4章⑨
「ん……。うん……?へ?」
広い空間で目を覚ます。え?何が起きた?最初は状況を掴めないが、危険を感じ必死で記憶を探るうちに何が起こったのか大体理解できてくる。そうだ。俺たちはたぶん、ダンジョンの主が張った何かしらの罠にまんまと引っかかってしまった。咄嗟に手足を動かそうとするがうまくできない。どちらも縛られている。しかも相当強靭な何かしらの縄で。
とはいえどうやら今すぐ危険が迫っているというわけではないようだった。少し距離が離れたところに不穏な気配があるものの、近くはない。ひとまずほっとするが、さらなる現状の理解に努める。
ゆっくりと周囲を見回す。今居るのは、恐らくあのボス部屋前の扉を開けた先だろう。背後の少し距離がある場所に、見覚えのあるそれが退路を阻むみたく鎮座している。そして俺の右側ではオーリーが寝ていた。てなると反対側は……。あっ!
「バンくん、起きた?」
「はいっ!よかっんむっ!?」
なんとすぐ近くにベアさんが居たので、嬉しくて声を上げようとしたらキスされました。え。いや~こんな状況ですよベアさん。何してるんですか?いやでもありがとうございます。なんだか元気が湧いてくるのと同時に目も冴えてくる。だって流石に嬉しいから。おっ。なんだか気力も漲ってきたぞ~っ!
「ぷはっ。へ?べ、ベアさ――」
「ちょっと静かにしてて。あと、これから静かに喋ってほしい」
「あはい」
と思ったのも束の間、どうやらキスしたのは口を塞ぐ目的だったっぽい。彼女も手足縛られてるし、咄嗟に塞げるものが無かったからやむを得ず口でって感じみたいです。残念。いやまぁそこまで残念じゃないけどね。キスはキスなんで。へへっ。ってなんかいやらしいよバンくん。こんな状況なんだから集中してください。彼女はすっごく真面目な表情ですよ。
「で、あっち見て」
「分かりまし――って、あれ……」
言われるがまま正面へと視線を向ければ、目に入るのは壁面にびっしり作られた棚へ所狭しと収められた本の数々。並ぶいくつものテーブルに、その上へ置かれた奇妙な色の液体が入ったフラスコたち。
そして、あるテーブルの上で寝かされたテトラさんらしき姿と、その前に佇むボロボロの服を着た、やけに禍々しい気配を放つ人影だった。
「見えた?」
「はい。あれって……」
「うん。さっきから見てたけど、アイツ、テトラに何かしようとしてるみたい」
「っ……!」
言葉にされると、より状況が飲み込めてくる。恐らくダンジョンの主だろうその人物が持っているのは、フラスコに入った何かしらの薬品だ。そういえば先ほどから周囲には鼻を刺すような匂いが漂っている。つまりここは、奴の棲家兼何らかの実験を行うための場所なのだろう。
さらに恐らくだが今まさに、テトラさんに対して人体実験が行われようとしている。十中八九危険だろうものが。
「だから、これからやることを説明するね?」
「はい」
「まずはあたしが、この手と足を縛ってるやつを解く。そしたら続けてバンくんのも解く。ここまではいい?」
「大丈夫です」
そのため、一刻も早く救出しなければならない。ベアさんは既にその作戦を考えていたようだ。手短にそれを伝えてくる。
「それが終わったらあたしがなるべくここより遠い所まで行ってアイツの注意を引くから、バンくんはその隙にテトラを助けて。できそう?」
「はい。……でもそれ、逆の方がいいんじゃ?俺よりベアさんの方が素早く助けられそうですけど」
「……いや、そんなことないよ。それにあたし実は毒にかなり耐性があるからさ。さっきも意識がなくなるのあたしが最後だったし、目が覚めるのもあたしが一番早かった。でしょ?」
「へ?はい」
「だからいざ一人で戦うってなったら、どっちかって言うとあたしの方が善戦できると思う。ね?」
「なるほど」
この短時間で考案したにしては、かなり合理的な気がした。さすがベアさん。実際アイツが使ってくるだろう毒に対しては、今の俺の、探索中念のため上げておいた状態異常耐性より彼女自身の方が強そうだ。
それに、何しろまだ相手が何をしてくるのか全く掴めていない。そうなると、どちらかが囮となってその隙に助けるのが一番安全だと思う。また、オーリーはまだ起きる気配が無く二人でどうにかするしかない。だとすればきっとこれが最善だろう。少なくとも俺が考えるよりずっと。
「無理はしないでくださいね。あとすぐ助けて加勢するんで」
「……うん。色々よろしくね。頼りにしてる」
「はい……!」
唯一懸念があるとすればベアさんが囮になるところだが、しかし俺では隠れながら離れた場所まで行けるか分からない。斥候としての技術はまだまだ彼女の方が上で、もしうまくいかなければ囮の効果も半減だろう。
だからこれは仕方のない役割設定なのだ。今の俺にできるのは、与えられた仕事を完璧にこなすことだけ。なるべく早くできればきっとその分ベアさんの危険も減る。だからとにかく、頭の中でシミュレーションし続ける。
「あ、もし拘束を解いた時点でバレたら?」
「その時はその時。時間が無いし早速始めるよ。いい?」
「はいっ」
「それじゃ……手、出して」
「へ?はいっ」
そうしてテトラさん救出作戦は始まった。
恐らくどこかに刃物を隠していたらしい。気づけばベアさんは拘束をどちらも解いたようだ。彼女は万に一つも気づかれないよう寝転がったままで、次は俺のを解決しにかかる。
「よし。気づかれてないね」
「はい」
順調に手、続けて足が自由になった。あまりにも早い。マジでこの人逆に何ができないんだろう。
「それじゃ、行ってくるね」
「気を付けて」
「うん」
次の段階へ移る。気づけばベアさんは俺のもとから離れ、隙を窺いつつダンジョンの主を挟んだ向こう側へと移動していく。幸いなことに結構この部屋は広く、研究用のテーブルも多くて気づかれにくく視線も遮りやすい。びっくりするぐらい順調だ。だがそれによる油断で先ほどは失敗したことを思い出す。気を引き締める。
オーリーに治癒魔法でもかけて念のため早く起きてもらうか?と考えるが、マナの流れで感知されたら元も子もない。代わりにいつベアさんが行動を起こしてもいいよう、動く心構えをしておく。
「おい!」
「……?」
「ッ!」
そして、その時が来た。
明日12時ちょっとに投稿するまでのぶんで4章が終わります。




