信仰の街
馬車に揺られて一日程過ごしたミコル達。馬を休ませ、夕食を作り始める。「空中要塞とか欲しいよな……1回1回止めるのも大変だし」料理を作りながらボヤくミコル。「維持が大変だよ。大きさにもよるけど、物を浮かせて動かせる魔法となると」ミコルが野草を作った土鍋に適当に入れていく。「あ!ミコル、これ毒だよ?」「ん、あぁ食えんことは無いぞ?コイツらは茎が生命線だから茎に毒を仕込んで取られないようにしたんだよ」ミコルは誇らしげに語るが少し引き気味のウィルド。「な、ならこれは?」その辺を歩いていたカエルをミコルは鍋に入れていた。「皮は剥いだし食えるだろ」
数分後、鍋からは香辛料の香りが立ち込めていた。「ほらよ、食えよ」ウィルドは皿を受け取り恐る恐る汁を飲む。「美味い。あの材料からこれが生まれるなんて」これでもかと感動の言葉を漏らす。ミコルは誇らしげに胸を張る。「まぁこれが長年の勘って奴だ。食えるか食えないかなんて食ってからしか分からねぇーからな」
シュメリドにもご飯を与え、夜営の準備を整える。「んじゃ私寝るから、なんかあったら教えてくれ」ミコルはテントに入りそのまま目を瞑る。
「ふぁー良く寝たわ。ってか生きてた」軽いストレッチをしながら外に出る。ギラギラと照りつく太陽に妙に汗ばんだ自身。「風呂入りたいな……」ボヤく。だが願いは通じない。「残念だけど、この辺の川は生活で使った物を洗ったりする川だから飲んだり出来ないよ」ウィルドが木陰から現れる。「だよな、下流に向かってる訳だし」また荷馬車に乗り進んでいく。
「なぁウィルド……王族についてなんか分かることはあるか?」「どの王族か語られてなかったから詳しくは不明だけど……この地域は第2王子の管轄区域だから火を得意とする集団としか分からない」紙とペンを渡す。ウィルドが勢力図のようなものを書いていく。「要するに後継争いを起こさせないようにそれぞれに管轄させてると?つまり他の奴らはこの件に関わってこないのか」「いや、関わってきたりするよ……特に王子の土地を奪えるならね。末っ子になる程もらえる分は少ない、だから管轄区域の奪い合いで戦争になったケースもある」「詳しいな。だがウィルドの種族も人間を見限った方じゃないのか?」「そうだね、僕たちの先祖様の時に人々と縁切りをしたって。でも王族は別さ、アイツらは対価を払い交流を続けようとしていた。だから若干流れてくるんだ」片付けを済ませ、馬車に乗り込む。
「うーん、こっちの方が情報収集とか楽だと思ったんだが……なにぶん記憶媒体の違いや、情報統制。そもそも行き届いてない情報があったりして難しいな」まとめて書いていくが、王族の実態が掴めないミコル。結局考えるのやめて、魔法の練習を始めた。
「よーしできた、あとは試すだけだな」荷馬車の窓を開け、外に向かい構える。「ミコル何するの?音が出るのはダメだよ、馬が怖がるから」ウィルドにとめられ、銃口を下げる。鉄の玉がポロポロとミコルの足元に転がる。「これは?」「あぁ、魔法で筒内に爆発を起こして飛ばせないかと思ってな」ミコルがウィルドにも分かるように図を書いていく「なるほど、大砲みたいな感じ?」「そう、大砲だ。小さい大砲ってもんさ」
さらに2日をかけ、荷馬車は1つの街に辿り着く。
「うげー、デカいもんだなぁ。人も多い」教会が埋め込まれた外壁を見上げるミコル。「聞いた事しかないけど、この街では信仰が盛んなんだ。教会をくぐる事で洗礼を受け、この街にいる間はみんな信者ってね」「なるほどねぇ」カルトだろと呟こうとしたミコルだが、参列者は割と普通だった。「うーん、微妙すぎる」「まぁでも噂だと1度入ったら出れないって」ウィルドが怖い顔で脅かすがミコルに軽くあしらわれる「壁壊してでも抜けてやるよ」
しばらく並んでいるとようやく番が来た。「荷馬車と同伴ですか?それでしたらあちらへ」一回り大きな門へ通される。「なんで壁で守る癖に人を入れる時はナーナーになってんだ?」簡単に通してくれた人の良さそうな神父にミコルは尋ねた「何処もそうですよ。戦争があったら避難用の砦にする為です。民間人を巻き込むのは良くないからね」「なんってたか忘れたけど。あれだな、戦争に参加していいのは軍だけって」
