4章⑥
その後俺たちは、万全を期すということで翌日の集合時間だけ決めるとすぐ解散した。
そして真っすぐ家へ帰ると気づけば就寝時間となったのだが、やたら目が冴えて寝られずにいます。
「ふ~……」
改めて考えると、オーリーの説得なんて失敗してしまった方が良かったかもしれない。何せ改めて考えてみても明らかに危険だ。あと、正直衝撃的すぎる俺の出自で彼が動揺したから押し切れただけだろう。つまりたぶん、冷静な判断では無かった。
だって、聖女様のためダンジョンに潜りまくりたい、なんて流石に無理があった気がする。あんまり筋が通ってない。それに相手はあくまで他人だからね。他人のために命を懸けるなんて、普通はやらない。まぁ「女神の使徒」様ならやるのかもしれないけど。
あと、あるいはオーリーに責任を押し付けてしまったかもしれない。これでもし彼一人が生き残ったらどうなってしまうんだろうか。きっと優しいから、永遠に悔やみ続けてしまうんじゃないか。あの時自分が断っていれば、バンくんに流されていなければ、って。
「っ!」
考えれば考えるほどネガティブなことが浮かんできてしまう。だから頭を振ってやめようとする。でも、眠ろうと目を瞑ればまた勝手に湧き上がってくる。いつも依頼をこなした後は疲れていてすぐ寝付けるはずなのに、何故か今日はやけに、ひとりでに思考が巡った。ちゃんと寝ないと明日しっかり動けないのにね。そしたらそれが原因で――。
「あ~~~!」
今度は声を出してかき消す。そうするとまた目が冴えていくんですが!最悪!マジでいつ寝れるんだ俺は!
「ん?」
なんて悶々とし続けていれば、たぶんだけど玄関のドアがノックされる。え、気のせいじゃないよな?えっ、こ、こんな時間になんだろう。結構遅い時間だと思うんだけアッ気のせいじゃなかったまた聞こえました。
……おばけとかじゃないよね?ちなみにこの世界、おばけガチで居るんだよね。たまに未練を持った人間がゴースト化するの。悪意持ってたりするので、倒す方法も確立されてる。一応何回か依頼で戦った事があります。でも怖い。前世病院でずっと暮らしてた時は怖くなかったんだけど、転生してからはなんかダメなんだよね。そういえば元々ダメだった気もする。
「はい」
なのでとりあえずベッドから声を出す。
「バンくん?」
「へっあっはいっ今開けます!」
するとノックの主は、なんとベアさんでした。はいバンくんダッシュ流石に冷えるだろうからすぐ開けようそうしよう。
「あは。さっきぶり」
「は、はい。さっきぶりです」
そうして開けたところで気づきました。俺がっつり寝間着です。大丈夫かな。なんて思ったのも束の間、彼女は顔を合わせた瞬間温かい笑顔を浮かべてくれる。なんだか色々考えすぎてたこともありほっとする。
けど、安心すると余裕ができたからか、ギルドでのことも同時に思い出された。彼女のわがままのせいで俺は今こうなってるんじゃないか?と少し感じてしまう。本来考えなくても良かったことで悩んでいるのでは、とも。
だって、オーリーの説得が全部俺任せだったのはちょっと嫌だった。これで彼から恨まれたりしたら泣くぞ。あと、あれだけ秘密を共有したのになぜダンジョン行きたいか教えてくれないことだって、信用されていないのかなと思わないでもない。
好きなはずなのに、なんならそもそも好きとか以前に人として力になりたいと感じたはずなのに、である。もちろん理由なんて聞かなくても応えてあげたいんだけど、いざ本当に多くのものを失いかねないことが理解できてくると、途端に恐ろしくなっていた。手放しで人を信じるのってこんなに難しいんだな。信じて傷さえさらけ出した相手なのに。
「今日は本当にありがとう」
「いえ、大丈夫です」
「それと、ごめんね。あんなことさせちゃって」
「……気にしないでください。俺が勝手にやったことなんで」
「……うん」
しまった。どうやらそんな考えが言葉に出てしまったようだ。ちょっと彼女がしゅんとする。少しいい気味だと思ってしまうが、しかし彼女にだって事情はあるはずだと打ち消す。っていうかこんなのよくない、と思う。だって傷つけようとして傷つけてる。無意識でならまだ仕方ないかもしれないけど、こんなのやっぱりダメだろ。
それにそうだ。何か事情があるはずなんだ。普段サブリーダーをするほど冷静なベアさんが取り乱し、無謀にもダンジョンへ挑もうとする事情が。
「だから、せめてバンくんだけにはなんであたしが、あたしたちがダンジョンに行きたいのか、言っておくべきだと思って」
「へっ」
「テトラにも、ちゃんと許可を取ってきた。言っていいよって」
そして、彼女がこんな時間にうちへ来た理由は、どうやらその事情を話すためのようだった。
先ほども教えてもらえなかったのだから、もう話す気は無いのかとさえ考えていたため驚く。てっきり全部が終わった後にでも言われるのかと。……もしくは一生言われないままってことだって、少し覚悟していたかも。
でも、そんなの不誠実だと思ったっぽい。ベアさんは真っすぐこちらを見ている。そこに動揺は無い。強い決意が感じ取れる。いつになく本気だ。
だからか、こんな事を思うのは明らかに場違いなんだけどすごく美しく見えた。凛とした雰囲気はサキュバスという種族のイメージや彼女自身の普段の言動や行動、何よりピンク色の髪の毛とはかけ離れているんだけど、特にその真っすぐな長髪とやたら合っていた。桜に似た色合いと艶々した煌めきが相まって、想像以上に主張が強いからだろうか。背後で口を開く夜の闇に対し、燦々と真逆に輝いているからだろうか。
「で、えっとね。ダンジョンに行きたい理由はテトラなんだけど」
「はい」
自然とちゃんと聞く態度になる。だってこれほどまで真剣な相手の話を聞かないなんて失礼な気がした。好きとか以前に、人として。
「あの子、次の聖女なの」




