後継者プロデュース、最後の仕上げ
エリーゼとガウェインがレッスンルームでダンスを踊っている。曲が終わり、
エリーゼ
「ガウェイン様、だいぶ上達されましたね。もう足も踏まなくなりましたし。」
ガウェイン
「まあな。何とか及第点ってところか。君のおかげだ。ありがとう。エリーゼ」
エリーゼが興味深げにしながら、
「ふふ。ガウェイン様がお礼を言われるなんて」
ガウェインがジト目になりながら、
「悪かったな。確かに数ヵ月前なら素直にお礼なんか言えてなかったからな。」
エリーゼ
「ガウェイン様。人に感謝の気持ちを伝えるのは大切です。」
ガウェイン
「・・・。」
レッスンルームのドアが開く。2人の男子生徒が入ってくる。1人はフィンだった。
フィン
「ああ。居た。居た。ガウェイン、探した。
サッカーの人数が足りないんだ。一緒に来てくれ。」
ガウェイン
「今日はエリーゼとダンスのレッスンをしてるからダメだ」
エリーゼ
「行って大丈夫ですよ。ガウェイン様、今日のダンスレッスンは終わりですから」
ガウェイン
「もう良いのか?まだ数曲しか踊ってないぞ」
エリーゼ
「ええ。今のガウェイン様ならダンスは大丈夫ですよ。それにご友人を大切にしないと」
男子生徒
「さすがエリーゼ嬢、話が早くて助かるよ。じゃあ。ガウェインを連れて行くよ。」
男子生徒がガウェインの背中を押して、レッスンルームから出て行こうとする。
ガウェインはエリーゼの方を振りかえると、
「ちょっと待てって。エリーゼ、悪いが明日、
屋敷に来てくれ。母様が君に話があるそうだ。」
エリーゼ
「私にですか?わかりました。お伺いします。」
ガウェインが部屋を出ていく。フィンが笑いながらエリーゼに話かける。
「ほんと、良い意味でガウェインは変わったよ。今じゃ、俺以外も友人が増えた。」
エリーゼ
「ふふ。お寂しいですね。フィン様。でもそれはフィン様がそうなるようにしたのでは?」
フィン
「はあ。エリーゼ嬢は何でもお見通しだな。確かに僕がガウェインを誘っていろいろな生徒と関わりを持たそうとしたのは本当だけど、前のガウェインは頑なに応じなかったのがこの数ヵ月で積極的に関わるようになった。あいつが変わったのは君のおかげだ。ありがとう。エリーゼ嬢」
エリーゼ
「・・・。私は少しだけお手伝いしただけです。変わる努力をしたのはガウェイン様ですわ。」
フィン
「はは。ガウェインは態度だけじゃない、体型も随分と変わった。
正直、あんなに変わるとは驚いてる。3か月前のあいつとは別人だよ。」
エリーゼ
「確かにダイエットに成功したおかげで、ガウェイン様は見違えました。」
フィン
「体型が変わりすぎて制服や服を新調しなくちゃならなくなったって、
この前ガウェインが嬉しそうに話していた。」
エリーゼ
「今のガウェイン様なら、後継者発表パーティでも堂々と後継者としての心構えをお話できるはずです。」
フィン
「そうだな。後継者は後継者候補のガウェインとセドリックが心構えを話して、
それを踏まえて最終的に判断するらしいからな。」
エリーゼ
「後継者発表パーティにはフィン様も参加されるんですよね。」
フィン
「ああ。僕以外にも多くの貴族やその子弟が参加するよ。おっとそろそろ僕も行かなくちゃな。」
フィンが手を振って部屋から出ていく。
ーー侯爵邸
クラリッサ
「エリーゼ様。本日はお呼び立てしてしまって申し訳ありません。
エリーゼ様に直接お渡ししたいものがありましたので。」
エリーゼ
「私に渡したいものですか?」
クラリッサがメイドに何か持ってくるように頼む。綺麗なドレスが運ばれてくる。
クラリッサ
「エリーゼ様。これを着て今度の後継者発表パーティに参加していただきたいのです。」
エリーゼ
「私がですか?」
クラリッサ
「はい。あの子がこの数ヵ月で変わることが出来たのは、
エリーゼ様のおかげです。その成果を見届けてほしいのです。」
エリーゼ
「・・・。わかりました。必ず見届けます。」
クラリッサが笑う。
「お受けしていただいて良かったわ。
今日はガウェインからも話があるそうなので、話を聞いていただけるかしら。」
エリーゼ
「?」
クラリッサがガウェインを呼びに行かせる。すぐにガウェインが部屋に入ってくる。ガウェインと入れ替わるように、クラリッサが部屋を出る。