この街にいる間は、と貰ったペンダントを見つめる。「綺麗だなぁでも私には似合わないな」胸の間にしまうミコル。「そーかな?ミコルもお洒落すれば男人気高そうだけど」ウィルドがどこからともなくクシを取出す。「やめてくれ、ボサボサの方が似合うんだ」「そっか。あ……宿聞き忘れたね。荷馬車事泊めてくれる場所あるかな」ウィルドの言葉にミコルは頭を抱える。「まじで、くだらん質問したら忘れてたわ」幸いか門の近くには案内所が置いてあった。「ウィルド、留守番頼む。聞いてくるわ」
案内所に入るとチラホラと人が居た。「やーね、今日だけでも2件よ?」「自警団ってもねぇ……」地域民達の会話がボソボソと入る。「えっと、宿案内は……ここか」受付に向かう。「すまん、荷馬車ごと泊まれる宿ってあるか?」ミコルが受付に話しかける。「行商?観光?あぁ形式さ、きにするな。そうだなぁ馬飼いのランドさん家になるがいいか?」手書きの図を見せられる。「なぁに、馬小屋の2階だが藁はたんとある。それに宿泊費は馬の餌代に少し上乗せくらいだ。飯か?メシマズで有名だから食いにいけ」紹介状を渡される。「あぁ、それとあんた見ねぇ顔だな……一つだけいい事教えてやる。俺は要らんがこの街は安さを売りにしてる、その割にサービスがいい。あとは分かるか?」「わかってるよ。チップだろ?」ミコルはポッケからコインを取り出す。「俺はいいって。というかな、門番と案内所とか見たいな街自体の顔になる部分はそういったもん受け取らねぇんだよ」「ほう、ありが────」ミコルが音に気付き外を向く。即人を掻き分け、外に出るとウィルドの周りを黒い覆面をつけた集団が囲っていた。「ミコル!動いちゃダメだよ……自警団を待つしかない、この街のルールだ」ウィルドは土壁で上手く荷馬車を守っていた。「早く降りろよ、ガキ!殺すぞ!」男達がナイフをチラつかせる。騒ぎに気付いた受付の男も出てくる「自警団が時期に来る。待ってな……」ミコルの反応より早く、肩を掴む。「な、」ミコルは絶句する。だが男は変わらぬ様子で見守る。突然白い手が男たちを包み込む。「来たぞ!自警団のジャック」「おぉ!!やっちまえ!」そのまま男達を包み込むと白い手が歪な音を立て地面に消えていく。「少年、怪我は無いですか?それと手は出していませんか?」覆面の男たちは地面に消えたようだ。「大丈夫です、手も出してません」「荷馬車事で構いません、そのまま自警団までお越しください。それとお連れの方も」ジャックと呼ばれた男と目が合う。ミコルは咄嗟に銃を構えそうになる。「ミコル、大丈夫」ウィルドの声に止められた。「お、おぅ。うまい茶くらい出せよな」
ジャックに先導され、立派な施設に辿り着いた。「先程は到着が遅れて申し訳ございませんでした。ささ、こちらへ」ウィルドが、やけに落ち着くように諭す。その影響かミコルはウィルドの見様見真似をしていた。「自警団ってのはこの街の独自ルールらしくてさ」ジャックがお茶を取りに行っている間、ウィルドがヒソヒソと話しかけて来る。ウィルド曰く、自警団はこの街の犯罪を抑制する組織であり。彼らのモットーは不暴力。やり返せば同類になる、だからとめたと。「はぁーん、自警ねぇそんなの待ってたら死ぬことだってあるのにな」「実力だけで王族の執行人第2席まで登り詰めたんだ。逆らう方が無謀だよ」ウィルドがミコルに不安な目を向ける。そもそもその執行人の1人をボコボコにして逃げてきたのにミコルがそれについて余計な話をしないとも限らない。「すいません、待たせてしまって。こちらお茶です、この世界では1箇所しか栽培していない異国の献上品。ラン・プランティリィです」紫がかった液体から赤色の煙が上がっていた。「な、なぁウィルド?」振り向くとそのまま普通に飲んでいた。「こうなりゃヤケだ!」グビっとミコルも飲み干す。「こりゃ美味いとかそんな次元じゃねぇ」「おやおや、気に入られましたかよかったです」ジャックは少し汗を浮かべていた。「模造品にしては品質がいい」ウィルドがぼっそと言い、すぐに口を塞ぐ。「はっは、気付かれてましたか。たかが自警団のトップ、ですが粗茶は出せまいと」「まぁ気にするな、ウィルド」笑いが止まり、お互い向き直る。
