「十一章・禁忌の光明」
寂れた小さな村の一軒家。その屋根裏部屋に
間借りして住んでいるという少年を俺とソニア、その他
紅眼の保護チームが訪ねることになった。だが、訪ねた矢先に
俺達に向けられたのは、温厚な村人達とは異なる、明確な拒絶だった。
「僕のことは放っておいてほしいんだけど。
君たちみたいな人には興味ないし。」
そういって、ふてくされる少年。歳は12,3ぐらいだろうか。
両目につけられた大きな傷は、今も痛々しく
確かにぱっとみでは眼球の確認等無理なようにみえる。
だが、傷跡の合間から時折みせる暗い瞳の周りには
システィナのものと同じ、紅さで彩られているのがわかる。
この少年の部屋に俺はどことなく近親感を覚えた。
そう・・・・似ている・・・システィナの部屋もこんな感じだった。
やたらと並ぶ薬品や鉱石の数々。散乱する、難解な書籍。
そもそも、眼が見えないのに点字も打たれていないこの書籍を
どうやって読んでいるのだろう。
村人から話を聞いていたソニアからの
報告も、どことなくシスティナを思わせるものであった。
小さい頃から頭がよく、村の人が病気にかかった時は
よく利く薬草をつかった薬をつくってくれているのだそうだ。
効き目がよく、下手に町の医者にかかるより、よっぽどいいと。
そう、システィナもそうだった。村の誰もが、さすが姫様といって
疑いもしなかったが、あいつの薬は時折、効き目が良すぎることがあった。
12,3歳の子供が薬草を処方して、町の医者よりも効果がある?
そんなことは常識で考えればあるわけがない。
だが、小さな村ではそういう非常識がまかり通ってしまう。
トルトナ村の時もそうだった。
「君が読んでいる本とか、見させてもらってもいいかな。」
俺は、散乱して使い込まれた本やノートを指さして言った。
今の俺は村の中で閉じられた知識しかなかった頃とは違う。
中身をみれば、それが”普通の”12,3歳の子供が
この辺境の村で暮らして身につけられる知識かどうかはすぐにわかる。
「さ、さわるなよ!あっちいけよ!
僕にかまうなっていってるだろ!」
小さな子供の抵抗にかまわず俺は本に手を伸ばそうとした。
「や、やめろっ!」
少年がそう叫ぶと同時に俺は、後ろに吹き飛ばされた。
冗談でも何でもなく、吹き飛ばされた。
俺が、自分の半分の背丈もない子供に、だ。
「あ、あっちいけ!あっちいけ!
あ・・・あぁ・・・ほ、ほらみろ・・・・。
だから・・・だから嫌だったんだ!」
俺を吹き飛ばした後、少年は混乱して何かを叫んでいた。
俺の方はとんだ先が、わらふきの壁だったので、かなり痛かったが
それでも、どうやら無事なようだ。
「フィル総帥、大変です!
あの男が・・・・カシス・ミリキュアールが!」
そういって窓から見上げた空には、世界を支配した時と同じ
ふてぶてしさで、神を名乗るあの男、カシス・ミリキュアールが映し出されていた。




