」
セリーナってSなのかな。身内には優しいけど、たまに怖い。
11階層の露店はセリーナ、ミレット、ロイ君の家族に任せてイグナっちと二人21階層に向う。通常ならかなり時間のかかるボス部屋に入り、相手にチャンスを与える。
まずはイグナっちことイグナティウスが先に行って対峙する。待つこと10分。どうやら倒したようだ。哀れ、シルバーゴーレム。
次に私が向かう。久しぶりの対面である。前回同様30体のゴーレムになって攻めてくる。今回は一人なので、風で壁を作り、まっすぐこちらに来れないようにした。思うように動けないゴーレムはお互いにぶつかり手間取っている。その間にエアカッターを飛ばして仕留める。うん。余裕。
ドロップアイテムの銀の塊を手に取り、のんびりとミレットのチキンを食べる。あんまり早く出て驚かれてもこまるので、あくまでなんとか勝てたていにするためだ。
ただ、チキンを食べ終わってもまだ5分ぐらいしか経っていない。まぁやることもないし出ると、どうやらイグナっちと同じ10分ぐらいしか経っていなかったらしい。
テントから見てくる冒険者たちがざわざわしている。パーティーでの攻略必須のボス部屋を10分という短時間でクリアして、噂を確実なものにしてしまったようだ。
今更嘆いても仕方がない。きっと聞き分けがいい冒険者たちのことだ。我々を敵に回すような言動はしないだろう。
まだ30分もたっていないが、一応終わったわけだし、戻るか。いや、さすがにまだ手を出してないかな。どうしよう。
「どうする?イグナっち?」
「戻る」
「そうだな」
11階層、露店
「おーい、セリーナ、ちょっと忘れ物して。。っておいどうした。」
「それが怖い人たちがいきなり攻撃してきたのよ」
返り討ちにあったと思われる山賊3人が無残な姿で横たわっていた。
「うわーこわーい。何しにきたのだろう」
やばい、棒読みになってしまった。
「ローグさん、この三人がいきなり剣で切り付けてきたんです。本当に恐ろしくて。
セリーナさんが守ってくださらなかったらと思うと」
野次馬ども
「そうそう」
「こいつら今がチャンスだとか」
「最近ずっとこの辺にいて薄気味悪かったんだよね」
「あいつら、スラムのチンピラだろ」
「ひどいことしやがるぜ」
ふむふむ、順調にこちらが被害者になっているようだ。
「いきなり切りつけるなんてひどすぎる」
「あぁ。まったくだ。どこのどいつなんだ」
「私たちに何の用なのです!!」
ミレットが珍しく本気で怒っている。
「ふん、お前ら一生出会うことのないような方からだよ。たとえ死ぬことがあってもいえねぇな」
「何、男爵である私が会えないような人間だというのか」
なんという猿芝居だろうか
「男爵ごときがいばるんじゃねぇ。もっと雲の上の存在よ」
「ってことは、王様か」
「やっぱり男爵ってのは馬鹿らしい。王様がこんなちんけな冒険者相手にするかよ」
「では、いったい誰だというんだ」
「ふふふ、聞いて驚け。ルイ・オーネスト公爵様だ」
「みんな聞いたな。正義は我にあり」
野次馬
「おい、まじかよ」
「あの噂本当だったんだな」
「公爵に喧嘩売るとか死んだな」
「ルイ・オーネストって王様ともかなり親しいらしいぞ」
「公爵相手じゃ男爵が逆立ちしても勝てねえよ」
「おい、これやばいんじゃないか」
「聞かなかったことにしたほうがいいんじゃないか」
「ああ、巻き込まれたら大変だ」
「おう、さっさととんずらだ」
民衆を味方につける作戦は見事失敗に終わった。
野次馬がいなくなり、テントに三人を入れる。作戦は失敗に終わったが、事実は伝わっただろう。
中に入ってからセリーナが拷問を始めた。
小さい子たちは外で待機してもらう。ロイ君の父親アランは責任を感じたのか残りたいと申し出てきたので、お話合いに参加している。
かなりひどいことをしているように思うが、あくまでこちらは殺されかけたので、例え殺してしまってもほとんどの場合正当防衛になるようだ。
3人からの得られた情報はなかなか有意義だった。
想定通り、ルイ・オーネストの指示で、実際には執事のロバートが依頼。受けたのはスラム街のボス「ドニルク」どいうこと。
大体は知っていたが、知らなかったこととしては、マスターとして店の前にいるのは稀で、お得意さんが来た時だけカウンターに顔を出すらしいということぐらい。
それでも、得ていた風の噂が正しいことが確かめられたので有意義といえるだろう。
さて、成功の報告がなければ次が来るはずである。
その前に反撃開始といこう。




