道道
「ふふん、ふん、ふん、ララリリルルルー、」
「まっほーしょうっじょールルリンっ!」
決め台詞を取られて。
「…っはぁ。歌っていましたか。」
がっくり肩を落とす。
「歌ってましたよー。ノリノリで。」
一日中、頭の後ろで歌われたせいですっかり覚えてしまった。
「そろそろ降りてくれませんか。」
「顔が痛いから歩けませーん。」
「あんたは顔で歩くのか。」
「明日も宜しくね?」
「このクソ丁稚。」
「DV旦那はん。」
「降りろ。」
「やーだー。」
「降りろっ。」
「いーやーだー。」
謝るかわりに、出発の時にハルへ負ぶされと背を向けてしゃがんだのが敗因である。
遠慮なく背にしがみついたハルは上機嫌に歌は歌うし歯ぎしりしながら昼寝はするしで、ウィラードの罪悪感はとうに昇華している。
残念ながら煌華同様に焔も魔術師としては破壊専門でヒーラーがいない為、ハルの顔は腫れ上がったままだ。
「あんた、本当は幾つなんです?」
「人間でいうと十ぐらいだよ?酷いよね、こんな子どもに八つ当たりだなんて。」
「剣や竜になるくらいだ。その姿もどうせ偽りでしょう?」
「あ、そっか。」
ポムッと剣に変身。
いきなり背が軽くなってつんのめる。
初めて剣化を見たカリオン達が驚いた。
「幻獣はあんな事も出来るのか?」
「出来ませんよ、普通は。」
散らかった服を拾ってやりながら焔が言う。
「水無の鞘はどうした?」
「鞘?あー、アレか。」
昔、獣人の森で煌華から渡された鞘の事だ。
「アレねー、着心地は良かったんだけど見た目が気に入らなくて。」
「て?」
「どっかやっちゃった。てへ。」
「オリハルコンの塊だぞ、アレでも。」
形が変なのは否定しないものの顔をしかめる。
「少し物を大切にしなさい。」
説教をされた。
幻獣の棲で披露してしまった駄々っ子ぷりに幻獣達からは完全に子ども扱いされているハルである。
服を畳んだ焔がハルも拾おうとしたのを、ナーダルが横から奪う。
「持ちますよ。」
にんまり。
新しいおもちゃを見つけた顔だ。
「うぇ?」
「おー。頼む。」
ウィラードが腰をさすりながら意趣返しに言った。
少しナーダルに遊んでもらってくるがいい。
「こうゆうのにも変身出来ないかな?」
ひそひそ。
「あらやだ、ナーさんてば。うふん。」
くすくす。
妙に背筋が寒くなるが、問題児二人がとりあえずは大人しくしているので聞かない事にし、先を急ぐ。
旧シロン領に泊まるには刻が早すぎ先へ進んできたが、次の宿場にたどり着く前に日が暮れそうだ。
ルルリン隊の少女達に歩みを合わせていたつもりが、ハルのせいでウィラードの進みが徐々に遅れ、護衛のカリオン達おっさん集団がやむなくそれに従って鈍足で歩む。
ナーダルにぬるいと叱責されたのも無理無い事だ。
ルルリンの少女達はよく頑張っている。
シロン領から逃げ出した時、領民のほとんどは獣人の森に移り住み、ハルと袂を分かった。
シロンの事は心配だが、幻獣の采配の下暮らしていくのは恐ろしい。
おずおずと森に残りたいと切り出した獣人達であったが、ハルは元よりそのつもりであった。
ブライデルでもイズーリアでも、獣人の立場は弱い。
いくら自由民だと証だててもまともに扱われる事は無い。
それは幻獣も同じことなので、エリム砦の調停で足止めを食らっていたウィラードに追いつくなりハルは自ら登記上をウィラードの奴隷、主人持ちにしていた。
ハル達について行くということは、先が見えぬ道行きであり、そんな身分に甘んじるという事でもある。
それでも構わないからついて行く、と逡巡もなく言ったのはヌコとモナの兄妹だ。
一方でバニィとモフはすぐ首を振り、幻獣の棲の地下通路で飯屋を開くと言ってハルを驚かせた。
そのおかげでウィラード商会がものになるまでは、彼女達がブライデルの動向の情報源となっていた。
そういう訳で、ルルリン達は大半がイズーリアでウィラードが買った獣人娘である。
と、いっても見つけて来たのはハルやヌコやモナで、ウィラードは金を出し、サインをしただけだ。
それがシロンの意向に沿う行動だと分かっているので、ウィラードもそれ自体は吝かではない。
自身が仲間内で数少ない自由に動ける人間という立場の為に多忙を極め、中々虐げられている奴隷という事にまで目が向けられない分、文句のあるはずもない。
無いのだが。
何故うら若い獣人娘ばかりなのだろうか。
おかげでウィラードの下世話な評判は事実無根の酷い様相だ。
それはさて置き。
成り上がり大店を構えたとは言え、獣人娘達をただ世話してやれるほどウィラード達に甲斐性は無い。
シロンを救け出すまでは金は幾らでも必要だ。
そこで、ハルが何やら熱く語りだしてルルリン隊なるものを結成し、今に至る。
いくら幻獣のおかげで楽が出来るとはいえ、少女達に野宿を重ね強行に帝都を目指す旅は辛いだろう。
旅慣れたウィラード達も足手まといな彼女達を連れ歩くのは本意でない。
しかしイズールで知遇を得たブライデルの青年貴族が、自領に彼女達を招きたいと商会への御用印下賜に尽力してくれたのを無視する訳にもいかず、旅の目的も表向きはそれである。
会ったことがないシロンへの思い入れは無い。だが、自分達の食い扶持、存在意義の為に彼女達も熱意を持って旅を続けている。




