第12話 守護獣の魔法陣を解析した結果
森の奥から地鳴りが響いた。
低く、重い音。地面が震える。
ルナシールドが森の奥を見た。次の瞬間。
木々が大きく揺れた。
枝が折れる音。巨大な白い影が姿を現した。
白鹿。
枝のように広がる巨大な角。雪のような体毛。
だが――その瞳は赤く染まっていた。
「守護獣……」
ルナシールドが息を呑む。
「暴走しています」
白鹿が地面を踏み鳴らした。
ドン。
衝撃波が広がる。ミレイアが叫ぶ。
「来るわよ!」
白鹿が突進する。巨体とは思えない速度だった。
「重力場!」
ミレイアが手をかざす。空気が歪む。
白鹿の速度がわずかに落ちる。
だが止まらない。
ルナシールドが詠唱する。
「風の精霊よ!」
風が走る。
白鹿の体が揺れる。
それでも――止まらない。
ターニャが火球を放つ。
炎が白い体毛を舐める。
だが白鹿は傷ひとつ負わない。
「効いてない!」
グラムベルクが叫ぶ。
「なんだあの魔力!」
アリソンは動かなかった。ただ、白鹿を見ている。
(魔力……)
体表を流れる光。それは白鹿の内部からではない。
外から供給されている。
(精霊通信)
白鹿は森の守護獣だ。
精霊ネットワークから魔力を受け取っている。
だが今は。
(供給が乱れている……?)
白鹿がターニャへ向かって突進した。
「来なさい!」
炎を纏った刃を構える。白鹿が突進する。
衝突の直前。ターニャが斬りつけた。火花が散る。
だが次の瞬間。白鹿の角が振り上がる。
「危ない!」
ミレイアが叫ぶ。
ターニャの腕をわずかにかすめ服が裂ける。
白鹿の巨体が迫る。
アリソンが叫ぶ。
「ターニャ!」
その瞬間。ターニャの傷口から落ちた一滴の血が魔力を放つ。
炎ではない。
波。
複雑な魔力の振動。
ターニャの足元に魔法陣が広がる。
だがそれは――誰も見たことのない構造だった。
線が分岐する。回路が重なる。
白鹿の突進が止まった。その瞳が揺れる。
「……え?」
ターニャが呟く。
白鹿はその場で止まった。巨大な体が静かに揺れる。
そして――ゆっくりと首を下げた。
赤く染まっていた瞳が、元の蒼色へ戻っていく。
森が静かになった。
ミレイアが呟く。
「……止まった?」
ルナシールドが息を吐く。
「守護獣が……鎮まりました」
ターニャは呆然としていた。
自分の手を見る。
「今……私、何したの?」
誰も答えられない。ただ一人。
アリソンだけが、ターニャの足元を見ていた。
そこには――淡く光る魔法陣が残っていた。
線が途中で分岐している。回路のように交差している。
アリソンはしゃがみ込む。
(この形……)
どこか見覚えがあった。
円。接続点。
そして中心で線が分かれている。
(……トロールのときの?)
(それに反転制御もみえる!)
アリソンは魔法陣を指さす。
「精霊通信の構造を変化させている」
ターニャは首を傾げる。
「変化って?」
アリソンは言葉を探す。
「外部からの侵入を遮断したみたいだ」
「それがどうして白鹿をおとなしくさせたの?」
暴走や攻撃に見えた白鹿の行動は異常への反応。
アリソンは小さく呟く。
「例外処理だ」
「え?」
ターニャが振り向く。
アリソンは白鹿が消えた森の奥を見る。
「白鹿は暴走してたわけじゃない」
「精霊の異常を修復するため、ターニャに接触したんだ」
ミレイアが息を呑む。
「それって……」
アリソンはまだ断定しなかった。
ただ小さく呟いた。
「ターニャの血が解決の鍵かもしれない」
森の魔力は精霊によって循環している。
その流れが今、乱れている。
誰かが――外から触っている。
風が吹いた。遠くで白鹿の足音が消える。
だが。森の奥では今も。
見えない何かが――精霊通信に触れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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