「この度は旅ものもにウチの街のもの達が迷惑を掛けたようで誠に申し訳ない」頭を下げるジャック。
「あぁ、それはいいが。もしどうしようもなくて反撃したらどうなるんだ?」ミコルが尋ねる。「僕が来た時点で<悪ある総てを除く排斥の手>が皆さんを締め付け、連行してしまいます」その言葉にピンと来ないミコルにウィルドが補足を入れる。「魔法と機械を併せた魔導具の中でも古い品だよ。名前の通り、人の感情や記憶を検知し、悪意や罪悪感から何をしたか特定してって流れ。でも実物は初めて見る」「な、る、ほ、ど!要するに無関心で殺せば問題ないと」ミコルがニヤつきながら立ち上がる。ジャックはそれに反応し、少し身構える。「まぁ、落ち着け。旅人の戯言だ!その白い手と1戦混じえてみたいんだが、出来たりするか?」ジャックは考えたあと、こちらへと案内を始める。「ミコル、ミコル!ダメだって変なことしたら」ウィルドは焦る。ミコルの顔は明らかにわるいかおになっていたからだ。「ここが闘技場です。加減が効きませんのでご了承ください」「あいよ!」ミコルが駆け出す。狙いを定め、銃弾を撃ち込む。「痛っ……」普通に頬をかすり、血を流し痛がるジャック。「お、おい大丈夫か?」あまりの拍子抜けにミコルは一旦止まる。「避けて!」ウィルドの叫びに転がる。「泣き真似は得意なんですが」何かわからないが、先程までいた場所からは禍々しい魔力を感じたミコルは息を飲む。「やりづれーな、なんかないかな」ミコルの手にはリボルバーが握られていた。銃口が2つ携わった漆黒が火を噴く。「回転装填式の魔道具、旅人はやはりおかしなものを沢山持っている!」一撃目を避けるジャックにミコルは微笑みながら撃鉄の形を変える。「死ななければ大丈夫だもんな」下の銃口から激しい光と共に小さな弾が散らばる。「なに?っと思うかい?言ったろう、白い手は僕の意思ではなく相手の意思を読み取るものさ」パラパラと散弾した玉を弾く無数の手。「すげぇな、分離したそれぞれの弾にまで反応するのな」ミコルは楽しそうにルイスを構える。「えぇ、遅れる事はありますが。確実に弱き者を救える手段です」ジャックが詰め寄る。それに合わせて間合いを取りながら発砲するミコル。「うらららららら!!どうだ、うちのルイスちゃんの力は」「大きくなると精度が悪くなるようだね」1弾も掠らない。「まぁ当たり前と言えば当たり前だ、牽制用だしな。ってことなんだ」口から煙玉を吐き出すミコル。瞬く間に煙が広がり、ジャックは足を止める。「煙ですか」「安心しろ、すってもしにゃしない」ミコルがワイヤーを中に巡らせ、ジャックを縛り付ける。「んじゃ、貰っと」魔力の流れを見てミコルは停滞量の多い場所へ発砲した。「ちっ、躱したか」すぐにミコルはその場から飛び、構える。「引き際が分かるのは歴戦を掻い潜った証拠、久しぶりに滾ります」視界が奪われた中、囮を精製し避けたジャックに対しミコルも少し喜んでいた。「訓練校抜ける前を思い出すよ……ファイア!」懐かしさに浸るように上を見上げ、ジャックが釣られて余韻に浸ろうと目を瞑ったその時を逃さず。発砲、また発砲。「あまり意味はありませんよ」またも白い手に阻害される。「魔導具ってのは魔力じゃねぇーのか?読み取れないなぁ」ミコルが止まり、構える「真似事だが、試してぇーし……ルールラ・ドーレリラ・グメェリズ・フォブラード・ティリアスラ・グェウド<ディスラ・【蓄積】>」ミコルの手に禍々しい何かが集まる。ウィルドは驚きのあまり腰が抜け、ジャックも危機を察したか白い手を沢山這わせ、たてのように展開する。
