閉幕
カリオンの軍勢は次々と現れた幻獣に戦わずして壊滅に等しく無力化している。
ミルガルムの軍勢も黒龍を間近にして流石に幻獣の底知れぬ力を感じ、動けず。
「これは、終いだな。」
リュヘルが呟いて歩きだそうとする。
「待て!勝手に動くな。」
ウィラードが駄剣を突きつけなおす。
「兵でないと言っていたが、本当らしいな。」
軽々と鞘で駄剣を払いウィラードを蹴り飛ばす。
「ぐっ。ぐぇっ。」
転がされてきたウィラードを暇にしていたナーダルが踏みつける。
「リュヘルさんに敵うわけないじゃないですか。サーリフ国って知ってます?この近くの小国ですけどね。主な産物が剣士っていう。」
「産物って言うな。観光資源も豊かだぞ。」
と、リュヘル。
「脚をどけてくれ。…聞いた事はある。剣技の聖地らしいな。」
「そう、それです。あそこのお貴族様ですよー。強いに決まってるじゃないですか。」
「阿保。俺がそんな暑苦しい修行をするように見えるか?行くなら、紹介状くらいは書いてやるぞ。」
「あんたみたいなのにこれ以上鍛えられろって?冗談だろ。」
心底嫌そうにウィラード。
「いや、温泉宿の方だ。鍛えたいならそちらも伝手が無いわけではないが。」
「宿の紹介状だけで。」
踏み潰されたまま、言う。ああ、本当に風呂入って早く寝たい。
「ナーダル、行くぞ。下で手打ちが始まったようだ。」
「はあい。」
「ウィラード、お前も幻獣を連れてついて来い。」
いつのまにかすっかりタメ口である。
馴れ合う事など真っ平なウィラードであるが、シロンの元へは行かねばなるまい。
仕方なく煌華を背負ってついて行く。
ミルガルムとカリオンが蓮を間に対峙する。
八つ裂いてやりたい。
幻獣を側にしても、仇敵を前に怒りを露わにしているカリオンと。
早く本国の連中来ないかな。
リュヘル同様にやる気の無いミルガルムと。
先に存分に味わった憤りをカリオンもまた感じているのかと、シロンは気の毒になる。
「我らの地を訪れたのが数日前の事。いくら短命種でも事を成すのが性急すぎる。」
やれやれと黒龍。
あげく煌華の縁談だと、とぶつぶつ続ける。
シロンとて、ここまで早急に街道を通すつもりなど、無論無かった。
街道を作るにあたり、水場はあるか、馬車は通れそうか。そんな道中の確認と。
人間と獣人と幻獣という組み合わせの旅客を、それぞれの郷が受け入れるかどうか。
最初はそんな緩い旅程だったのだ。
それが。
幻獣の秘密を知り、獣人の長達を掌握し、人間の砦に大穴を開けた。
結果、すとんと一直線の街道である。
「やってくれたな、小僧。」
カリオンがミルガルムからシロンへ目線を移す。
「ええ。…砦が壊れれば、貴方がたと人間の軍勢は対等、いえ、むしろ貴方がたが有利。」
シロンの物言いにミルガルムが何を言い出すんだと睨む。
気にせず、シロンは続ける。
「今までの憎しみを晴らすため、まだここを血戦の場に変えますか?そして人間だけでなく、貴方の兵をもまた喪い、この先々まで累々と屍横たわる、そんな地に変えてしまいますか?」
「剣を下げろと。怨みを呑めと。そう、言うのか?」
「はい。」
「水に流せと!馬鹿な。出来るわけが、」
「するのです、貴方が。それとも子々孫々、戦に駆り出しますか?この、腹立たしい辛く忌まわしい決断を、次の代に押し付けますか?」
カリオンの目が泳ぐ。
本当にこの獣人はひどく優しい。
蓮と焔が労わるように静かに添い立つ。
カリオンがびくと慄く。
「急いてやるな。」
蓮がシロンに言う。
「彼らは気弱く愚かしくだが優しい伸び伸びとした生き物だ。小賢しく生き急ぐ人間と違って、とても良い。我らが慈しむのはそれ故。お前が先に進みたいのなら、この場は我らが預かっても良い。百年でも、二百年でも待とうぞ。」
幻獣時間である。
「ありがとうございます。でも?」
シロンはカリオンをもう一度ひたと見据える。
カリオンは。項垂れるように首肯した。
幻獣二人が居座る二百年。
それを威圧に感じての判断かは、その表情から伺えぬがあまり顔色は良くない。
「ミルガルムさんはいかがしますか?貴方が剣を向ければこちらの幻獣方は必ずカリオンさんにつきますが。」
「そちらが攻め入らぬというなら是非もない。」
「では、今後も、」
「待て。それは約束出来ぬ。」
ミルガルムは分かっているだろうにと苦笑する。
「この砦の有様だ。じきに私は失脚する。今何事か決めても空手形にすぎん。」
「逃げるのですか。」
「何?」
「ご自分の責から、逃げるのですか?と聞いています。」
そこへウィラード達がたどり着く。
「逃げる?ご安心を。これだけの惨事です。私達は責を取らされる。」
リュヘルが低く笑いながら、シロンの開けた大穴を指す。
「違います。獣人達になした事への責をとらぬのかと聞いているのです。」
「捉え嬲り見せしめて射かけ蹂躙した、その責をですか?」
そう。ナーダルが着任してからは一層凄惨な処遇となったが、そもそもはミルガルムとリュヘルの策であった。
「残念ながら、シロン卿。我々の首は売約済みです。そこのナーダルの身柄でよければお好きにどうぞ。」
「ええー?」
ナーダルの笑顔がひきつる。
「いえ。責は貴方がたが取るべきです。貴方がたは獣人達への責を取って、永劫この場で戦を起こさせぬよう、国に約束を取り付けて下さい。」
ミルガルムとリュヘルが顔を見合わせる。
「いいんじゃないっすか?それで。」
「殿下。」
「どうせ、偉い奴は大将達の首なんてどうでもいいんすよ。自分に火の粉がかからなければ。」
「そりゃあそうでしょうが、」
「その為の木っ端貴族ですが。」
二人は肩を竦める。
「お二人の才とナーダルさんの財があればいけるかも知れないっす。」
「殿下に類焼しない為の首でもあるんですが。」
あはは、とジャムスが笑う。
「それこそお二人では役不足っすよ。力にはならないっすけど、邪魔もしないっす。シロンさん、貴方とは。」
何を言いかけたのか。
にやりと笑うだけであとは沈黙を守るジャムスであった。
投稿時間遅れました(汗)




