神人の人神
煌華がいるおかげで、湯には苦労しない。
珍しく早起きした煌華に朝から熱い茶を淹れてもらったウィラードは、渋茶で寝不足の頭を無理矢理起こす。
「それであんた達、何者なの?」
所有権を誇示するようにウィラードへ引っ付いたまま、煌華が神人達を誰何する。
「大人の話をするから、子どもは出て行きなさい。」
蓮に追い出された。
「ハルが良くて私がダメなの⁈何でよっ!」
「だよねー。ぼくもお外で待つわ。」
「「「あんたはここ。」」」
全員から駄目出しされて、ハルはしぶしぶウィラードの隣に座る。
「ハル!その女、ウィラードに近づけないでよっ!」
言い捨てて煌華退席。
「蓮さん、そんな目で見ないで下さい。手は出しちゃいませんよ。」
「いや。よくじゃじゃ馬を懐けたなと思っただけで。焔も公認だし、別に構わないのでは?」
「…はぁ。もう少し大人になってくれると、あ、いや。そんな事より。改めて御紹介いただけますか?私はこの商会主のウィラードと申します。」
「あと五十年くらいは変わらないんじゃないかなあ、コーカちゃん。」
にやにやとハルが余計な事を言って蓮に頭を叩かれる。
発言は認められてもお子様扱いは相変わらずのようだ。
「ムイです。よしなに。」
その女呼ばわりされた赤毛の美人がにこっと、微笑み名乗る。
肉感的な美女でタイプでいえばよほどウィラードの好みなのだが、昨日もさもさのまま腹を掻く姿を見てしまっている。
煌華にすら敷かれているウィラードのあしらえる相手では無さそうだ。
「ヨンです。」
差し出された手を仕方なく握る。
「いっ!お、お強いですね。」
覚悟していたにもかかわらず思わず声が出てしまう。ぎうと握り返された手は赤くなっていた。
「おっと、失礼した。悪気は無いので、許されよ。」
「はあ。俺、私はごく普通の人間なのでお手柔らかに願います。」
「幻獣に囲まれてしれっとしていながら普通と言うか。見所あるの。余はハッタじゃ。」
前髪を結い、背を伸ばせば尋常でない美形、いや、もはや神々しくて拝みたくなるほどの身姿がからから笑った。
「ハッタさんはね、神人の中の、ややっこしいけど、人神様なんだって。」
「その説明では分からないだろう。亀は我ら龍と異なり神と契約してこの世に来ている。その神の現し身がハッタだ。」
「うーん。神さま、亀じゃなかったんだけどなあ。」
「お主の神は別物だ。たまにおるのじゃ、無体に転生させる奴が。短命種が生きながらえてもそうそう心が持たぬ、魔落ちするのが関の山だというに。」
「…聞いてはいけないことを聞いた気がする。」
「うむ。言ってはならぬ事を言った気がするが、気のせいじゃろ。」
ハルはわざわざ突っ込みを入れたが、ウィラードは大人対応で丸ごと聞かぬふりをする。
ブライデルには宗教が無いのであまりピンとはこないが、東方へ旅した事もあり神信仰というものは知っている。
どうやらとんでもない御仁がやってきてしまったようだ。
「小金稼ぎの賤しい商人でございます。御尊来賜りまして恐悦至極に存じます。」
来たでしょ、見たでしょ、もう帰って?と慇懃に申し上げる。
「なに、手間はとらせぬ。ふむ、そこの窓際が良いか。ハル、雀卓を。」
「待て待て待て待て。ここにおもちゃを広げんで下さい。」
「いきなり扱いがぞんざいになったの。」
「もうね、このおじーちゃん達大変なのよ?俺、頑張ってよく引率して来たと思う。」
「じじい扱いは止めろというに。余はぴちぴちじゃ。」
女体に変化して腰をくねらせる。
そのあまりの色香に当てられて陶然となったウィラードが間抜けた顔のままハッタに吸い寄せられる。
「いかん、人間には毒気が強かったの。」
言うと、昨日の年齢不詳もっさり猫背姿に戻る。
「ウーさん、コーカにしばかれるよ?」
「はっ、俺は何を…。」
ハルがすっかり温くなった茶を渡してやる。
ずずっ、とウィラードがすするのを幻獣達が見守る。全くどちらが客だか分からない。
「…はぁ。では、御滞在中のお世話はさせていただきます。それでようございますね?」
「それで良いのか?今からでも、なんじゃったかの、」
「ハウンゼル公領。」
「そうじゃ。そこへ、乗り込んで行ってもよいのじゃぞ?」
「で、その後はどうなさるおつもりですか。都一つ壊滅させて、ほとぼり冷めるまで千年隠遁なんて仰らないで下さいよ。」
「それでは駄目ですか?」
ヨンが不思議そうに聞いてくる。
「俺は、俺たちは普通に生活したいんです。人間として。」
「まあ、シロもそうだろうね。あいつもあんたも落ち着かない奴だから。俺は、ネットさえあればいくらでも引きこもれるけど。」
「ねっと?面白いの?」
ムイが食いつく。
「とにかく。ここまでなんとかお上に目をつけられずに来たんですから、ご自重たのんます。お力を貸していただきたい時にはそう申し上げますので、くれぐれも、くれっぐれも、」
「くどい。そなたの言うことを聞けば良いのじゃろう。神をつかまえて、よう言うたわ。分かっておろうの?」
じろとウィラードを睨む。
「雀卓はここに置かせて貰う!」
「勝手になさって下さい、もう。」




