第22話 帝国の知将に目を付けられた
ザルカーン帝国の首都――ジオドラゴ。
黒い岩山を削り出して築かれた巨大都市の中心。
竜の骨を思わせる塔群の奥に、皇帝宮がそびえていた。
その奥にある戦略会議の間では、重苦しい空気が漂っていた。
中央の魔導地図には、帝国全土の魔力回収施設が光点で表示されている。
そのうちの一つが――消えていた。
「……破壊された、だと?」
玉座から低い声が響く。
報告役の将校は跪いたまま答えた。
「はっ。南方第二魔力回収施設、完全崩壊。守備隊も壊滅しました」
会議室がざわめく。
「王国軍の仕業に違いない!」
「ついに戦争か!」
「皇帝陛下、これは宣戦布告と同じです!」
声を上げているのは帝国貴族たちだった。
「直ちに軍を動かすべきです!」
「人族など、帝国軍の敵ではない!」
怒号が飛び交う。
しかし――。
「……発言を許されますか」
静かな声がそれを遮った。
発言したのは一人の魔族。
漆黒の軍装をまとった青年。
肩には将軍の紋章が刻まれている。
帝国軍の中でも異色の存在。
魔導技術に精通した将軍。
カリウス・ノクス。
武功よりも、戦術と技術で出世した男だった。
貴族の一人が不満げに言う。
「カリウス将軍か。貴殿は戦争を避けたいのではなかったか?」
カリウスは淡々と答えた。
「私は帝国の利益を優先しているだけです」
皇帝が静かに言う。
「……続けよ」
カリウスは懐から一つの装置を取り出した。
「これは、破壊された施設内で回収されたものです」
ざわめきが広がる。
「人族の魔導具か?」
「いえ」
カリウスは首を振った。
「帝国のものとも、人族のものとも違う」
彼は机の上にそれを置いた。
「この装置は、施設を一瞬で崩壊させました」
会議室がざわつく。
「あんな小さなものがか?」
「信じられん……」
カリウスは淡々と続けた。
「さらに重要なのは、ここです」
彼はその内部の魔法陣を指さす。
「この魔導装置は誰でも扱えるよう汎用化されています」
沈黙が落ちた。
貴族の一人が声を荒げる。
「馬鹿な! 魔法は才能と血統だ!」
カリウスは静かにそれを見つめた。
「いいえ」
「これは違います」
彼は言い切った。
「この装置の設計者は――」
一瞬、言葉を区切る。
「この設計者は――
魔法を技術として扱っている」
沈黙が落ちる。
帝国の魔法は、血統と才能の力。
それが常識。
しかしこの装置は――。
明らかに違う思想で作られていた。
カリウスは魔導地図を見る。
「施設を破壊した者」
「王国軍ではない可能性があります」
「何?」
「もし持ち主が同一人物なら」
彼は言った。
「魔導施設を破壊したのは」
「単独の技術者です」
怒号が上がった。
「あり得ん!」
「施設は要塞だぞ!」
しかしカリウスの表情は変わらない。
「私は将軍です」
「そして技術者でもあります」
彼は断言した。
「この設計者は――」
「帝国が持つ魔導知識の先にいます」
空気が凍った。
皇帝の目が細くなる。
「理由は?」
「簡単です」
カリウスは装置の魔法陣を指でなぞった。
「この装置」
「魔力効率が帝国魔導具の三倍以上あります」
ざわめきが走る。
「三倍だと……」
カリウスは続けた。
「もしこの人物が敵なら」
「戦争は危険です」
貴族が怒鳴る。
「臆病者!」
カリウスは落ち着いて答える。
「違います」
「問題は戦力ではない」
彼の声は静かだった。
「理解力です」
「この人物は魔法の欠陥を理解しています」
「つまり」
「帝国の魔導文化そのものを破壊できる可能性がある」
会議室が凍りついた。
帝国の軍事力は魔導技術に依存している。
それが崩れれば――。
国家の根幹が揺らぐ。
カリウスは皇帝に向き直った。
「陛下」
「私は戦争ではなく」
「接触を提案します」
貴族が怒鳴る。
「敵と交渉するだと!?」
「はい」
カリウスは即答した。
「この人物は」
「敵にするより」
「理解すべき存在です」
長い沈黙。
そして――。
皇帝が笑った。
「……面白い」
貴族たちが驚く。
「陛下!?」
皇帝は玉座にもたれた。
「魔法を技術として扱う者か」
「それが本当なら」
皇帝の目が光る。
「余も会ってみたい」
そして命令が下る。
「カリウス・ノクス」
「はっ」
「その者を探せ」
短い沈黙。
「戦争は」
「それからでも遅くない」
カリウスは深く頭を下げた。
「御意」
彼は机の上の通信具を手に取る。
(魔法を技術として扱う者……)
(もし存在するなら)
その瞳がわずかに輝く。
(会ってみたい)
帝国はまだ知らない。
魔法の世界に現れた――
エンジニアという異物を。
そしてその頃。
王国では。
アリソンたちが、
新たな試みを始めようとしていた。
帝国と王国。
二つの世界の歯車が、
静かに動き始めていた。




