エピローグ④
「へっ」
「そしたらどれだけ辛いんだろうって思ったの。ルチア様の事も見てたからさ。ちょっと分かっちゃったんだよね」
「えっ。え」
「それと、テトラに色々話したら行ってこいって言われて、だから、勇気を出してこの前誘ったの。今更でごめんなんだけどね」
「は、はい」
んでもっと確信しそうになる。もしかしてこの人、俺の事好きじゃないか?
い、いやバンくん。待て。ストップ。ステイ。どうどう。それはあまりに身勝手だよ。だって彼女が自分の事好きだなんて。
ってかそうだよ。恋愛的にというより友達として、であるかもしれないよね。うん。全然そっちの方があり得そうだ。だって確信がある。あんなことがあったし、友愛の情を抱いていても全くおかしくない。そ、そうだよね。
「えっと、俺、も」
「うん」
というかそんなことよりフォローです。一人で舞い上がってる場合じゃありません。せっかくベアさんが自分の心の中を言葉にしてくれたんだから、俺も腹を割って話そう。
「実を言うと、正直寂しかったです」
「……うん」
「だって前までは依頼のためにほぼ毎日会ってましたし、それに……」
「それに?」
「会うだけじゃなくて、もっとすごいこともしてましたからね。アレが無くなったのもあって、やっぱり寂しかった、な~、なんて……」
「へ。あ~。ふふ。そうだね」
少し冗談めかして言うと、ようやく対面の女の子に笑顔が浮かぶ。まだぎこちないが、それでも今までよりはずっといい。
っていうか良かった~まだこれで笑ってくれて。性欲が薄くなってるらしいから嫌がられたらどうしようかと。こういう所を見ると、アレが好きっていうのはベアさん自身が、だったりするんじゃないかな。……ってこれなんかエロオヤジみたいだからやめよう。
「それで色々思ったりしました」
「うん」
「もしかしてベアさん、俺の事どうでもよくなったりしたのかなとか、もう要らなくなったりしたのかな~なんて」
続けて打ち明けるのは、ここ2週間の不安だ。言ってて自分が凄く情けなく感じられるけど、女々しいって思われそうで怖いけど、さっき彼女も同じことを感じながら話してくれたのかもしれないしやめない。
「え、そんなこと無いっ。……そんなこと無いよ」
「そうですよね。もちろんそうだと思ってたんですけど、ちょっと考えちゃって。情けないんですけど……。あ、ていうか付き合ってすら無いのにこんなこと思うのもアレなんですけど」
「そんな、こと……」
するとすぐ否定してくれる。そんなこと考えさせて申し訳ない、という風な顔になる。でも、ちが~う!見たいのはそれじゃないから!
「だから、何が言いたいかって言うと、会えて嬉しいです。やっぱり」
「へっ」
「そんな風になってる中で会ってくれて、ありがとうございます。あと、思ってること伝えてくれて、ありがとうございます。だから、あんまり考えないでください。申し訳ないとか、楽しいのかとか色々。俺、全然気にしてませんから。っていうか楽しいですよ。今、すごく」
だから、好意を伝えた。いやまぁそれで喜んでくれるとは限らないんだけどさ、でも今欲しいのって俺からのこういう言葉じゃないか?そうであってほしい。俺だったらそうだと思う。ので伝える。
「それにむしろ、悩む前に会ってくれた方が嬉しいっていうか、せっかくなんでもっと楽しんで欲しいっていうか、なんていうか……」
「ん。あはは」
「ってなんで笑うんですか!俺が真面目に話してるのに~」
「んふふ。ごめん」
それを聞いて、途端に表情だけでなく雰囲気まで一気に緩ませていく彼女。これでようやくモヤモヤが晴れたかな?そうだといいな。
「でも、なんか安心してさ」
「安心?」
「うん。……多分だけどさ、ダンジョン行ってからすっごく色々張り詰めてたんだと思う。あと帰ってきてからも、なんだかんだ完全に暇ってわけではなかったからね。時間を作ろうと思えば作れたってだけで」
「そうなんですね」
「それにこれから、テトラは聖女になる。あの子が大変になるのが、たぶん不安だった」
「はい」
「でもさ。今ので日常が戻ってきたんだなぁって。いつもの日々が帰ってきたんだなぁって思った、んだと思う。まぁ色々と変わってはいるんだけどね」
「なるほど」
そしてどうやら、そうであるっぽかった。彼女が纏う空気はまさしく「憑き物が落ちた」みたいで、どことなく以前の彼女が戻ってきたような、そんな気がした。
