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魔法設計士  ― この世界の魔法、全部バグってます  作者: 有松
第4章 避けられぬ戦い ― 代償の始まり
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第31話 開戦 ― 南端


「陛下!」


甲高い声が響いた。


「帝国軍は既に動いております」


アルディオン王国 王都。

王城の大広間には重い沈黙が満ちていた。

広間の壁には王国の紋章旗が並び、貴族や将軍たちが整列している。

バルドランは一歩前へ出た。


「このままでは、南方の森はすべて帝国に奪われてしまいます」


「…」


国王はしばらく目を閉じ、やがて静かに声を落とす。


「……避けられぬのか」


誰も、答えなかった。

答えられるのは一人しかいない。

バルドランが跪いた。


「陛下。王国の民と土地を守るため、帝国への宣戦を進言いたします」


その場の全てが静かに息を呑んだ。

否定する者はいない。

国王はゆっくりと頷いた。


「よかろう」


その声は確かな重みを持っていた。


「王国はザルカーン帝国に宣戦を布告する」


その言葉と同時に、その場の空気が変わった。

重臣たちがざわめく。


「ただちに南方軍を進めよ」

「アル・ザハル砦を包囲し、帝国の北進を止めるのだ」


バルドランが深く頭を下げる。


「御意」


王国の戦争はこうして始まった。



ー西の大森林南端ー


夜明け前の空を背景に、丘陵の上にそびえ立つ石造りの要塞。

アル・ザハル砦。

その周囲は王国軍に取り囲まれていた。

やがて号令が響く。


「魔導砲、第一列。装填!」


魔法工兵隊が魔石の炉に手をかざす。

砲身に刻まれた魔法陣が鈍く輝く。


「撃てーっ!」


 ーードゴーン!


炎をまとった砲弾は真っ赤な礫となって砦の外壁へ叩きつけられる。

壁は煙とともに崩れ落ち悲鳴にも似た怒号が聞こえてくる。


「魔導防壁を張れ! 次が来るぞー」


半透明の防御壁が砦を包む。


「第二列、放てー!」


絶え間なく火球が降り注ぐ。


丘の下では王国歩兵隊がゆっくりと前進していた。

盾を掲げ、少しづつ城門へ近づいていく。


「ただちに門を破壊しろ!」


砲撃の間隙を縫い兵たちは距離を詰める。

その時――

砦の城門が開いた。


「何だあれは?」


岩と砂が生き物のように集まり巨大な人型を作る。

その三つの巨体が砦の前へ歩み出た。

人の形をしているがそれは人ではない。


「ゴーレムだ!」


挿絵(By みてみん)


その圧力で歩兵の動きは止まり、ゴーレムの拳が振り下ろされる。

地面が砕け最前列の兵が吹き飛ばされる。


「こ、こんなのとは戦えない!」


「怖気づくな! 逃げることは許さん」


逃げる者と踏みとどまる者がぶつかり合う。

しかし次の瞬間。

丘の上から別の号令。


「魔導砲、あのゴーレムを狙え!」


再び轟音。

火炎弾がゴーレムの胸部を削り取る、破片が四方へ飛び散る。

岩の体はその半分が吹き飛ばされ、残りはただの岩となった。


「いける、倒せるぞ!」


だがその後ろでは、新たな二体が立ち上がっていた。


その頃。

ーザルカーン帝国、帝都ー

戦略会議の間で帝国貴族たちがざわめている。


「アル・ザハル砦が包囲されました!」


報告の声が響く。


「ついに王国が宣戦したか!」

「それで戦況はどうなっているのだ」


怒号と不安が入り混じる中、報告官が答える。


「王国軍の三個軍団。魔法工兵隊も確認されています」

「現状では大きな被害は確認されておりません」


貴族たちが騒ぐ。


「早急に竜を出すべきだ!」

「竜騎兵を送れば砦など一日で解放できる!」


その時。

低い声が響いた。


「それは時期尚早です」


発言したのは一人の男。

黒い外套を纏った帝国の知将。カリウス・ノクス。

場が静まる中、彼は続けた。


「竜は最後の切り札です」

「戦争の本格化にそなえ、今は温存すべきです」


年老いた貴族が吐き捨てる。


「臆病風か、カリウス」


「砦は持ちます」

「魔獣大隊も数日で到着するでしょう」


議場は再びざわめく。

しかし貴族たちの不満は消えない。

その時だった。

静かな声が響いた。


「竜を出すべきでしょう」


全員の視線が一斉に向く。

玉座の横に立つ一人の女性。

長い黒髪を背に流し黒い軍装を纏っている。


イリス・ザルメディア。


彼女の言葉はこの場の全てを支配するかのようだった。


「あのお方は?」


議場の片隅で囁く二人の女中。

普段は皇帝や貴族の身の回りを整え、今日はこの場の給仕をしていた。


「イリス様を知らないの? 皇帝陛下の妹君よ」


「え? あの人が?」


「帝国竜騎兵隊の長、そして実質的な軍の総司令官」

「この帝国を築いた人と言えるわね」


――だが、彼女は皇帝にはならなかった。


歴代皇帝は「黒竜を従える者」である。

しかしイリスは、ただ一体―― 黒竜だけは従わせることができなかった。


イリスはゆっくりと議場を見渡し歩き出す。


「アル・ザハルは帝国北方の盾」

「これを失えば北は崩れます」


貴族たちは皆、無言で頷きながらイリスの言葉を待つ。


「竜騎兵が出れば、この戦いはすぐ終わる」


その声には確信があった。

だが、カリウスは即座に声を上げる。


「早計です、殿下!」


イリスは彼を見た。

冷たい瞳。


「戦争とは速さです」


そして玉座の皇帝へ視線を向けた。


「兄上、今すぐ竜を出すべきです」


議場は静まり返る。

皇帝はやがて静かに口を開く。


「……まだだ」


短い言葉だった。

しかし、それは明確な拒否。

イリスは何も言わず、ただ静かに皇帝を見つめた。

その瞳の奥で何かが揺れていた。



ー西の大森林南端ー


アル・ザハル砦。

王国の魔導砲は火を吐き続け、歩兵は城門にせまる。

揺らぐかに見える砦の内部では、岩の人型は音もなく増え続けていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


物語はここから大きく動き始めます。

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