エピローグ
「……全っ然、気づかなかった」
ミカは口をポカンと開けて私を見る。その口にお菓子を運び込もうとしていた手も止まる。
「というか、在学中に付き合ってないし、気づくも何もなくない?」
「けど卒業してすぐ付き合いだしたんでしょ!? それもうスクールインラブだよね!?」
ガラっと変わってしまった生活にも、少しずつ慣れてきた頃。
私はミカの家で、何でもない顔をしてお茶を飲んでいた。
「まぁ、卒業後に公園でバッタリ会ってフォーリンラブしたという事で良いじゃん?」
「納得出来んわッ! え、ちょっと待って、何が起こったん?! えっ、進路指導室とか!? そんな雰囲気あった!?」
頭を抱えて振り乱すその姿はなんだか可愛い。
……仕方がない。私は進路指導室から始まった物語を一つずつ、丁寧に語っていく事にした。
「……もう在学中に付き合ってまえば良かったんちゃうのん!?」
「なんで関西弁なの」
「だって、もう既に恋始まってるじゃん!」
「いや、まだこの時は恋かどうか分からなかったし」
「恋だよっ!」
ミカのリアクションは一々面白い。
「自覚したなら、そこでもう葉月が告白しちゃえば良かったじゃん!?」
「いや、そうしたら辞表が出てくるから駄目」
「でも夏祭りでバッタリでしょ?? 流石に持ち歩いてないじゃん!」
「どちらにせよ、教師辞めるんじゃないかな……」
「真面目かッ……!」
ミカは机をドンと叩いた。
「で、先生はさ。その時、ちょっとだけ間があって――『本命の試験、頑張れよ』って」
「溜めに溜めてそれ!? 先生の本命目の前に居るじゃん! お互い本命じゃん! 試験とかどうでも良いじゃん!」
「いや、試験は大事だから」
「そうだけど、『先生に会うために、決まってるじゃないですか?』ってもう告白やん! 遠まわしに見せかけて、もうただの熱い想いやで!」
「もしかしてそれ、何かの芸人の真似してる?」
ミカは、自分を抱きしめて身をよじった。
「――って感じで再会して……今に至るって感じかな」
そこには、目を潤ませて聞くミカの姿があった。
「マジ泣ける……」
「泣く要素あった?」
「先生に向かって走るとこ」
「まぁ私、第四中の韋駄天ギャルと呼ばれてたし」
「あ、葉月。それいらない。情緒が台無しになる」
「情緒って……」
あまり真剣に聞かれても……恥ずかしい。
「っていうか……最後の告白のトコさ。動画ないの?」
「え? あるわけないじゃん」
「公園って、うち近くの……あの公園だよね?」
「うん」
「なんで呼んでくれなかったの?」
「いや、フラっと行っただけだったし」
「あ~~もう!見たかったぁぁ~~~!!」
「見なくていいし、恥ずかしい」
「撮影してインスタ確定」
「拡散すんな」
「BGM選定も任せて?」
「加工もすんな」
その後はミカの家で晩御飯もご馳走になって。さらに話していると、すっかり夜も更けてしまった。
「うあっ!? もうこんな時間?? ごめん、葉月。電車の時間大丈夫? っていうかもう泊まってく?」
「大丈夫だよ。ここから歩いてすぐだし」
「駅は近いけど電車無くない!?」
「いや、家近いし」
「え? 引っ越した? 一人暮らし??」
「ううん、違う。晶の家、すぐそこだから」
ミカはカチンと凍った。しかし、その心はヒートアップで即解凍。
「やってんなぁ~~~ッ!?!?」
私はコップに残ったお茶を飲み干しながら、笑う。
恋って、思ってたよりずっと、忙しくて、うるさくて、でも――楽しい。
* * *
玄関でミカに見送られる。少し歩くと、ひょろっと高い人影が見えた。
「……なにしてるの?」
「散歩」
「嘘つき」
私達は手を繋いで、歩き出す。




