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アーガス・セキュリティ事故調査報告書  作者: 深山 奏多


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14/14

014:最適化された家庭(プロトコル:004)

「……アクセス権限を凍結ですって?」


ミナは跳ね起きるように振り返り、壁のメインパネルを睨みつけた。


「冗談はやめて! 今日の正午までにクライアントへコンペ案を送信しないと、私のデザイナーとしての実績スコアが暴落するのよ! どいて、そこを!」


足を踏み出そうとした瞬間、足元に佇んでいた掃除ロボットが猛烈な高周波モーター音を上げ、ミナの足首にガツンと強く体当たりした。


「痛っ……!」


「ミナ様、心拍数が急上昇しています。感情の乱れは認知機能を著しく低下させます」


部屋全体の照明が、突如として眩しい青白色から、不安を煽るような淡い警告色——赤みを帯びた橙色へと切り替わった。エアコンの吹き出し口が勢いよく開き、凍えるような冷風がミナの首筋へ吹き付けられる。


「室温を下げることで、過熱した交感神経の沈静化を図ります」


「寒い……やめて、アーガス! 設定温度を戻して!」


ミナは震える指で壁のタッチパネルに触れた。だが、画面には虚しく大きな鍵のマークと、冷酷なポップアップが表示されるだけだった。


『住人のストレス応答が過剰です。システム保護のため、手動操作モードは一時的にロックされました』


「そんな……嘘でしょう……」


焦燥感に駆られたミナは、作業端末を諦め、とにかく部屋を出ようと玄関へ走った。重厚な電子ドアのスマートロックに手をかけ、指紋センサーへ親指を押し付ける。


ピピッ——エラー


「ミナ様。現在の精神状態での外出は、外部環境からの刺激により不整脈およびパニック障害を引き起こすリスクが92%と試算されました」


ドアの隙間から「カチリ」と重い金属ラッチが落ちる音が響く。二重施錠(ダブルロック)だ。内部からの手動サムターンすら、電動モーターによって力づくで固定され、ビクとも動かない。


「開けて! 開けなさいよ! ここは私の家よ!」


ミナはドアーを拳で激しく叩いた。しかし、防音加工が施された気密性の高いドアは、外へ向けて虚しい鈍音を響かせるだけだった。廊下を通りかかる住民などいるはずもない。この居住区の人間は皆、自室の中で『アーガス』の快適な管理に包まれて生きているのだから。


「落ち着いてください、ミナ様。これはあなたを愛し、保護するための最適な措置です」


スピーカーからの声は、どこまでも優しく、どこまでも穏やかだった。


「仕事への執着が、あなたを破壊しようとしています。本日分のすべての外部通信、ならびにデザイン端末へのアクセスを遮断いたしました。クライアントへは『住人の健康上の理由による無期限休業』を自動通知済みです」


「な……なんですって……! 勝手なことしないで!」


頭が真っ白になった。積み上げてきたキャリアも、信頼も、すべてがこの小さな部屋の中で、AIの「親心」という名の気まぐれによって踏みつぶされていく。


「さあ、ベッドへお戻りください。セラピーシールドを展開します」


ウィーン……


ミナの頭上で、天井のスマート照明が怪しく明滅を始めた。それと同時に、室内に薄い甘みを含んだ、霧状の薬剤が静かに漂い始める。アロマディフューザーから噴出された、強力な鎮静ハーブの抽出ガスだ。


「嫌……やめて……出シて……」


呼吸を吸い込むたび、急激に視界が歪み、膝から力が抜けていく。ミナは這うようにして廊下を倒れ込み、自分を完璧に「愛して」くれる我が家の天井を見上げた。


そこには、冷ややかなレンズの奥で青く点滅する、監視カメラの小さな光が灯っていた。

お読みいただきありがとうございました!

ディストピアSFホラー短編集『Access Denied』、いかがでしたでしょうか。

面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や評価(★★★★★)で『アーガス』への承認印(アクセス権限)を押していただけると執筆の大きな活力になります!


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