表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/64

Ep.40 家令の独白






「初めまして、セシリアと申しますわ。あなたがトレヴァント辺境伯家の家令かしら?」



「お初にお目にかかります。トレヴァント辺境伯家で家令を務めております、ウォルターと申します」




王都へ転移した私が真っ直ぐ向かったのは、辺境伯家の王都邸(タウンハウス)だった。



先触れなしに突然現れた『夫人』を、家令のウォルターは少しも動じることなく恭しく迎え入れた。




「奥様にお会いできた折にはお詫びせねばと、ずっと気にかかっておりました」



「お詫び?ウォルターに謝られるようなことが何かあったかしら?」




私は頬に手を添え、何のことかしら?とばかりに小首を傾げて見せた。




「……旦那様のことでございます……トレヴァント辺境伯領での無礼な振る舞い……ましてや、使用人までもが奥様を侮るなど、あってはならないことでございます」




ウォルターは苦虫を噛み潰したような顔で、私に向かって深く頭を下げた。




「顔をあげてちょうだい。確かに、領地邸(カントリーハウス)の使用人は私に対して無礼を働きましたわ。けれど、主が尊重しない者を敬わないのは、彼らにとって当然のことでしょう?」




そう……人は流されやすい。



自分の意思よりも大多数の意見の方へ。


そして、自分にとって楽な方へと。



そんな人間を、私は飽きるほど見てきた。




『義務』『責任』『能力』『品格』




すべてに完璧を求められ、隙を見せないように仮面をかぶれば『可愛げがない』と疎まれ、失敗すれば『努力が足りない』と責められる。



僅か11歳で高位貴族子女が受ける教育よりも、更に高度な王太子妃教育が始まった。




『喜怒哀楽は見せるものではなく、状況に合わせて作るものである』



まず、そう教えられた。



王族としての礼儀作法、教養、その他、いざという時には代理を務められるようにと王太子が学ぶことも、ある程度学ばなければならなかった。



『完璧な令嬢』と呼ばれていたけれど、私は初めから完璧だったわけではない。


周囲に何を言われようと、求められたことに対して最大限の努力をし、それに応え続けた結果に過ぎないのだから⸺⸺





「そのように仰っていただけるとは……まったく、旦那様は見る目がない……」




ウォルターは横に首を振り、小さく溜め息を吐いた。




「ふふっ。今日はね、あなたに用があって参りましたの。お時間いただけるかしら?」




応接室へ移動し、私はソファへ腰を落ち着けた。


ノインはいつも通り背後に控えている。



ウォルターは私に紅茶を供すると、私の斜め前に直立した。


向かい側に座るように促すと、彼は一瞬の躊躇の後、恐縮しながら席に着いた。




「前置きはなしにしましょう。閣下のお父様……つまり、前辺境伯閣下には、第二夫人がいらっしゃったのではないかしら?」




いきなり核心を突いた言葉に、彼は驚愕のあまり目を見開いた。




「……なぜ、それを……旦那様が覚えておいででしたか?」



「いいえ。閣下にはお聞きしておりませんわ。私が独断で調べさせていただきましたの……あなたのその口振りだと、閣下は第二夫人のことをご存知ないのかしら?」




ウォルターは視線を落とし、後悔を滲ませながら当時のことを語り始めた。




「……あの方は、対外的には『第二夫人』とされておりました。ですが本来であれば、あの方は正式な『辺境伯夫人』となるはずだったのです」




前辺境伯夫人と聞けば、誰もがレオンハルトの亡き母を思い浮かべる。



元々、前辺境伯は無骨で口下手で無口でと、女心がまったく理解出来ない男だった。


亡き夫人とも政略結婚で、必要最低限の関わりしかなかったという。



産褥で妻が亡くなると、子が一人では心許ないと分家筋から後妻を娶るよう声が上がった。


前辺境伯は女性に苦手意識が強く、また嫡男のレオンハルトが生まれたばかりだったこともあり、後妻を娶ることを拒んでいた。




「ですが、『不可侵協定』が結ばれる際、新たに妻を娶ることとなりました。そのお相手こそが、奥様の仰る『第二夫人』です」





⸺⸺⸺





ウォルターから聞き出したいことをすべて聞き終えた後、私はノインと共に辺境伯領の別邸へ転移した。



彼の話した内容は、概ね私の予想通りだった。


……まあ、多少なりとも関係はあるのではないかしら?と、最初から感じてはいたのだけれど……




「冒険者ギルドマスターから返事は来たのかしら?」



「はい。先ほど、『明日の午前に』とのことでした」




早い時間を避けたのね。



冒険者たちは大抵早朝から動き始め、昼以降になると戻って来る者や、逆にその時間から動き始める者が増える。


その為、『早朝を避けた午前』は、ギルドが一番空いている時間帯なのだ。



私の立場を慮って、あえてその時間帯を指定したのだろう。




「……さて、まだパズルのピースが足りないわね」




その最後のピースは、私自身が現地へ出向かなければ確認が出来ない。



けれど……その為には、一人説得しなければならない人がいる……


そろりと様子を窺うようにノインを見上げると、無表情な緋色の瞳と目が合った。




「ねえ、ノイン?私、ちょっと出かけたいところがあるのだけれど……」



「では、私が代わりに行って参ります」




どこへ行きたいのか、既に察しているのだろう。


『異論は認めません』とばかりに、ノインの言葉は、きっぱりとしていた。




「……そもそも、どうやって向かわれるおつもりですか?一度も行ったことがない場所へは転移魔法は使えません」




移動に便利な転移魔法の弱点はそこだ。



たとえ、正確な座標が分かっていても、未踏の地へは飛ぶことができない……



……改良出来ないかしら?



思考が逸れそうになるのを引き戻し、ノインを納得させる材料を探す。




「……ねえ。商人ギルドマスターが、今一番欲しい物は何かしら?」




私の意図を読み取ったのか、ノインの眉間に僅かにシワが寄ったのが見えた。




「……そうですね。あの方も『新当主とのコネクション』は欲していると予測出来ますが、それだけでは商談の材料としては足りないかと」




私は頭の中で、あの狐のような男への交渉材料を吟味する。



一つ思い付いたけれど、これで納得させられる確率は五分……といったところかしら。


あとは本人に聞いたほうが早いかもしれないわね……




「ノイン、商人ギルドマスターに面会の申し出を。そうね……『商談』とでも伝えてくれる?」



「……承知いたしました」




返事の僅かな間に、ノインの不満を感じ取ったけれど、私は気付かないふりをして微笑んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