エピローグ⑤
「ここに居る人たち、みんなこの後えっちするのかな」
「へッ」
欄干へともたれかかり沈んでいく夕陽を見つめながら、ベアさんがそんなことを呟く。え?いやいや。何言ってるんですか。……何言ってるんですか本当に。
でも実際、周囲は静かだ。そしてカップルらしい人々が結構いる。言われてみればロマンチックな場所だね確かに。だからこのままそういう雰囲気になっても全くおかしくないよ?でも今言いますかそれ。
「何言ってるんですか」
「あはは。ごめん」
「……するに決まってるでしょ」
「へっ、あ、んふっ。あはっ。あははっ!」
なんて思いつつもノリを合わせる。神妙な顔で答える。すると彼女は大いに笑い始めてしまった。嬉しいよ?俺の冗談で笑ってくれて嬉しいけどね?でもちょっと周囲からの視線が痛いです。すいませんねみなさん。あとネタにしたのも謝っておきます。
「は~っ……。笑った笑った。センスあるね、バンくん」
「……どうも」
背中をぽすぽす叩きながら褒められる。ボディタッチで恥ずかしさより嬉しさの方が強くなっていく。そ、そうっすかぁ?あ、ありがとうございます。
「ふ~……。あたしさ」
「はい」
なんて思ってたら、途端にちょっと真面目な空気が漂い始めました。でもまぁいい雰囲気だもんね。今そういう、エモーショナルな気分になる場所ですよここは。
まぁ、本来は神聖な王城へ向かう道の途中ではあるんですけど。カップルがいちゃつくための場所ではないんですけど。
「正直このお祭りのこと、ずっと嫌いだったんだよね」
「……はい」
「だって聖女様を口実に騒ぎたいだけだと思ってたから」
ウッちょっと刺さるよそれ。
「そうですね。ちょっと分かります」
とはいえ分かるっちゃ分かる。俺も前世では祭りに良い思い出が無かったからね。シンパシーを感じます。嬉しいね。
……「だった」ってことは、今は違うってことかな。だとすればその理由は、俺だったりしないかな。語り始める横顔を眺めながら考える。
「あの方、すっごく忙しいのにさ」
「はい」
「それに、テトラがそうなるかもしれなかった、というか実際になったからね。だから喜んでる人たちが、正直許せなかった」
「なるほど」
理由はテトラさんでもあるかもしれない。なんとなくそう思う。やっぱりこの人、彼女への想いは尋常じゃない。だとすれば彼女が希望を持てたから過去形になっている、というのはあり得そうだ。
だとしたら嬉しい。だってそれは、やっぱり俺が頑張った結果でもあるからね。
「でも、今日は楽しかった。っていうか、楽しみたいって思った」
「そうなんですか?」
「うん。で、それはバンくんが一緒に居たからで、バンくんが今日まですっごく頑張ってくれたから」
「へっ」
ただ、急に感謝がその俺へ向けられるとびっくりしちゃった。視線がこっちへ向く。相変わらず真っすぐに。俺の行いどころか、俺と言う存在自体を肯定するかのように。というか実際、そうっぽい。そうらしい。そう。
オレンジ色の夕陽に照らされた彼女は美しかった。容姿はもちろんなんだけど、やっぱり人間としても、と感じる。
嫌いだったものを受け入れる寛容さが、だろうか。嫌いだったものを心から楽しめる潔さが、だろうか。あるいは俺を見てくれていると思うからだろうか。とにかく美しい。驚いちゃうぐらいに。身を引いちゃいそうになるぐらいに。でも、今度こそ見つめ返す。
「改めてだけど、ありがとう。バンくん」
「……」
「あたしとテトラのこと、助けてくれて。自分だって危ないのに」
「いえ」
感謝を、受け取る。送られてくる感情を、心の中に収めていく。すごく温かい。ちょっと涙が出そうです。これだけでも自分が命懸けでしたことは無駄じゃなかったんだって思う。して良かったって気分になれる。
なんだか転生した時の事を思い出します。あとは前世の事も。まさか自分がこう思える日が来るなんて、あんまり考えてなかったな。「生きててよかった」なんて。
思わせてくれた彼女への感謝が、感謝されたのはこっちなのにむしろ湧いてくる。そんな風に思ってくれて、思わせてくれてありがとうって、なんならベアさんも生きててくれてありがとうとすら思う。なんかすごく愛を感じる。自分の内と、外からも。
「すっごく感謝してる。一生分の借りができたんじゃないかってぐらいね」
「そんな。あんまり気にしないでくださいね」
「んふ。それはバンくんの頼みでも嫌かな~」
「え~」
そういえば、最初はどうにかして恋愛しようと考えていた。チートを強くするという目的でね。でも今は、なんだかしたいからしてるって感覚がある。目の前のこの人とただ一緒に居たいから、こうしてデートまでしている。せっせと予定まで組んでね。結局役に立たなかったけど。だけどそれでも良いってさえ思ってる。
うわ。なんか成長じゃない?バンくんこれまでの生活でめちゃくちゃ成長しちゃったんじゃないですか?
あ~なんかいい気分です。前まで自分なんか誰にも必要とされないんじゃないかって考えてたけど、それはそれでいいとさえ考えられてきている。まぁ、今誰かから必要とされてるっぽいからそうなるのかもしれないけど。
「でもさ、それとあたしの気持ちは別」
「へ?」
「借りがどうとかじゃない。あっても無くても変わらない」
ん?というところで不穏な空気?いや、これどっちだ?どっちに転ぶ?借りはあるけど返すのは嫌って方じゃないよね?もしくは借りがあるから俺とデートしたってことじゃないよね?ち、違うよね?経験が無いから分からん!ドキドキする。心臓が素早く脈打つ。
「バンくん」
「は、はい」
え?でも、こ、これってまさか――。
「あたし、バンくんのことが好き」




