第44話 代替装置
ゴーレム。
人よりひと回り大きい、岩の巨体。
ターニャは腕を組んで見つめている。
「……やっぱり怖いな」
岩の顔にはまったく表情がない。
エルフの里から少し離れた場所に、簡易の作業場が作られていた。
その中央に岩の人型が横たわっている。
グラムベルクは胸を張る。
「帝国の戦場で拾ったんだ」
「動かなくなったヤツを一体だけ回収できた」
アリソンが頷く。
帝国軍が撤退した後、運よくグラムベルクが見つけてきた。
「修理は出来るの?」
ターニャが聞く。
グラムベルクは笑った。
「動力は残っておるから修理はいらん」
「こいつがどう動いているか調べてみよう」
魔道工具を使って、アリソンがゴーレムの胸を開く。
内部には複雑な魔法陣が刻まれていた。
円形の回路とその中心に砂のような結晶。
「これが魔砂か」
魔力を蓄えた砂。
ゴーレムを動かすエネルギー。
グラムベルクが顎ひげを撫でながら言う。
「魔石ほど強力ではない… だが光が安定しておる」
「これなら長時間動かせそうだ」
アリソンはじっくりと魔法陣を観察する。
細部は不明だが全体構造は単純だった。
(これなら理解できる)
「驚いた。これ… よく暴走しなかったな」
「運が良かっただけだ」
魔法陣の制御環がツギハギだらけだった。
「行動制御、環境認識」
「設計じゃなくて偶然動いてる感じだ、これ」
そして。
「使役魔法の受信回路」
ターニャが首を傾げる。
「命令をきくところ?」
「そうだ」
アリソンは頷く。
「多分、魔族はこの回路に命令を送る」
「それでゴーレムは動くんだ」
グラムベルクがニヤリと笑う。
「ならば、そこを改造する」
アリソンも頷いた。
「精霊通信に接続させる」
そしてアリソンは設計を始める。
「受信回路を精霊通信具につなぐ…」
「ここでターニャの血を使って…」
「え! いま何か変なこと言った?」
ターニャの血を少しもらうため、その説得に手間取りつつも。
数時間後。
ゴーレムの胸に新しい装置が組み込まれていた。
グラムベルクが言う。
「よし、試すぞ」
ターニャの腰が引ける。
「これ暴れないよね?」
「多分な、でも少し下がろう」
アリソンは魔力を込めてゴーレムを起動する。
そして。
ゴーレムの胸の魔法陣が光った。
――ズッ……ゴゴッ
岩と岩が擦れる、重い音。
ゴーレムの関節がゆっくりと動き出し、立ち上がる。
ターニャが目を丸くして見上げる。
「動いた!」
次の瞬間、ゴーレムの腕がわずかに振り上がった。
「っ!?」
ターニャが一歩引く。
だが、その動きは途中で止まった。
ゆっくりと腕が下がる。
そして立ったまま動かなくなった。
(今のは危なかった、次からは安全優先で)
アリソンは周囲を見て、空気の微妙な変化に気づく。
「ルナシールド、精霊はどうかな?」
ルナシールドは体の周りに風の膜を作ってみる。
風属性魔法が安定して発動し続ける。
「驚きました! 精霊の流れが整っています」
アリソンは頷いた。
「このゴーレムが精霊通信の調整役になれている」
ターニャが念を押す。
「成功ってこと?」
「……一応、動いてる」
アリソンは森を見る。
「でも範囲は狭い」
ゴーレムの周囲、せいぜい数十メートル。
森全体にはまったく足りない。
「歩行制御を追加して、移動で範囲を広げるとして」
グラムベルクも頷く。
「森全体を安定させるなら十体は必要だな」
ターニャの声が大きくなる。
「それで森を守れるなら、すぐ作ろうよ!」
アリソンとグラムベルクは同時に言った。
「無理だ」
「なんで!」
ターニャがムッとする。
アリソンはゴーレムの胸を指差す。
「魔砂、これが問題だ」
グラムベルクが説明する。
「ゴーレム一体につき、そこそこの量の魔砂が必要だ」
「消費した分の補充も要る」
グラムベルクは腕を組む。
「魔砂は帝国の資源だ」
「王国にはほとんどない」
「…」
守護獣の代替を作るには。
アリソンは小さく息を吐いた。
「……結局、帝国に頼るしかないのか」
ターニャが言う。
「帝国のカリウス?」
「うん…」
まだ完全には安定していない。
ゴーレムの周囲だけが静かだ。
アリソンは力強く言った。
「でも、守護獣の代わりは見つかった」
精霊を安定させる装置。
問題は資源だけだ。
アリソンは静かに言った。
「交渉するしかないな」
守るために。
この森と世界を。




