4章⑦
「……」
そうして告げられるのは、うっすらと予想していた事実だった。
彼女は、自分もベアさんと同じように理不尽を味わっていると言っていた。生まれながらにして自らを捨て人々のため奉仕する運命が決まっているというのは、確かに理不尽と言えるだろう。俺も聖女様と会って色々と話すうちにそれを感じた。
二人の髪の色が同じなのも、顔がどことなく似ているのも恐らく血縁があるからだ。もしかすると度々話題に出ていた聖女様の弟の娘とかだろうか。
「でもテトラ、昔から聖女になるの嫌がっててね。今の聖女様みたいに、自分のやりたい事ができなくなるって」
「あ~……」
また、あの孤児院と関わりがあるのもきっと同じ理由からだろう。とはいえ結構な入れ込みようから単純に家の都合で手伝っているというよりも、自ら進んで手伝っているように見えた。髪型が多少似ていることからも、テトラさんは聖女様自体へは憧れてたりするのかもしれないな。孤児院に関わってるのは、憧れの人がやってることを手伝いたい、みたいな。
「だからあたしたちは明日ダンジョンに、聖女の力に代わる癒しの力、もしくは回復魔法とか治療術とか薬草術とか、とにかく聖女が居なくてもよくなる方法を探しに行くの」
「なるほど」
続けてダンジョンへと向かう理由が明かされる。でも、だからといって情報も無しにただ向かうだろうか?
そういえば踏破も目指すと言っていたし、何か心当たりでもあるのかもしれない。地下迷宮の最奥、つまりダンジョンの主にでも。
「急いでるのはそのため。このまえ大聖堂の前ですれ違った時ぐらいに、あの子が聖女になり始めてるって事が分かってね?本当はもっと聖女が不要になる方法を時間かけて探そうと思ってたんだけど、こうなるともう、今の聖女様の力だってどんどん無くなってっちゃうから」
「……はい」
「それに、聖女になってから動いたら大きな混乱が起きかねない。だから、今じゃなきゃダメなの」
「分かり、ました」
そして最後に、あの強引さの理由が分かった。きっと二人はひどく焦っていたのだろう。突然かあるいは予兆でもあったのかは分からないが、聖女の力が発現したことによって。あるいは後悔だってしたかもしれない。もっと素早くランクを上げられたとか、強そうな人とパーティを組んでいればとか。それの障害となったと言えなくもないベアさんは猶更。
だから、恐らく俺にあの勢いで迫ったのだ。利用するために。言う事を素直に聞いてくれそうだからと。
あるいは、縋るような思いで。ことによると、信じてくれているから。もしくはどちらでもあるかもしれない。できれば後ろの二つがいいな。
「ごめんね。今更で。ホントは最初に言っとくべきだったかも。絶対に隠さなきゃいけないって言われてるわけじゃないからさ。どっちかって言うと、テトラが嫌がってたってだけだし。あの子、聖女だって見られるのを凄く嫌がるから」
「はい」
「なのにあたしバンくんにあんなことさせて、秘密まで言わせちゃって。ほんとにごめん。勝手だよね。だから――」
「ベアさんっ」
「ふえっ?」
でも、そもそも今更都合よく利用されてどうこうなんて思わない。むしろ正直、嬉しい、ぐらい、かもです。いやまぁ正確に言うと不満かもっていう部分もある。っていうか都合よく使われるの、嫌な時は嫌みたいだ。だって例えば前世では都合よく生まれさせられて、都合が悪くなったら無いものとして扱われたって言えるし。もちろんそれ嫌だったし。
ってなると、「都合よく使って欲しい」っていうのは俺にとって、寄りかかってきてほしい。つまりは信頼して重い荷物を少し預けて欲しい。返事をするモノじゃなくて、意志のある人間として必要としてほしいっていう意味なのかもしれない。うん。なんだかしっくりくる。彼女は、前はどうだったか分からないけど、今はきっとそうなのだろう。それが伝わってくる。だから嬉しいんだ。
そしてそうじゃない方の、モノみたいに都合よく利用される。人として扱ってもらえない。そんな思いを誰かが、特に俺の好きな人がするのは嫌だって強く想った。まぁそれをされるのは正確にはベアさんではないけど、でも大切な人が聖女という都合よく利用される存在に「されて」、苦しむ姿を間近で延々見なければならないなんて、どう考えても辛すぎる。もしそうなってしまったら彼女は一体どれほど自分の無力を恨むのだろうか。心優しい彼女なら一体どれほど、自らの身体を、自分という存在を憎んでしまうのだろうか。
もちろん一度ダンジョンに行っただけで何か変わると決まったわけじゃないけど、それに対してできる事があるならやりたい。やらせてほしい。
だから、目の前で震える少女の名前を呼ぶ。ちょっとデカめの声で。本当は肩ぐらい掴んで揺すれば良かったのかもしれないけど、この期に及んでちょっとひよっちゃいました。俺から触るのはなんかできなかった。てへ。とはいえちゃんとネガティブ止まってくれたからよし。
「あ、えっと、その~……。う~ん?なんだ?」
「……」
なんだけど、その後何言うか決めてなかったねバンくん!?ここは何かしら気の利いた事言う所でしょうが!ほら、なんか無いですか?こういう決戦前夜って時に最適な言葉。
……ヤバい。死亡フラグになりそうなのしか思い浮かばない。え~。流石に命懸けるわけだし願掛けはした方が良くない?いやでもここは勢いのまま行って士気を高めるべきでは?死期じゃなくてね。ってハハ縁起でもね――
「んっ」
「んむっ?」
ん?