「ジャック様、会議に遅刻しますよ。お客人もジャック様は忙しいので」淡々と発せられた声にミコルは手を下ろす。「なんだお前」睨まれた相手は顔色一つ変えずにジャックの手を取る。「私は秘書です。失礼します」その言葉と共にジャックは大人しく気の抜けた風貌で手を引かれ消えていった。「なんなんだ?良いとこだったのに」ミコルは散らばった弾を拾いながら愚痴る。「あのまま続けてたらミコルが死んでたよ。感謝しないと」ウィルドが無彩の目を光らせながらミコルの手を見る。「なんでそうだと思うんだ?もしかしてあの女が口元まで襟を上げて隠してたのと理由でもあるのか?」ミコルは微かに女の口元に魔力の流れを感じていた。「そう、あれは二重発声機。昔の人が1人で歌うのに味気ないからって発明したもの」「喋りながら魔法構築か、便利だなぁ」自警団の平団員に案内されながら元来た道を進んでいく。
荷馬車に戻り、案内所で貰った場所へ向かう。「しかし、あの技は撃つ側もやばいな……」ミコルの右手は黒くなっていた。動かすと皮膚がパラパラと落ちていく「ちょっと待ってね。医学スキルA・ヒーリング」光の輪がミコルの腕を包み込み、弾けると共に、黒くなった手は戻っていく。「ほーん、治せるんなら連発しても良さそうだな」不敵な笑みを浮かべ魔力を右手に貯めていく「ダメだよ、2度目打つと魔力が足りなくてそのまま死んじゃう」ウィルドの泣きそうな目に呆れた振りをしながら「打たねーよ、ってかあんなに隙があったらポンポン打てねぇーっての」と軽口を叩く。「ならいいけど……」シュメリドも心配そうな顔を見せている。「なんだよ、お前ら2人とも!現に死んでないだろ?それでいいんだよ。あ、そういやさ」ミコルが思い出したように話し始める。「魔道具って魔法要らないのか?<悪ある総てを除く排斥の手>とやらは魔力の流れが感じられなかった」「そんなはずは無いって言いたいけど。アレはカナリ危ないものだね」ミコルの問いにウィルドが深刻な顔をする。「ジャックはイヒューマ・リテェアシアスだと思う。ミコルにわかるように言うなら、人に似た別の何か。彼らは人の見た目を取るが、総じて寿命は短い。15から20で成長が止まり、そのまま25には死ぬ」「ホムンクルスか、しかしそれと関係はあるのか?私達のとこじゃホムンクルスはていのいい奴隷が精々で、あんな高度な動作はしなかったぞ」ウィルドが紙を広げながら説明し始める。「彼等は従う者、人間や動物に助けられたらそこから一生をかけて恩を返すんだ。で、さっき言った寿命が短いってあるだろ?上手く言えないけどジャックがのし上がったのって30年は昔なんだ。前例がないから、有り得てもおかしいと思うでしょ?」「だなぁ、って事はなんかしらの延命方法があるのか」ウィルドが顔を急接近させ語り始める。「そう!そこで<悪ある総てを除く排斥の手>だよ!あれは改造されてる、寄生生物みたいな感じで持ち主に入り込むだろ?そっから持ち主の寿命を食べるんだ。その寄生された母体が死なないように寄生生物の習性を利用して寿命を与えてる、むかし居た人のおじいちゃんが教えてくれた技術だけど」「それはそうと、なんでジャックじゃないとダメなんだ?」「寿命が短いから吸う効率が高いのと、秘書が操作しやすい」「となると、あの若そうな秘書も結構な歳ってことか」関係の無いことに感心するミコルを他所にウィルドは考察を広げていく。「この街の近くに、魔法より魔道具をメインとした街があるんだ。魔法は慣れるのに時間がいるし、熱かったりとか大変じゃん?特に人間は魔力を持ってないから耐性が薄いし」その街の話を聞きミコルは興味を示した。「魔道具って事は私のルイスたんみたいなのが沢山あるのか!」「いや、ミコルのソレは太古の武器だよ。人間が剣や槍で戦ってた頃のね」
何度も逸れながら話を固めていった。
「秘書が魔力的な何かを仕組んでジャックを傀儡してるのは分かった。でもそれなら今回は私達関係なさそうだね、ってかそもそも何も起きてないし」「だねー、でも万全の注意は必要だよ」