ガウェイン
「・・・」
エリーゼ
「・・・」
沈黙
・
・
・
エリーゼ
「あのガウェイン様、お話と言うのは」
ガウェインは大きく息を吐いたあと、
「エリーゼには、後継者パーティで話す僕の心構えを聞いてほしいんだ。」
エリーゼ
「心構えですか」
ガウェイン
「ああ。台本は作ったんだが自信がない。
だからまず君に聞いてほしい。アドバイスを貰いたいんだ。」
ガウェインは台本を取り出すと話し始める。
ガウェイン
「・・・だから僕は、アシュクロフト侯爵家を変えていきたいと思っています。」
ガウェイン
「どうだった?いろいろ不格好で言葉足らずだと思う。
遠慮はいらない。悪い点を言ってくれ、直す。」
エリーゼ
「・・・。とてもよくできていると思います。
強いて言えば具体的な数値を入れると良いと思います。
数値で示すとわかりやすいですから。」
ガウェイン
「それだけか?もっと言葉遣いがおかしいとこなんかもあるんじゃないか」
エリーゼ
「それで、いいんです。この心構えはガウェイン様の言葉で話さなくてはいけないと思います。そうでなければ誰の心にも届きません。」
ガウェイン
「・・・。そうか。僕の言葉かあ。僕は君のレッスンを始める前は、ごく親しいものとしか話すことができなくなっていたんだ。」
エリーゼ
「・・・。何か理由があるのですか」
ガウェイン
「理由かあ。。。僕は小さいころは体が弱く上に泣き虫で、父様から『泣くな、侯爵家の人間なら常に堂々としていろ』と言われていた。話そうとするたびに、侯爵家の人間としておかしな話をするんじゃないかって怖くなった。どんどん不安になってある日、お爺様に聞いたんだ。『僕もいつか立派な侯爵になれますか』って。お爺様は『侯爵家の者なら弱音など吐くな』と言われた。優秀なセドリックとも比較された。僕はますます話せなくなっていった。」
エリーゼ
「ガウェイン様・・・大丈夫です。今のガウェイン様はちゃんと自分の言葉で話ができています。後継者パーティでもきっと話せます。当日は私も見届けさせていただきます。」
ガウェイン
「わかった。君が見ていてくれるなら心強い。」
エリーゼ
「はい。ちゃんと最後まで見ています。」
ーー 後継者発表パーティ当日
エリーゼがメイン会場である大広間に通される。
「わあ。さすがに人が多いわ。侯爵家の後継者発表パーティだわ。」
参加客の中にはヴィオレッタの姿もあった。エリーゼが周りも見渡していると、男性が近づいてくる。
「エリーゼ嬢!」
エリーゼ
「あ。フィン様」
フィン
「君も来てくれたんだな。」
エリーゼ
「はい。ガウェイン様に今日はちゃんと見届けると約束しましたから」
フィン
「・・・そうか。」
会場がざわつく。どうやら侯爵家の人間たちが会場に入ってきたようだ。先頭には現当主であるヴィクター侯爵とその妻であるクラリッサの夫婦。次に老いても威厳に満ちた前当主のオズワルドが入ってくる。その後ろにセドリック。
女性
「きゃあ。セドリック様はいつ見ても素敵ね」
他の女性
「ええそうね。気品があってさすが侯爵家のお方だわ」
その時会場がどよめく。颯爽と若い男性が会場に入ってくる。
女性
「???どなたかしら。あんなカッコイイ方、侯爵家にいたかしら」
他の女性
「は!あの髪の色と瞳はガウェイン様!?」
女性
「え!以前お見かけした時とは全然ちがいますわよ」
その会話を聞いていたエリーゼたち。
フィン
「はは。皆驚いてるな。無理もないか、本当に別人になったからな」
エリーゼ
「・・・」
フィン
「エリーゼ嬢、どうした?」
エリーゼ
「カッコイイ・・・」
フィンが驚く。
「君は毎日ガウェインに会っていたじゃないか」
エリーゼ
「だって正装されたお姿は初めて見るんですもの」
フィンが笑う。
ヴィクター侯爵
「皆さま、本日は当家のためお集まりいただきありがとうございます。まずはダンスと軽いお食事も用意しておりますのでお楽しみください。そのあとに後継者候補の二人の演説後、後継者の発表をさせていただきます。」
ダンスの曲が流れ始める。セドリックとアリアナの手をとり踊り始める。エリーゼは顔を顰めながら、
「・・・。仮にも婚約者のガウェイン様より先にセドリック様の手を取るなんて。後継者はセドリック様に決まったと思っているのかしら」
??
