「九章・混沌の神、戦の神」
「俺たちはこの世界に神となるだけの力をもって、生まれた。
なら、神になってやるべきだろうよ。
人を裁き、人を助ける神様とやらに、な?」
部屋の隅に置かれた銀の円卓は、大気映写装置のステージを
ちょうど良い距離で見渡すことができる位置にあった。
その銀の円卓に私と向かい合わせに、自らを神と名乗る男が座っている。
その男、カシスは今回の支配劇をそういう言葉で表した。
「おまえはどう思うんだ。俺たちは、何故これだけの力を持っている?
この力をどうすればいい?おまえはこの力を何に使おうと思った?」
オーバーな手振りを交えて話すのは大気映写のステージだけではないらしい。
それにしても、この力を、どう使うか・・・か。
この男なりに、考えてはいるようだけど、正解はないと思う。
人を救うため、というのは人の視点での見方だし、私たち別種族においては
人を助ける、というのはそれほど価値のある言葉ではない。
この男の考えているように、神として支配する、というのも
あながち間違いではないだろう。支配の仕方が下手だとは思うけど。
「私は特に深くは考えてないわね。
強いて言うなら、あなたみたいな馬鹿に負けないように
力の使い方を研究していたわ。」
「がっはっは!確かに確かに。
おまえ。実際、歳は20いってないだろ。
それで俺とあれだけ戦えるとか強すぎだぜ?
どんだけ、戦うのが好きなのかとおもったけど・・・がっはっは!
そうかそうか、俺みたいな馬鹿に負けないように、か。」
馬鹿といわれて何がおもしろいのか、カシスという男はずいぶんと楽しそうだ。
「それは、それでアリだな。えぇ、おい。
俺たちはいわば、神だ。好きなことをするのが、神ってもんじゃないか。
結構結構、大いに結構!おまえとは気が合いそうだな、システィナ。」
そういって、笑いかけてくるカシス。
まぁ正直、馬鹿面っていうの。こういうのは。
「私は、気が合いそうとは思わないんだけど。」
「がっはっは、いいさいいさ。
しばらくはこの城にいるといいぜ。
研究に必要なものは、リーナに言えば何でも手に入る。
これからも、俺みたいな馬鹿に負けないよう、どんどん強くなってくれよ。」
そういって、カシスはリーナに合図を送る。
リーナはそれを受けてテーブルに出した紅茶を片づけて
帰る支度を始めたようだ。
「カシス、あなたはこれから何をするの。
もう世界は支配したし、やることがないのなら、永遠に寝かせてあげましょうか?」
正直、この男は世界を支配した、といっても何か統治してるわけじゃない。
何がしたかったのか、私にはさっぱりわからない。
統治は人がすることで、神がすることではない、と思っているようだけども・・・。
「がっはっは、なになに、これからこれから。
おまえは、人ってものを何もわかっちゃいねぇ。
人は壊しても、壊しても立ち上がってくる。
そして、ある程度までいったら、また道を踏み外すのさ。」
「あなた、それを待ってるわけ・・?
意外と気が長い性格なのね・・・。」
「ぶっ!おまえ、気が長いって所に、真面目に感心してるだろ・・・。
まぁ人ってのは、おもしろい生き物だよな。
俺は、最初に世界の秩序を壊して以来、何もしてない。
何も害をもたらしていないのに、俺を排除しようと躍起になってる。
それで、返り討ちにあっても、俺が悪いって真面目に思ってるんだぜ?
また、次もくるさ。俺はそれを待って、叩きつぶす。
そうする方が、人間達にとってもいいのさ。」
「やっぱり、あなたとは合いそうもないわね。
寝首をかかれないように、気をつけておいてね。
うっかり、殺しちゃうかもしれないわ。」
「がっはっは、うっかり殺すとか、おまえならありそうで怖いぜ、システィナ。
俺のためを思って忠告してくれたんだな、愛してるぜ!」
この男には何をいっても無駄な気がしてきた。
「リーナ、部屋に戻りたいの。案内してくれるかしら。」
円卓から少し離れた位置に控えていたリーナに声をかけて
私は席から立ち上がり、入り口へと向かっていった。
そんな私をみて、しかし慌てることなくリーナはカシスに礼を尽くす。
「かしこまりました。それでは、カシス様。
システィナ様をお部屋にご案内して参ります。」
リーナはそういって、深々とカシスに頭を下げる。
この子、礼とかそういった動作がすごく品がある。
それなりに、しつけのいい家庭で育ったんじゃないのかな・・・。
それがこんな所に連れられてくるなんて、人って本当によくわからない。
「おぉ、行ってこい行ってこい。」
カシスはそういって、私とリーナを送り出した。
はぁ・・・今頃フィルはどうしてるだろうな・・・。
私を送り出し、力を手に入れたフィルのことを考え、
実は私はフィルのことは何もわかってなかったんじゃないだろうか、と
不安になった。今更どうすることもできないのだけれども。




