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うちのチャーは迷子症

koguma009様からのリクエストによりチキの娘にまつわるお話ですっ

思ったのと違った方向へ行ってしまった…


とある晴れた日のグレアム邸――――


「チャー! まったく、どこに行ったんだ?」


 バタバタと走り回るのは金糸の髪にクロのメッシュが入ったまだ幼さを残す顔立ちの青年、タキだ。

 

「探しても無駄だよ兄さん。チャーは気が済むまで出てこないんだから放っておけばいいんだよ」


 慌てるタキを尻目に、庭先で優雅にお茶を飲んでいるのは今年8歳になったルイだ。彼もこの年になると弟妹達の面倒を見るようになり、今は慣れた様子でテーブルの上のひよこにエサをやっている。


 ちなみに、上からタキ、ルイと続き、それからもう一人弟カシが生まれ(かしわから命名)、その下に初である女の子チヤが誕生。さらに下の子は、生まれた時は卵で、現在ひよこの男女の双子、ダグ(すでにニワトリと関係ないが、ダックより命名)とフレル(ユリウスの父命名)だ。


「駄目だ。あの子は目を離すと迷子になるって知っているだろうっ」


「でも、母様と同じで帰ってくるじゃないか」


 ぴよぴよ鳴く弟と妹にエサ…ならぬ、ご飯であるミミズを与えながら呆れたようにタキを見上げるルイは、立ち上がろうとしてその肩を押さえられ、止められた。


 振り向けば、今日、午後のお茶会に来る予定だった銀髪に空の青の瞳を持つ父そっくりの父方の祖父、この国宰相であるアラン・グレアムと、濃い茶色の髪と青い瞳をした体格の良い曽祖父ロランと、白い髪に青い瞳が時々うっすらと赤く見える祖父フランツが勢ぞろいしていた。


「本当にチキにそっくりだね、あの子は。私も手伝うよ」


 フランツはどこか嬉しそうに捜索に加わる。

 とても祖父とは思えないほど若い彼は、一時期チヤを養女に欲しいと申し入れたほどチヤを可愛がっている。そのせいか、この屋敷にも頻繁に顔を出していて、よく迷子のチャー探しをしてくれている。


「ギル、手伝ってやりなさい」


 ロランに言われてどこからかスッと姿を現したのは、ロランの屋敷の執事候補兼現騎士である、ハゲのギルバートだ。

 

 ルイは理由を知らないが、ギルバートの毛は条件が成立しないと一生生えてこないのだとチキが言っていた。

 そんな彼はキラリと頭を光らせながら姿を消し、ロランがルイの隣に座る。


「さて、わしらは待つとしよう。タキ、チキはどこだね?」


「母様ならもうすぐ」


 噂をすれば影、バタバタと走ってきたチキに気が付いたロランが振り向いたところにチキが飛びつき、その後ろを黒髪に金色メッシュの入った息子カシを連れて歩いてきていたユリウスの表情が一瞬ムッと歪んだ。

______________


 その後、タキの説明で再び大捜索が始まった。

 

 お茶の席についているのはロランとルイ、双子のひよこと先程連れてこられた3番目の子供カシである。

 ルイは温めたミルクをカシに与え、今は食べすぎで少し体の膨れたひよこ達を突いて遊んでいる。


「ルイはいかないのかね?」


 ロランの質問にルイは冷めた目を捜索隊に向ける。


「大爺様、あの中に入ったら何が起きるかわかるでしょう?」


 言われたロランは「確かに」と呟いた。




「チャーを見つけた者が一番の功労者としてキスをもらうことにしよう」


「フランツお爺様…。それは…」


 後が怖いので絶対に却下したい案である。

 以前同じ条件で探した時は、父であるユリウスが見つけ出し、キスをもらってべたべたしたせいで母であるチキの嫉妬を買い、ニワトリの母が巨大化したのだ。

 なだめるのに三日かかり、ついでにひよこの双子が生まれたのはそう古くない記憶だ。


「ユリウスが見つけた時は妻であるチキにキスしてもらえばいいだろう。我々祖父組だけキスをもらえばよい」


「アランお爺様っ」


 父の冷えた視線を感じてタキは慌てふためく。


「とにかく、あの子を見つけたらご褒美ねっ。タキ、頑張れ!」


 母チキにいたっては、自分にも夫にも無害な勝者、タキを全面的に応援する。

 