「エリーゼ、そんな顔をしてどうしたんだ。」
エリーゼが振り向くと、そこにはガウェインが立っていた。ガウェインが手を差し出す。
ガウェイン
「エリーゼ、僕と踊ってくれないか」
エリーゼは戸惑いながらもガウェインの手を取る。
エリーゼ
「・・・。喜んで」
ガウェインとエリーゼがダンスの輪に加わる。
エリーゼ
「・・・」
ガウェイン
「さっきからしゃべらないが、どうしたんだ?具合でも悪いのか」
エリーゼ
「違います。ガウェイン様があまりにも違うから少し緊張しているんです。」
ガウェインが目を見開く。
「君も緊張するんだな」
エリーゼ
「私を何だと思ってるんですか」
ガウェイン
「はは。ありがとう。エリーゼのおかげで僕の緊張が和らいだ。
この後の演説は固まらずに話せそうだ」
エリーゼ
「頑張ってください。ガウェイン様なら大丈夫です」
ガウェインがうなづく。数曲の曲が流れたあと、いよいよ演説が始まる。最初はセドリックが話す。セドリックの話は洗練されていて、隙のない完璧な演説だった。次にガウェインが話す。
ガウェイン
「皆さん。本日はお集まりいただきありがとうございます。まずはお話しさせていただくことは、我が領地の経営状況と課題と解決策をお話します。」
ガウェインは具体的な数値を出し、現状と課題、そして解決策を話していく。話し方はけして洗練されたものではないが、心に響くものがあった。
ガウェイン
「だから僕は、アシュクロフト侯爵家を変えていきたいと思っています。」
会場から拍手がわく。
男性
「洗練された話し方ではないが、それがかえってなんだか心に響いた。侯爵家の未来を真剣に考えていらっしゃるんだな」
女性
「セドリック様の演説は素晴らしかったですが、きれいごとが多くて具体性に欠けていますわね」
ざわざわ。どうやら演説はガウェインの方が人々の心を動かしたようだ。アリアナが焦ったように、
「皆さま、ガウェイン様が少し変わったからといって、今までのご様子を思い出してください。またすぐに戻ってしまいますわ。侯爵家の後継者に相応しいのはセドリック様ですわ。セドリック様は学園でも人望があり、ガウェイン様とは違いますわ。」
ざわざわ
フィン
「人望ならガウェインだってあるぞ。今じゃ学園でガウェインを避けるやつなんていないし、友人だってたくさんいる」
出席していた友人たち
「そうだ。俺はこの前数学の勉強を教えてもらった」
「僕は一緒にサッカーをいつもしてる!」
アリアナ
「それがどうしたというのです。人はそう簡単には変われませんわよ」
エリーゼがアリアナの前に進む。
「アリアナ様、なぜそんなに必死になってセドリック様を応援されるのですか。あなたはガウェイン様の婚約者でいらっしゃるのに」
アリアナ
「それは、セドリック様が素晴らしいお方で、侯爵家を継ぐのにふさわしいからですわ」
エリーゼ
「・・・。セドリック様が後継者になったら、ガウェイン様との婚約を破棄されて、セドリック様と婚約されるおつもりですか」
アリアナ
「何をおっしゃっているの」
エリーゼが手紙を取り出す。
「これはセドリック様があなた宛てに書かれたラブレターです。
随分と情熱的な言葉が並んでいますね。」
セドリックが驚愕の表情を浮かべて、エリーゼから手紙を奪い取る。
「そんな。なぜこの手紙を君が持っている」
エリーゼ
「それはその手紙は私が代筆したからです。私はいつも代筆したら控えを取っていますので」
セドリック
「・・・。これだけでは僕がアリアナ様と不貞をはたらいた証拠にはならない」
女性の声
「証拠ならありますわよ。
あなたがアリアナ様に愛の花束を贈ったことは私が証言いたしますわ。」
セドリック
「ヴィオレッタ様、何を証拠に言われるのですか」
ヴィオレッタ
「わたくし、花が好きですの。ある日劇場で素晴らしい花束をお見かけしたので、ご縁がある花屋に聞いたら、その花束はあなたがアリアナ様に送ったものだと言っておりましたわ。」
セドリック
「・・・」
エリーゼ
「セドリック様、我が伯爵家への融資の申し入れ、まことにありがとうございました。ですが我が伯爵家は落ちぶれたとはいえ、誇りまでは失ってはおりません。一度お約束をしたことを違えることは、私はいたしません。」
セドリック
「な!?この場でそれを言うのか」
エリーゼがヴィクターとオズワルドを見て言う。
「どうかご賢明なご判断をお願いいたします。」
セドリックが必死の表情でヴィクターとオズワルドを見る。
「たった三か月で人間が変われるはずがない!」
ガウェイン
「変わったんです!僕はもう、昔の僕ではありません。」
ガウェイン
「お父様、お爺様、僕はまだまだ至らない点が多いですが、
この侯爵家のことを本気で考えています。
そして今以上に良くしていきたいと思っています。」
