3章⑮
「俺、結構人間不信なんですよ。だいぶ良くなってきたと思うんですけど、まだやっぱり怖くて」
「そうなんだ」
「っていうのも、俺、両親から捨てられた、みたいな感じで。しかも、最初は優しかった両親から」
「へっ」
ぽつぽつと言葉を吐きだしていく。さっきさらけ出していいと決意したばっかりなのに、想定よりずっと緊張する。無意識に手を揉んでしまう。視線がぶれる。何でもない風に虚空を見つめてしまう。
「それで、人から見捨てられるって事に、すごく不安があるっぽくて。だからこの前は、ああなっちゃったんです。都合がいいってことは、ベアさんもいつか、俺の事どうでもよくなっちゃうんじゃないか、って」
「……うん」
それでもやめない。ダサいかもしれないけど、弱いって幻滅されてしまうかもしれないけど、多少詰まりながらも話す。
正直ちょっと居心地の悪さを感じる。大丈夫だろうな、とどこかで分かっているはずなんだけど、だとしても怖い。やっぱり受け入れてもらえなかったらどうしよう、何かひどいことを言われてしまったら、この傷口に塩を塗られてしまったらどうしようと考え、いやな汗が背筋を伝っていく。
「あ、だから捨てないでって言いたいわけじゃないですよ。ってかむしろ、そこはベアさんの自由にするべきっていうか、なんていうか」
「んふふ。うん」
ただ同時に、話しているだけであるはずだがどこか傷が癒されているような気もした。
咄嗟の訂正に笑顔を返してくれるベアさんを見たら猶更だ。温かさを感じる。人から寄り添ってもらっているからかな?そういえば、女神様から抱きしめられた時もこんなような感覚になった。嬉しくて、幸せ。
「んで話を戻すと、でも、えっと、だから人の事信用しないようにしていたって気がするんです。そうすれば、優しくしてくれた人に見捨てられる辛さを感じなくて済むから。だから人と関わらないようにしていたっていうか」
「うん」
「でも、やっぱり楽しい、です。こうやって人と話したり、関わったりするの」
「うん。……うん。そうだよね。やっぱり楽しいよね」
もしかしたらこれも、性欲と同じような身体の仕組みなのかもしれない。というかきっとそうなのだろう。だって、脳だって身体の一部だ。だからたぶん、これがあることに何か意味があるのだ。
でも、そんな身体にとって厄介でもある欲望と同じようにもたらされたものだとしても、結局は幸せだし、気持ちいい。だからそれで良いんだと思う。都合が良くても、時々不快に思っても。
「で、それを教えてくれたのがオーリーで、テトラさんで。……ベアさん、なんだと思います」
「え」
「だからありがとうございますっていうか、なんていうか。ってうわ、何の話だったっけ。すいません、纏まってなくて」
「あはは。ううん。大丈夫だよ。聞かせてくれてありがとう」
そんなことを考えながら話していたからか、結局言う事がぐちゃぐちゃになってしまった気がする。でもやっぱり彼女はしっかりと聞いてくれていた。すごく嬉しい。ありがとうとまで言ってくれた。そうなんだ。こんなすごく個人的な事聞いて、ありがとうなんだ。
とはいえ彼女の思いを聞いてこっちもそう思った。なら別に、もしかしたら弱みを見せるのって別に悪い事じゃないのかもなぁって気がする。むしろ互いを信頼し合う一歩として、良いことなのかもしれないとすら。
「じゃあ、さ」
「え、はい」
「あたしたち、もっといっぱい、関わっちゃおっか」
「へ?」
そうして色々言い終えた俺に、ベアさんはそんなことを言う。
ん?
「えっちするためじゃなくて、もっとお互いの事知るために」
「はへ?」
え?
んんん?
え、ねぇこれってさ、もしかしてデートの誘いじゃないですか?なんか遠回しではあるけど、たぶんそうじゃないですか?
だって、さぁ。
彼女、照れてます。恐らく。きっと。顔は赤らめて反らしながら、手を組みながら、それでもちらりちらりとこちらを見てきているもの。
ん~?
そ、そうだよね?きっと。……ならこっちからちゃんと言うしかないだろ!!!
あと、これでもし間違いだったら怒ってください。お願いします女神様。オーリーも。それと聖女様とテトラさんも。
「ベアさんっ!」
「は、はいっ!?」
「お、俺とっ。お、俺、と……」
「う、うん……」
えムズっ。口震えて最後の一言が出てこない。いやでもこの反応はいけそうだろ!!!行け俺!ほら!さぁ!
「遊びに行きませんか?えと、二人で」
「あ、う、うんっ!行こうっ!行こっか!」
お?
「へ、あ、え、い、いいんですか?」
「うん。いいよ。しよ。デート」
「あ、は、はいっ。しましょう。でーと」
え、な、なんか、どうやら成功した?おっけ~もらえた?というか、遊びに行くというより、ちゃんと「デート」ってことになってるし?
え、マジか……。
マジかよ!!!やった!やったぞっ!つ、ついに女の子と、いやベアさんとデートできるぞ!うわやった!やったぁっ!
「あ~えっと。……それで、なんだけどさ」
「へ?あ、はい」
そうしてあまりの喜びで固まる俺に、再び彼女は改まって声をかけてくる。
しかし今度はどこか気まずそうだ。なんだか忙しないね。でもそういう表情豊かなところも良い。好きかもです。
「あたし、昨日えっちできなかったから、実は結構今ヤバくて……」
「へっ」
「安心したらソレがどっと来たっていうか、なんていうか……。その、シよ?昨日の今日でごめんなんだけど」
「あっ」
なんて思っていると、スネの辺りに何かが触れる。そしてつーっと悩ましい動きで昇ってくる。
あこれ絶対ベアさんの足先だ!んでこれアレの誘いだ!いや急だな!?で、でも。でも……。
「ね、お願い。バンくん……」
「はい」
俺も急にスイッチが入る。いや、だって俺も昨日できなかったからね。あと安心したら来たよね。ハハハ。俺たち似た者同士だねベアさんなんつって。あ、俺やっぱりこの人のこと好きだ。似てるし、優しくて。
というわけで、この後ベアさんの部屋にてえっちをするのでした。なんかやたら甘かった。俺らって付き合ってたっけ?いや、デートすらまだだよ自惚れんな俺。それが上手くいってからそんなこと言いましょう。
あと、流石に盛り上がりすぎたのか途中でテトラさんが乱入してきてめちゃくちゃ怒られました。しかも俺とベアさん全裸のままで。トホホ。……今度は俺んちでします。