 そうして始まった捜索は、なんと3時間もかかってしまった。




「ことりが連れてってくれたのぉぉぉぉ~っ でも道わからなくなって…お兄ちゃまああああああ~っ」


 勝者はヘンナだった。どうやら買い物に出かけた帰りに屋敷の出入り口付近をうろつくチヤを見つけて連れてきてくれたようだ。


「コケッ」


 ヘンナが連れてきたチキそっくりの娘は、タキを見るなり顔をぐしゃぐしゃにしてぎゅうぎゅうとへばりついた。

 

「お兄ちゃまどこにもいかないって言ったのにチヤを一人にしたぁぁぁぁっ」


「ごめんね、謝るよ。だから、ほら、もう泣かない」


 キュッキュッと目元を指で拭えば、背中にスッと感じるのは明らかなる殺意に近しい何か。


(ふ、振り向いちゃだめだっ、気づかないふりが正しい道だっ)


 背後に立つのは祖父二人と父のはずだが、ひしひしと感じられるのは敵意である。

 身内から敵意…。


「もうひとりしない?」


「しないよ」


 頭を撫でてやるタキに、チヤは満面の笑みを浮かべるとその首にしがみ付いて殺人ワードを放った。


「大好きお兄ちゃまっ」


 背中の敵意がごぉっと膨れ上がる。


「タキ…」


 父の低い声にタキはチヤを抱きしめながらカチッと凍りつく。


(しごかれる…絶対しごかれる…)


 そして、そんなユリウスを見たチキも、むむむむむ~っと唇を尖らせるのだった。


(今夜は嵐だ…)


 タキはがっくりと項垂れるのだった。





「兄さん貧乏くじって言葉知らないのかな?」

 

 彼等の様子をのんびり眺めていたルイがぽつりと言えば、ロランが苦笑いを浮かべる。


「どうだろうなぁ、あれは苦労性とも言うぞ」


 どちらにせよ良いことはなさそうである。


 そんな感想を抱く二人の元に、捜索が空振りに終わったギルバートが姿を現し、ロランが(ねぎら)おうとしてぎょっと目を丸くした。


「ギル…」


 ぞろぞろと捜索組の全員が小さな火花を散らしながら戻ってくるが、彼等もギルを見てピタリと足を止める。


「あぁ、チヤ様見つかったのですね。チキ様に似すぎで困ったお子様です」


 やれやれと言ったギルバートの頭の上に、皆の視線が集中する。


「なんです?」


 首を傾げたつるつるのギルバートの頭の天辺には、ゆらゆらと揺らめく…




「おや、どうやらチヤ様がなさったようですね?」


 いつ、どこから現れたのか、リチャードがチヤの頭を撫で、チヤが嬉しそうに微笑む。


「毛がないとカゼひくのよー」


「それで生やしてあげたのですね。ふむふむ、呪いで…三本だけ」


 ぷっとリチャードが噴出し、ギルバートはさぁぁっと青ざめた。


 毛がない状態よりもなぜか恥ずかしい、3本だけの毛が、ギルバートの頭の天辺で揺れていたのだった…




 その後、ギルバートが真の愛を手に入れて呪いが解けるまで、その恥ずかしい毛は切っても切っても生え続けたという…。




その夜のグレアム邸


チヤ「一番はタキお兄ちゃまっっ♪ あいちてるぅ♪」

タキ「待って、チヤ、これ以上は無理だ…」


すでに剣で散々しごかれたタキは疲労困憊で突っ伏している。しかし、父とタキのそのやり取りを、遊んでいると勘違いしているチヤは二人の仲をさらに深めるために爆弾を投下するのだ。


ユリウス「チヤ、父様にも言ってみなさい」


でないとお前の命はないぞと言った視線がビシバシタキの背中に感じられる。


チヤ「なぁに?」


あいちてると言って欲しかったユリウスはその言葉を娘に言わせたいのだが、自分から言うことはできない。


チキ「ユリウスを一番愛してるのはチキですっ」


むぅと唇を尖らせたチキにユリウスがはっとする。


ユリウス「そうなんだが。チキ、それとこれは違ってだな」




ルイ「皆はああなったらダメだぞ」


ルイはそう言うと、泥沼化していく彼等をおいて、弟達を連れて部屋を移るのだった。



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