う、嬉しい。俺の言葉でそんな風になってくれたのが嬉しい
「ありがとう、バンくん。色々とね。テトラのことも、あたしのことも。……そういえば言ってなかったね。あれから色々忙しくてさ」
「え、あ、はい。あ、こちらこそありがとうございます。えっと、そうですね、頼りにしてくれて。あと今日、やっぱり会ってくれて」
「ふふ。うん」
さらに心が温かくなる。うん。やっぱり人から頼られて、感謝してもらえるって嬉しいな。ベアさんからってなれば猶更だ。
結果根拠は全く無いんだけど、色々と大丈夫な気もしてくる。これならもし付き合っても、その末にあんまり会えなくたって大丈夫な気さえしてくる。付き合いたいって気持ちが先行しまくってるだけなような気もするけど。
でも好きだ。この人の事。それぐらいのことで付き合わない方が嫌だ。もっとこの人の事、深く深く知りたい。
あと、一つ思いつくことがあった。アレという趣味が無くなってしまった彼女のためになり、また定期的に会う口実もできる方法だ。
「あと~……。よければ、なんですけど~……」
「うん」
「俺と一緒に、趣味、探したりとかってどう、ですかね?ほら、面白い所がどうこうって、言ってたん、で……」
「ふ~ん」
そう、共通の趣味を作ればいい。てなればたくさんの事が解決するんじゃないか?息抜きにもいいし。
とはいえ流石に露骨すぎる気もして、聞いたベアさんもそう思ったのかいたずらっぽい顔になってきて、俺の言葉は尻すぼみになってしまう。
「ま、まぁ俺も俺であんまり趣味無いんですけどね。でも、だからこそ一緒のを探せるっていうか、なんていうか……」
「んふふ。いいね、それ」
「あっ!ホントですか!?」
「うん。嘘じゃないよ」
ただなんとか了承してもらえた。やったね。また一つ前進だ。それになにより、相変わらず喜んでもらえるのが嬉しい。楽しげな顔を見られて、幸せを感じる。
「ん~。でもさ、あたしたちの共通の趣味といえば、もう既に一個あるよね」
「へ?」
って、ん?な、なんか不穏な気配だぞ!?こ、これってまさか……。
「激しい運動で~……」
「ッ……」
チュニックのボタンが外される。一つ、二つ。やがて彼女の豊満な胸元が露わになる。
「お互いに攻め合って……」
「う……」
襟元が身体の外側へ向かって引っ張られていく。姿を現すのは、黒い肩紐だ。
「すっごく声が出ちゃうやつ……」
「そ、それって……ッ」
さらに今日はその肩紐さえずらされる。滑らかな白肌の誘惑に、俺はどんどん理性を奪われていく。や、やっぱりこの人まだアレ趣味――
「そ、剣術」
「へっ」
ってソレか~い!いや思わせぶりすぎるで――。
「あとえっち」
「なッ!」
ってそっちもか~い!それにソレは俺の趣味じゃ、ない、んじゃない、です、かね?あの~。身体がそうなっちゃうだけっていうか、ね?ち、違いますよ?まぁ確かに最高ですけど!再戦できるならお願いしたいけど!
「ところでさ」
「はい」
「今日遊びに行くのってここだけ?」
「あ」
なんてからかわれていたら、すっかり失念していることがありました。そう。デートのことです。せっかくだからと考えに考え抜いたのに忘れてた。確かに疲れてるだろうから最悪ここでずっと過ごしてもいいかな~とか考えたりはしてたけど、この様子を見るに彼女はもっと遊びたいらしい。
ならお望み通り見せてやるぜ!俺の計画をなぁ!
「す、すいません。そろそろ出ましょうか」
「そうだね。……あと、もしバンくんさえよければせっかくお祭りの前日だし色々回りたいんだけどどう?」
「あ、そ、そうですね。確かに」
と思ったけどそういえば今日は祭りの前日でしたね。何回か日程が延期になったので気づいてなかった。
てなるとやってないお店とかもあるだろうし、彼女の提案に乗るのが良さそうだな。あとそういえば出店とかもやってた。やってたじゃん確かに。このタイミングなら絶対それ回るべきだったわ。
「……もしかして色々考えてくれてた?」
「……まぁ、はい」
「そっか。それじゃあさ」
まぁ、がんばってコース考えたので残念ではあるんですけどね。とはいえベアさんもそうしたがってるし、俺もなんだかんだ楽しそうだと思うからそれでいいだろう。……ん?
「また今度、その流れでデートしよ?」
あ、優しい。やっぱり好き。好きぃ!