え?おん?ん~~~?は?えっと。あの。き。
キス、されてますか?はい。されてます。あ~そうなんですね~。若干唇がいつもよりカサついてる気がする。やっぱりここの所全然余裕無かったんだろうなぁベアさん。まぁでもそりゃそうだよね。大変だよ急にダンジョン行かなきゃならなくなったんだから。しかもまだ実力足りないかもって感じなのに。ん?
「っ!?」
「んふ」
いやそんなことよりキスされとるやないか!なんちゅう早業。流石です。いつの間にか首に手も回されてる。あと気持ちいいです。
ウッ。昨日も予定に反してシなかったからちょっとクるものがありますね。ん~でも今シたらかなり死んじゃう確率上がりそうじゃない?もしくはそれ、どっちかが生き残るやつじゃない?しかも基本は女の子の方が生存して、いずれ忘れ形見が生まれるやつじゃないか?ま、マズいマズい!
「ふ~っ」
「あっ。えっ。あ、あっ、あのっ」
6秒ぐらいして離れるベアさん。見上げる顔は熱っぽく――無い!?むしろ覚悟決まったって感じだ!?あ、もしかしてセーフ?これからえっちは無し?そ、そっかぁ!そ、そうだよね!体力も残しとかないとだし!だよね!そ、そうか……。そっかぁ……。
「明日頑張ろうね、バンくん」
「あ、は、はいっ」
あはい頑張りましょう明日は絶対勝つ絶対やり遂げる絶対全員で生きて帰る。何考えてたんだ俺は。こんなん絶対覚悟決めるためのやつじゃん。そりゃ前戯じゃないよ。全くよくないですよホントに。気をつけましょうね。はい。
で、そういうキスしただけならフラグ立たないよね流石に。ってかむしろ生存フラグでしょ。うん。これで万全。いけるいける。やれるぞ俺。ベアさんもきっと大丈夫だろ。
「それと……」
ん?あなんかまずい雰囲気これアレ言うやつだ待ってストップストップ!
「終わったら、デートしようね」
「……はい。お願いします」
言っちゃった!こ、これ大丈夫ですかね?
なんて思うけど、むしろなんか大丈夫な気してきたわ。っていうか大丈夫。やるだけです。ぜってぇデートしてやる。何がフラグじゃボケ!んなもん俺がボキボキに折ったるわ!
「あは。なんかあたしが告白したみたいな反応だね?」
「へっ」
「じゃ、また明日!」
「あ、はいっ。またっ」
そして、彼女はうちへ訪ねて来てからものの数分ほどで帰っていった。家に今一番辛いだろうテトラさんを残してるだろうしまぁそりゃそうか。そりゃあアレは無いよ。
でも彼女、大丈夫かな。あとオーリーは今、どんな事考えてるんだろうか。
まぁでも、明日、絶対生きて帰りましょう。全員で。よし!負けねぇぞ!
その後、ずっと嫌な考えがぐるぐるしていたのは何だったの?ってぐらいすぐ寝られました。
……ホントはすぐじゃなかったです。ハイ。ちょっとキスの感触を思い出しちゃってね。へへ。




