第2話「みつけたのに、うめた」
壕の中の、ひと晩だけの話。
「百まで数えたら、朝ですよ」。
そのおまじないだけを、たよりに。
ほるおとは、すこしずつ、ちかづいてきた。
とん、とん。
ざく、ざく。
うえのつちが、うすくなっていくのが、わかった。
あるとき、てんじょうに、ひかりのすじが、はいった。
ほそい、ほそい、すじだ。
ひかりって、あんなにしろいんだ、と、おもった。
まっくらのなかに、ながくいると、ひかりのいろを、わすれるんだ。
おとなのこえが、ふってきた。
「……骨だ」
「防空壕だな。戦時中の」
「かなり埋まってるぞ」
みつかった。
ぼくは、とびあがった。
みんなの、おおきなこえも、そのとき、いっしゅんだけ、しずかになった。
みんなが、いっせいに、うえを見たのが、わかった。
みつかった。
みつけてもらえた。
かえれる。
おんどくが、できる。
べつのこえが、した。
ひくくて、かたい、こえだった。
「報告は上げるな」
「工期が飛ぶんだ」
「地盤補強で処理しろ」
ぼくには、ことばのいみが、わからなかった。
でも、そのこえが、ぼくたちのことを、こまったもの、だとおもってるのは、わかった。
ながいてつのぼうが、おりてきて、ふかさをはかって、あがっていった。
それから。
つめたいものが、ながれてきた。
どろどろの、つめたいものだ。
ひかりのすじが、ほそくなった。
ほそくなって、ほそくなって。
きえた。
みつけたのに。
みつけたのに、うめた。
そのとき、ごうのなかの、みんなが、いっしょに、おこった。
おこったこえが、ひとつにかたまって、おおきな、おおきな、なにかに、なった。
それは、あかぐろいいろを、していた。
まっくらのなかでも、あかぐろいのが、わかった。
ぼくは、まざらなかった。
まざれなかった。
ぼくは、おこるより、かなしかったからだ。
かなしいは、おこるより、しずかで、おもたい。
ぼくは、ねえちゃんの手のかたちをにぎって、あかぐろいもののすみっこで、ちいさくなっていた。
*
うえに、たてものが、たった。
まいにち、こつこつおとがして、はしらがたって、ゆかができた。
ひとのあしおとが、うえを、あるくようになった。
よるになると、ぼくは、てんじょうを、たたいた。
とん、とん、と。
ほるおとの、まねだ。
みつけて、の、あいずのつもりだった。
でも、だれも、ほりにこなかった。
ずっとあとで、わかった。
うえのひとたちは、ぼくのあいずを、こわがっていたんだ。
みつけて、なのに。
ときどき、うえのひとが、こっちがわに、おちてきた。
おちてくるひとは、みんな、とても、つかれたかおをしていた。
あかぐろいものが、そういうひとを、ゆっくり、のみこんだ。
ぼくは、見ていることしか、できなかった。
*
たてたひとたちのにおいが、きえて、しらないおとなのにおいに、かわった。
しらないにおいは、そのあとも、なんかいも、かわった。
うえのひとは、ながく、いない。
みんな、すぐ、いなくなる。
あるとし、あたらしいおじいさんが、きた。
そのおじいさんは、たてものを、てのひらで、なでた。
かべをなでて、はしらをなでて、ながいこと、うごかなかった。
だいじにするひとだ、と、おもった。
このひとは、ながく、いるかもしれない。
おじいさんは、あるひ、おなかのおおきいひとを、つれてきた。
おなかのなかに、ちいさいいのちがいるのが、ぼくには、わかった。
そのとき。
あかぐろいものが、うごいた。
ゆっくり、ゆっくり、うえにむかって、手みたいなものを、のばした。
おなかのほうへ、だ。
「やめて」
ぼくは、いった。
ぼくのこえは、ちいさすぎた。
あかぐろいものは、とまらなかった。
*
それから、へんなおとなが、たくさん、くるようになった。
しおを、まくひとが、きた。
たいこを、たたくひとが、きた。
おふだを、はるひとが、きた。
けむりを、もくもくさせるひとも、きた。
みんな、すぐ、かえった。
だれも、ぼくたちを、みなかった。
みえないんじゃなくて、みようと、しなかった。
ぼくは、いつのまにか、てんじょうをたたくのを、やめていた。
いまでは、そのひとたちも、いっしょだ。
みんな、なかよし。
*
あるひ。
うえから、あしおとが、ひとつだけ、おりてきた。
わかい、おとこのひとだった。
ぴしっとした、せびろを、きていた。
そのひとは、くらいなかを、ゆっくり見まわして。
それから。
まっすぐ、ぼくを、見た。
あかぐろいものじゃ、なくて。
ぼくを、だ。
「……おう。まともなのがいたのか」
「ちびすけ」
なんかみられた。
今の子たちは、戦争を実際体験した人の話とか知らないんだろうね(´・ω・`)
あっ。次で、最終話です。




