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第14話 ヒロインが“鍵”になってしまった

エルフの里の朝は静かだった。

巨大な樹木の枝を渡る風。葉の隙間を流れる光。

水路の水音が小さく響いている。

里の広場では、グラムベルクが机いっぱいに道具を広げていた。

金属の枠。

小さな魔石。

術式布。


ドワーフは満面の笑みで言った。

「よし!」

「やれるぞ!」

ターニャが腕を組む。

「何が?」

グラムベルクは得意げに言った。

「精霊通信具だ」

ミレイアが眉を上げる。

「もう作ったの?」

グラムベルクは笑った。

「天才だからな」

ルナシールドが静かに言う。

「説明してください」


グラムベルクは装置を持ち上げた。

金属の枠の中央に小さな魔石がはめ込まれている。

周囲には術式布が巻かれていた。

「こいつは精霊通信に触れることができる」

「そして――」

アリソンが言う。

「精霊通信を乱すものを跳ね返すために使う」

ミレイアがひらめいたとばかりに言う。

「白鹿を鎮めたときのあれね」

アリソンは頷いて続けた。

「森の巨大魔石に繋げば半永久的に機能する」

グラムベルクは少し言いにくそうにした。

「ただそのためにはな・・・」

アリソンが静かに言った。

「ターニャの血が必要なんだ」

一瞬、空気が止まった。ターニャが目を瞬く。

「……え?」


グラムベルクが頭を掻く。

「血紋器の結果だ」

「お前の血がないと、この装置は起動しない」

ルナシールドが眉を寄せる。

「それは安全なのですか」

グラムベルクは肩をすくめた。

「一滴でいい」

ターニャは黙った。自分の手を見る。

「……そう」

アリソンが言う。

「無理にやる必要はない」


ターニャは首を振った。

「やるわ」

そしてナイフを取る。小さく指を切る。

血が一滴落ちた。魔道具が光る。

術式布が淡く輝いた。

ミレイアが目を見開く。

「動いた……」

アリソンは装置を観測していた。

「周囲の魔力の流れが安定した!」

グラムベルクが興奮する。

「成功だ!」

ターニャは笑わなかった。自分の指を見ている。

そこから落ちた血。小さな赤い跡。

グラムベルクは満足そうだった。

「これが量産できれば」

「森の通信を守れる」

アリソンは頷く。

「ただし」

「鍵が必要だ」

全員の視線がターニャに向いた。


その夜。

エルフの里は静かだった。樹上の橋に灯りが揺れる。

森の風がゆっくり流れていた。

ターニャは一人で橋に立っていた。

遠くの森を見る。暗い森。精霊の光が小さく揺れている。

後ろから足音がした。

振り向く。アリソンだった。

「眠れない?」

ターニャは苦笑した。

「ちょっとね」

少し間が空く。

ターニャが言った。

「私の血」

「変なんでしょ」


アリソンは首を振る。

「変じゃない」

「ちょっと珍しいだけだ」

ターニャは小さく笑う。

「それ同じじゃない?」

風が吹く。森の匂いが流れる。

ターニャが静かに言った。

「なんかさ」

「自分が道具みたいで」

声が少しだけ震えていた。

「ちょっと怖い」


アリソンは黙って聞いていた。

やがて言う。

「ターニャ」

「君は道具じゃない」

ターニャが顔を上げる。

アリソンは続けた。

「君がいなければ」

「トロールには勝てなかった」

「白鹿も止まらなかった」

少しだけ笑う。

「この旅も始まらなかった」


ターニャは何も言わなかった。

夜の森が静かに揺れる。

アリソンが言った。

「鍵があるなら」

「隠された扉も開けられる」

ターニャが小さく笑った。

「それ慰め?」

「エンジニアの比喩だ」

ターニャはしばらく黙っていた。

やがて言う。

「ねえ」

「もし私が」

「本当に鍵だったら」

アリソンが見る。

ターニャが続けた。

「最後まで付き合ってくれる?」

アリソンは迷わなかった。

「もちろん、約束する」

その答えにターニャは少しだけ安心した。


森の奥で精霊の光が揺れる。

だがその向こうでは誰かが森を見ていた。

エルフの里の外れ。

巨大な樹のそばで三つの影が静かに動く。

小さな角。砂色の外套。

魔族の斥候だった。

一人が低く言う。

「見たか」

もう一人が頷く。

「血だ」

三人目が言う。

「間違いない」


彼らは昼の出来事を見ていた。

少女の血。

そして変化した精霊通信。

斥候の一人が言う。

「報告するか?」

最年長の男が首を振った。

「時間がない」

「森の奥はエルフの巡回が多い」

少しだけ沈黙。

そして言う。

「ここで俺たちが捕える」

視線の先。樹上の橋。

そこに――ターニャの姿があった。

男は短く言った。

「今夜だ」


三つの影が静かに消える。森は何も知らない。

そして。


橋の上では―― まだ二人の会話が続いていた。

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