—— 終章・夏の記憶
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夜。
家に帰って、布団に入った。
——あの夏、覚えてる。
わたし、十三歳だった。
夏期講習。
剣道。
警察のおじさん、ぎっくり腰。
サッカー部の男子、告白未遂。
お母さんが、ぎゅっと、わたしを抱きしめた夜。
お父さんが、出張から帰ってきた夕方。
美月が、抱っこ紐の中で、すやすや眠ってた。
中野のおじさんが、グラスを磨いてた。
裕子さんが、コーヒーを淹れてた。
おじいちゃんが、契約書を、わたしに見せてた。
翔太さんが、ぐでんぐでんでカウンターに突っ伏してた。
ジオンさんが、糸目で、にこっと笑ってた。
——ぜんぶ、いまも、心の中で続いてる。
夏は、終わらない。
……ううん、ちがう。
夏は、終わったけれど、終わらない。
終わって、思い出になって、
わたしの中で、ずっと、生きてる。
だから——夏は、終わらない。
そう、わたしは思った。
外で、虫が鳴いていた。
セミじゃない、四月の夜の虫。
——もう何年も経った夜。
でも、わたしの夏は、ここにいる。
ジオンさんと、翔太さんと、中野家と、いっしょに。
そう思いながら、わたしは、目を閉じた。
おやすみなさい。
ジオンさん。翔太さん。
わたしの、最初の、夏の人たち。
そう、心の中で呟いた。
外の虫の声が、静かに続いていた。
夏は、終わらない。
——わたしの夏は、終わらない。
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