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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
ニコニコ街道かっこ仮
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ニコニコ街道

「…もしや、この砦の真の責任者は貴方ではありませんか?リュヘル卿。」

 シロンに言われリュヘルは冷笑を浮かべる。

「責任者、と言えるのか。別になんの権限も有りません。何か事が起きた時に詰め腹を切らされるだけですから。」

「そうなんですか?リュヘルさん。」

「ああ。うちの大将は平出だからな。あの首ひとつじゃ軽すぎる。」

「偉い人は大変ですねえ。」

「他人事に言うが、積める金が足りなければお前も、」

 ちょん、と首を搔き切る仕草。

「何事も無ければいいんですよね?じゃあやっぱり猫さん吊るして、いつも通り軽く戦いましょうよ。」

 ナーダルがどちらが猫だか分からない狩の目付きでヌコを見る。

「話を蒸し返すな。幻獣大戦始める気か?」

 うんざりとリュヘル。

「さっきから、猫猫とネコさんに失礼じゃない?」

 ヌコを背に庇い、煌華が定番のボケをかます。

「ヌコです。」

 尻尾の危機が幻獣への恐怖を上回ったのか。煌華に庇われながら、突っ込むヌコ。

 シロンに名付けて貰った大事な名前である。そこは有耶無耶に出来ない。

「ご領主様、」

 さっき煌華から投げ渡された小剣でとんとん肩を叩きながらウィラードが声をかけた。

「こいつらはともかく、私とヌコはとうに貴方に命を預けているんです。今更何を迷っているんですか。さっさと済ませて布団で寝たい。」

 皆、勝手な事を言っている。

 シロンはなんだか楽しくなってきた。

「…そう、ですね。コーカさん、ハル。力を借りますよ。」

「待て、何を、」

 いきなりシロンの魔力が高まる。

 使い手でないウィラード達にも明らかにわかる強力な、力。

「今から路を作ります。名前は、」

 少し小首をかしげ、すぐ、にっこりと。

「『ニコニコ街道』、で、どうでしょう?」



 轟音も舞い上がる土埃も、無い。

 目を回した煌華と、当たり前なのだが動かない小剣。

 そして、一直線に伸びる、路。



 そこだけ。

 砦も。

 森も。

 無い。



 真っ先に我に返ったのはナーダルであった。

 何故か抱腹絶倒の大爆笑。

「あんた、酷いね。道が出来てるよ。」

「はい、作りました。」

 にこにこと、シロン。

「で、何人殺したの?こちらとあちらの陣のど真ん中がど消滅じゃないですか。あっははは。」

 シロンには理解し難いが、何かツボに入ったらしい。

「大丈夫です。異空間をねじ込んで、固定したので元々生命反応はありません。」

「ああん?…被害が無いって?」

「そうは言いませんが。」

 どっかり穴の空いた外壁を見て、肩をすくめる。

「人的被害は無いです。」

「…なんだ。つまらない。」

 言うなりシロンに摑みかかる。

 冷酷は素早くウィラードに切っ先を当てて牽制。

 ウィラードも小剣を抜く。

「なっ、うへえ。」

 刃がでろーんとしている。

 キョロキョロと辺りを見回す風に震えて、向かいの剣に気づいたのか、ぴしっと固まる。

 が、それも一瞬で、またぐにゃる。

「何だその気持ち悪い剣は?」

「何ですか?この使えない剣は?」

 おっさん二人が声を揃え、方やニンマリ、方やげんなり。

 一方、摑みかかられたシロンは易々と手を払い奥袖を引いて床に転がす。

 剣道に加えて柔道空手合気道と一通り嗜んだだけの事はある、危なげない体捌きだ。

 ヌコは気絶した煌華に尻尾をガシッと握られて動くに動けないでいる。

「ああ、ほら。道なんか作るから、」

 床にひっくり返ったまま、ナーダルがまた楽しそうに哄う。

「両軍が出てしまいましたよ。」


「いいなあ。僕も行きたいなあ。いつも上から射るだけなんですもん。斬りたいなあ。」

 シロンに捩伏せられたまま、うっとりとナーダル。

 発言が危険すぎて、助けに集まった兵士達がドン引いている。

 リュヘルは反対にやる気が全くなくなったのか、でろんでろんの小刀に降参している。

 そもそも、もともとからしてやる気など無いのだ。

 砦崩壊の事態に、これは首が飛んだなと諦めて、そうと決まればもう働かないぞと剣を投げ捨てる。

 獣人軍とエリムの兵が更に近づく。

 シロンは、煌華達から魔力を吸い上げて街道を作ったところで、正真正銘の魔力切れ。

 派手な魔術で無双こそ出来ないが、剣ならば振るえるか、と、リュヘルの剣を拾い上げる。

 剣一本ででも。

 己が収めてみせる。

 ようやく煌華から逃げだせたヌコと駄剣を握ったウィラードがシロンの下す命を待つ。


 城壁の外に陣した二つの軍と、城壁にすくと立つ少年剣士。

 オレンジ色の松明の炎が妖しく彼らを照らす。

「行けっ!」

 カリオンの咆哮が風に乗り微かに聞こえた。

「迎撃せよ!」

 ミルガルムの声も、また。

「出ます!」

 シロンが颯爽と。


 その時、街道の奥から。


 獣人軍に悲鳴が沸き起こる。


 まさか、味方軍か?と喜び立つ人間軍の前に現れたのは。


 銀髪の幻獣。

 シロンを睨みつける焔であった。

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