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18.洋服屋

「さて、どこに入ろうかしら」


 そういってメイが立ち止まったのは、軒先に色とりどりの服が並べられた店の内のひとつだった。

 というのも、着いた通りにはところ狭しと服が並べられ、両側には10件にもなるだろうか、見渡す限り服屋が並んでいた。

 色鮮やかな服、登山――いや、冒険者向けかと思われるような実用的な見た目の服など、様々な服が軒先を飾っている。

 ミケはあたりをきょろきょろ見渡していたが、ふとメイの方を向くと疑問を口にした。


「何でこんな服屋ばっか並んでるんだ?」

「んー」


 彼女は指を口に当て、少しの間何かを思い出すようにしていたが、やがて思い出したのか指を離して言った。


「ああ、思い出した。なんか、競争させる為らしいわよ」

「競争?」

「ええ、なんでもここの通りの店のオーナーは全部同じ人で、同じ場所に出すことでいいものを安く売ろうとしてるとか。まー実際は売上競わせてるだけだと思うけど」

「ふーん……」

「そうなんですね」


 何となく納得した感じでうなずくミケとガーウ。

 オーナーが同じならいろんな場所に出したほうがもうかりそうな気もするが、そんなもんなんだろうか。

 考え込んでいるミケと服を興味深々に見ている少女を放置してメイは通りを歩いていく。

 ガーウは服が汚れるとでも思っているのか、決して服には触らずにただいろんな角度から眺めていた。


「おーい!こっちこっち!」


 声に振り向くと、そちらではメイが大きく手を振っていた。

 ミケとガーウはなんとはなしに顔を合わせると彼女のほうへ小走りで歩いていった。


「ほら、ここなんかガーウに似合うんじゃない?」


 そういってメイが指さした先を見るとそこにはふりふり、ふわふわした感じの、いかにも少女趣味の服が並んでいた。

 昔から疑問だったのだが、ひらひらした先についている大量のリボンには何の意味があるんだろうか。


「……かぁ?」


 首をかしげるミケだったが、彼女はその言葉を完全に無視しガーウの手を引いて店の中に入っていく。

 困ったような笑顔でこちらに救いを求めてくる少女と目が合った。


「まあ、よくわからんしな」


 一人っ子で姉妹もいないし、自慢ではないが彼女もいなかったので女物の服については全くの門外漢だ。

 女の子のことは同じ女の子に任せたほうがいい、と考えてミケは店の扉をくぐったのだった。


「ほら、これなんてどう?」

「……」


 試着室から出てきたメイとガーウ。

 その姿を見てミケは反応に困っていた。


「あの、ごめんなさい……」

「いや、まあ可愛いけどさ」


 どピンクのフリフリ服に身を包んだ少女は、その服に負けないくらい顔を赤くしていた。

 赤い癖っ毛と服が微妙にあっていて可愛い。

 ミケの言葉にさらに顔を赤くするガーウ。

 既に顔の色は服の色より赤くなっていた。


「なんていうか、動きづらくないか、さすがに」

「そ、そうですね。ちょっとこれは厳しいかもです……」

「えー、可愛いと思うんだけどね」

「パーティとかだったらいいのかもしれないけど、普段着るのにはもうちょっと動きやすい服のほうがいいんじゃないのか?」

「んー、それもそうね」


 あっさりと言うと、メイはガーウの手を引っ張って再び試着室へ走っていった。


「しかし――」


 そこまで広くない店内には見渡せば女の子向けの可愛い服が所狭しと並べられており、他の客もカップルか女の子同士ばかりだった。

 (気まずい……!)

 一人でぼーっと待っていると、別に悪いことをしているわけでもないのに居心地が悪かった。

 気まずさをごまかすために何となく服の値札を手にする。


「金貨3枚……!?」


 声にならないうめきがこぼれる。

 ミケは二人が消えていった方をみて、高い服を選ばないように祈っていた。


「じゃーん!これなら動きやすいでしょ!」

「メイさん、恥ずかしいです……」


 ガーウはメイの後ろに隠れていたが、メイはさっと少女の後ろに回るとその肩を両手で押さえて逃げられないように固定する。

 上半身には胸を隠すように交差した白い布だけ、スカートも左側はそれなりに長いものの右にいくにつれてかなり短くなっていた。


「踊り子の服よ!」


 ちなみに何故かメイも同じ服を着ている。

 彼女の方がガーウよりも年上のはずなのに、全然色っぽくないのはなぜだろうか。


「あの、どうですか?」


 両手を丸見えのお腹を隠すようにしながらもじもじさせ、こちらを見上げてくる。


「……やばい」

「破壊力満点でしょー」

「確かに……」


 別にそういう趣味はないはずだが、恥じらう姿+上目遣いの破壊力に思わずくらっとする。

 確かに動きやすそうだし、似合ってもいる。

 なのだが――、


「けどこれもだめだな」

「なんでよ」


 ガーウの手をかいくぐってお腹を触ろうとしていたメイだが、力で負けているのかそれは叶わなかったようだ。


「破壊力がありすぎて、絶対襲われるだろ。これ」


 そういう趣味の持ち主だったら迷わずお持ち帰りだろうし、そうじゃなくても危ない気がする。


「んーむ、注文が多いわね。じゃあ、今度はあんたが選んでみなさいよ」

「俺がか?」


 自慢じゃないが服のセンスはない。

 中学高校は土日でも学生服だったし、大学に入ってからはビジネスカジュアルという名目でスーツを着て過ごしていた。

 普通の服屋ではパンツと靴下しか買ったことがない。

 とりあえずあまり高くなさそうな服が並んでいるところを漁ってみる。


「お、これなんかいいんじゃないか?」


 言いながら適当に取り出した服を値札だけ見てガーウに手渡す。

 (銀貨50枚か……。)

 渡された服を持って試着室に向かう少女。

 メイがその服を見て言ってくる。


「ちょっと地味じゃない?」

「別に派手じゃなくたっていいだろ」


 そもそも目立つとまた誘拐されかねないし。

 待つこと数分。

 着替えたガーウが、二人の前に姿をあらわした。


「どうでしょうか……?」

「あら、意外といいかも」

「確かに似合ってるっちゃ似合ってるが……」


 途中で言葉を濁すミケ。

 カボチャパンツにオーバーオールなスカート。

 首につけたままの首輪もあいまって、その姿はまるでハロウィンの仮装のようだった。


「わたし、これがいいです!」


 手を胸元でぎゅと握り、力説するガーウ。


「えー、他のが絶対可愛いって。ほら、これとか」


 メイがキラキラした服を手に取って言った。

 ちらりと見えた値札には、金貨5枚と書かれている。


「それでも。ご主人が選んでくれた、この服がいいんです」


 だめですか、と見上げてくる少女。


「いや、お前がそれでいいならいいけどよ……」


 ……安いし。

 口には出さず、ミケは内心思う。


「ありがとうございます!」


 少女はお辞儀をすると、嬉しそうにクルクル回ってみせた。

 (ま、いっか)

 覚悟していたよりは安くすんだし、嬉しそうな様子を見ているとこっちまで楽しくなってくる。


「んじゃ、会計すませて戻るとするか」


 そういうとミケは、財布の中からなけなしの金貨を取り出たのだった。

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