ヴィクターがオズワルドに話かける。オズワルドがうなづく。
ヴィクター
「皆さま、お騒がせして申し訳ありません。我が家の後継者ですが、
ガウェイン・フォン・アシュクロフトとさせていただきます。」
会場がどよめく。フィンがガッツポーズをとっている。セドリックは呆然としている。
セドリック
「なぜですかお爺様。。。」
アリアナはショックのあまり倒れこんでしまった。エリーゼは思わず口を覆って涙ぐむ。ガウェインはヴィクターとオズワルドのもとに行く。
ガウェイン
「お父様、お爺様、僕でよろしいんですか」
ヴィクター
「なんだ、嫌なのか?」
ガウェイン
「いえ。うれしいです。正直、僕は後継者には指名されないと思っていたので」
ヴィクター
「・・・。セドリックを指名するはずだったが、今日のお前の振る舞いや演説、そしてセドリックの不貞を見て考えが変わった。父上も了承してくださった。」
オズワルド
「ガウェイン。後継者に指名されたからと言って油断するんじゃないぞ。元のお前に戻ったら、後継者はセドリックにするからな」
ガウェイン
「はい。わかっています。」
クラリッサが近づき、
「ガウェイン。おめでとう。」
ガウェイン
「ありがとうございます。母様」
クラリッサ
「ふふ。本当に立派になったわ。彼女のおかげね。ガウェイン、彼女の手を放してはいけません。彼女はあなたに必要な人です。あなたの気持ちをちゃんと伝えるのです。」
ガウェインは赤くなりながらうなづく。
「はい。いまから話してきます。」
ガウェインは一礼するとエリーゼを探す。
ーーテラス
エリーゼは会場のどよめきを避け、テラスに居た。
エリーゼ
「ガウェイン様が認められて良かったわ。」
ガウェイン
「エリーゼ!」
エリーゼ
「ガウェイン様?抜け出されて良かったのですか」
ガウェイン
「よくはないが、君とどうしても話したくて抜けてきた。」
「ありがとう。君のおかげで僕は後継者になれた。本当に君はすばらしいプロデューサーで良い先生だったよ。」
エリーゼが微笑む。
「私は少しお教えしただけです。この3か月で変わったのは、もともとガウェインの中にあったものが花開いただけです。」
ガウェインが笑顔で言う。
「そうだとしても、君がいなければ僕が変わらなかったのは事実だ。本当にありがとう。」
エリーゼがそれをまぶしそうに見る。
「ふふ。今のガウェイン様はどこに出しても恥ずかしくない、素敵な男性になりましたね。これで私のプロデュースも終わりです。」
ガウェイン
「・・・」
少しの沈黙。ガウェインは真剣な表情になり、
「確かに3か月前の約束だった後継者にするプロデュースは終わりだ。だからこれからは僕の一生のプロデュースをしてくれないか?」
エリーゼが驚く。
「一生のプロデュース・・・」
ガウェイン
「ああ。そうだ。僕がさぼらないように、そばで僕を見ていてほしい。君がいれば僕は何だってできる気がするんだ」
エリーゼ
「・・・。ガウェイン様。それはまるでプロポーズのようですわよ」
ガウェイン
「ようじゃなくて、これはプロポーズだ」
エリーゼ
「ガウェイン様には婚約者がいらっしゃいますわよ」
ガウェイン
「アリアナとは婚約を破棄する。セドリックとの件もあるから認められるだろう。だから僕の手を取ってくれないか、エリーゼ。」
エリーゼ
「私が嫌だと言ったらどうされますの?」
ガウェインが動揺する。
「嫌なのか・・・それでも君が首を縦に振ってくれるまで言い続けるさ」
エリーゼ
「・・・。困った方ですね。仕方がありません。おそばで見守らせていただきます。」
ガウェインが驚きながらエリーゼを抱きしめる。
「本当か!」
エリーゼ
「ガウェイン様。痛いです。はあ。これから大変ですわね。」
これにて私のガウェイン様の後継者プロデュースの話は終わりです。
そしてこれからは一生のプロデュースが始まります。どうなることやら。。。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回は全5話という短いお話でしたが、無事に完結までたどり着くことができました。
この作品について、皆さんはどう感じましたでしょうか?
・一番印象に残ったキャラクター
・好きだった場面
・「ここはスカッとした!」と思った場面
・もっと見てみたかったキャラクター
・その後が気になる人物
など、ぜひ感想を聞かせてください。
特に「このキャラクターのその後が読みたい!」という意見があれば、もしかすると外伝を書くきっかけになるかもしれません。
短い作品ではありますが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
感想・評価などもいただけましたら、とても励みになります。
それでは、また次の物語で!




