『あなたを私にプロデュースさせてください』―没落令嬢、宣戦布告
これは、学園中から笑われる太った少年だった彼を、三か月後、
私が侯爵家嫡男を学園一の貴公子に変えるお話。
木陰のベンチ、エリーゼは椅子に座りながら手帳を何度も見直すが、数字は変わらない。
「うう。今月も厳しいなあ。」
エリーゼ・アーヴェント、17歳。王立学園の学生である。
「内職増やさなきゃな。割のいいバイトないかな。」
エリーゼの家は由緒ある伯爵家だが、祖父の代の失策によって家計は火の車。
病弱な父とお嬢様育ちのおっとりした母をもち、アーヴェント家の未来はエリーゼにかかっていた。
数人の女性たちが近づいてくる。その中の中心的な女性が声をかける。
「ごきげんよう。エリーゼ様」
エリーゼは仮面のような笑いを顔に張り付かせて、
「ごきげんよう。アリアナ様」
アリアナ
「これから学園のテラスでお茶会をしますの、
よろしかったらエリーゼ様もいかが?」
エリーゼ
「お誘いありがとうございます。大変嬉しいのですが、
わたくしこれから図書館で調べものがありますの。」
アリアナ
「まあ。残念ですわ。さすが学年一の秀才ですわね。今度またご一緒しましょう。」
エリーゼ
「はい。是非。」
アリアナたちが歩いて行く。エリーゼはその姿が見えなくなると、息を吐き、
「アリアナさん達とお茶会なんてしたら、お茶代で私の一週間分のランチ代が無くなるわ。。。」
エリーゼは立ち上がり図書館に向かう。エリーゼが廊下を歩いていると、走ってきた男子生徒とぶつかる。エリーゼは後ろに倒れる。
「痛、」
男子生徒が一瞬エリーゼを見る。
「ふん。前をよく見て歩くんだな。」
エリーゼ
「・・・。申し訳ありません。ガウェイン様」
ガウェインはそそくさと去っていく。
女生徒
「エリーゼ様。大丈夫ですか。」
エリーゼは笑顔を作り、
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
女生徒
「しかし、ガウェイン様は本当に横暴なお方だわ。」
他女生徒
「本当にそうですわ。それにベストの前のボタンがはちきれそうでしたわよ。」
ガウェイン・フォン・アシュクロフト。
アシュクロフト侯爵家嫡男だがいろいろと問題がある生徒だ。
女生徒
「アシュクロフト侯爵家の跡取りが、あの方なんて信じられませんわ。」
他女生徒
「あら。ご存じないの。跡取りはまだ決定してなくて、
従弟のセドリック様が有力候補になっているらしいわよ」
女生徒
「まあ。そうなの。あの方ならアシュクロフト家の理想の後継者だわ。」
エリーゼは女生徒たちの話を聞きながら、
『わー。おばあ様が言っていた通りだわ。貴族社会では隙を見せてはいけません。常に誰かの目があると思い、立ち振る舞い、所作は気を付けなさい。は本当ね』
エリーゼは図書館でアルバイトの代筆の書き物に夢中になっていて、
司書の閉館の案内で慌てて図書館を出る。
「まずいわ。このままじゃ、寮のディナーに間に合わないわ。
ここからの最短ルートは・・・中庭を通り抜ければ何とかなるかしら」
エリーゼが走る。
ーー中庭
日も暮れて辺りには人影がない。中庭を通過しようとした時、木の陰に人がいることに気が付いた。
「何をしてるのかしら。。。」
エリーゼは少し迷うが、もし具合が悪くて動けないかもしれないと考え、声をかけることに。
「あの。どうかされましたか。お加減が悪いのでしょうか」
男子生徒
「!!」
男子生徒がエリーゼの手を掴んで引っ張ると、口を手でふさぐ。
「???」
男子生徒
「静かにしろ。見つかるじゃないか」
男子生徒が手を放す。
「ガウェイン様?」
ガウェインが黙って指を茂みの先を指す。エリーゼが様子を窺うと、
そこにはセドリックとアリアナがいた。
「わー。二人が並ぶと美男美女でお似合いね。」
ガウェインがエリーゼを睨む。
「申し訳ありません。アリアナ様はガウェイン様の婚約者でしたね。」
ガウェイン
「・・・。別にいい。本当のことだからな。」
エリーゼが何と声をかけるか迷っていたとき、セドリック達の声が聞こえてきた。
アリアナ
「セドリック様。わたくしあの方のお相手をするのはもう嫌ですわ。」
セドリック
「アリアナ。もう少しの我慢だ。今度の後継者発表のパーティが開かれる。
そこで正式に僕が指名されるはずだ。」
アリアナ
「まあ。やっとですわね。」
セドリック
「ああ。お爺様は僕を気に入ってくださっている。現当主伯父上とは言え逆らえないはずだ。それに息子があのガウェインなら仕方がないさ。容姿がちびでデブな上に性格が悪くて評判は最悪だ。」
アリアナ
「ふふふ。そこまでおっしゃられては可哀そうですわ。わたくしガウェイン様には感謝しておりますわ。侯爵家との婚約という肩書きをくださったのですから」
セドリック
「そのわりには君だって言っていたじゃないか。舞踏会で一緒に踊ったときに何度も足を踏まれたし、一緒に歩くのが恥ずかしいって」
アリアナ
「仕方がありませんわ。本当のことですもの。」
エリーゼ
「・・・」
ガウェインは立ちあがるとその場から駆け出す。エリーゼも慌てて追いかける。中庭の端で追いつく。
「あの。ガウェイン様。。。」
ガウェインは悔しそうにしながら拳を握った。
「慰めの言葉はいらない。僕がちびでデブであることは本当だし、ダンスだって下手だ。」
ガウェインが下を向く。エリーゼはガウェインのすぐ前まで歩いて行く。
「ガウェイン様。それは本心からおっしゃっていますか」
ガウェイン
「・・・」
エリーゼ
「違いますよね?」
ガウェイン
「・・・。ああ。違うさ。本当は僕だって!でもセドリックの言ったことは本当で、後継者はあいつがきっと指名される。。。」
エリーゼは一度瞬きをした後、
「ガウェイン様。あなたを私にプロデュースさせていただけませんか」
ガウェイン
「プロデュース?何を言い出すんだ。」
エリーゼ
「後継者発表パーティはいつですか?」
ガウェイン
「3か月後だ。もうどうしようもないさ。」
エリーゼは頬に手を当てると、何かを思案し始める。
「・・・」
「大丈夫です。私があなたを変えて見せます。」
ガウェイン
「・・・。何が目的だ。」
エリーゼはにっこり微笑む。
「ふふ、話が早くて助かります。成功したあかつきには我が伯爵家に援助をしていただきたいのです。」
ガウェインは考える。
「どうせ無理だろうが。君の案に乗ろう」
「援助は分かったが、優秀な君なら他でも稼げるだろ。なぜ、僕を助ける?」
エリーゼは目を見開くと、
「私、表ではいい顔をして、裏では人を貶してる輩が大っ嫌いなんです。」
「二人で必ず、見返してあげましょう」




