お握りとフレンズ
シロンが伯爵領へ向かってから半月が過ぎた。
何の音沙汰もない。
どうする。
ハルは悩むが相談しようにも大局を見通せそうな者はいない。
「平の社畜に任せんなよな。」
多少はハルの存在に慣れてきたとは言え、シロン不在では獣人の皆様方が居心地悪そうなので日がな一日見張りを兼ねて城壁の上でダラダラと過ごす。
いつか季節は晩秋を迎え冷たい風が吹く。肌寒く人恋しい。
だが、相談どころか話し相手すらいない。
幻獣仲間からも何者呼ばわりされてしまった今となっては、シロだけが唯一の友達というぼっちぶりなのに。
「今頃城で美人のメイドさん達にちやほやされているのかなあ。はー。」
すっかり独り言が多くなってしまった。
「あー、どうするかなあ。」
うがあ、と頭をボリボリ掻く。
フケが落ちる。
風呂に入れと口うるさい友人がいないのでつい洗髪もサボりがちだ。
そもそも賢者の岩に込められたシロンの魔力も尽きてしまい地下の浴場は休業している。
自分で薪を集め水を汲み、湯を沸かせと?そんな面倒くさい事をするくらいなら風呂など不要だ。
どうだ、パンツだって変えてないぞ。
叱言なら聞いてやるから早く戻って来い!
「独りでパンツとか言ってるにゃ。」
不意に下から声が聞こえた。
「キモいのん。この縄梯子取っちゃう方が良いのん。」
「そうするにゃ。」
「うええ?そんな恐ろしい事を言わないで。」
慌てて梯子を滑り降りる。
「何かあった?」
モフとモナがぐい、と包みを押し付けてくる。
「何これ?」
「バニィが作ったのん。」
「おにぎりと唐揚げ。シロン様の好きな奴。きっとハルも好物にゃ。」
「わざわざ届けてくれたんだ。」
ハルはぺこりと少女達の親切に頭を下げると、包みを持って梯子を登ろうとする。
うん、登れない。
「もしかしてメイズを抜けてきた?」
「疲れたにゃ。」
「たくさん歩いたのん。」
「お腹すいたにゃ。」
「これ、食べようか。」
弁当の包みを開ける。
大きなお握りが二つと、大きな唐揚げが二つ。
モナとモフの顔に絶望のふた文字。
ハルは苦笑して二人に一つずつ渡す。
「俺はいいから食べな。」
「でも、」
「幻獣は獣人を食べれるから要らないよ。」
「たたたべないで!」
「美味しくないにゃ!」
「ごめん、冗談。それ食べたら中へ戻ってね。ここは少し危険だから。」
二人はお握りとハルを交互に見てからふるふると首を振りハルに返してくる。
何この可愛い生き物。
つと手を伸ばし、二人の頭を撫でくる。
なでなでなで。
二人が嫌悪感を一生懸命に耐えているのに気付き慌てて手を引っ込める。
ハルは覚悟を決めた。
何があったのか、何をしているのか。
いずれにせよ今ここにシロンは居ない。
どうしたものか、其れを委ねられたのは誰でもない、自分だ。
では、やろう。
シロンの様に。
困難をねじ伏せて、難題を飛び越えて。
愛と勇気を友にして。
彼女たちを守って、のこのこと戻ってきたシロにドヤアと胸を張ってやるんだ。
急にキリッとしたハルに少女達はびくりとする。
いつもふざけた態度でだらりとしている少年だが、やはりコレも幻獣。
異界のモノ、彼らを糧に出来るモノ。
本能で察して畏れ、力ある者と認めて怯えてしまう。
力ある者として―――縋ってしまう。
「シロン様、もう戻ってこないのん?」
「捨てられちゃったのにゃあ。」
手にしたお握りをはぐはぐ食べながらぽろぽろ涙を流す獣人っ娘達。
押し潰されそうな不安の感情。
弁当は口実で、きっと彼女達はそれをハルに直に来たのだろう。
これは食って良い奴だ。
ハルはまたそっと二人を撫でながら、その重い感情を喰らってしまう。
「よし、腹も一杯。外の連中も中の皆んなもなんとかする。迷子のシロも見つけてやる。幻獣の本気、見せてやるぜ!」
「ハル、土下座?」
「土下座にゃ、土下座!」
不安を根こそぎ食べられて、元気復活のフレンズが囃し立てる。
「流石にそれじゃ無理かなあ。」
壁の外に大量に布陣されている兵を思ってハルは苦笑いする。
着々と。
壁は包囲されつつあった。




