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陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
十章 とこしえの夜語
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生のために、死へ

※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。


しばらくして、三人は崩れた道を踏みしめながら、再び町へと戻っていた。


ミナトは町を見渡すように歩いている。

ヒヨリは無言のまま、ミナトたちのすぐ後ろを静かに歩く。

そしてシズクは、その目に決意を宿しながら、ただ前を見据えていた。


町は、まだ生きていた。

壊れた家々の間から、人々の呻き声や助けを求める声がかすかに聞こえる。


三人は散って、人命救助にあたった。

岩をどけ、崩れた梁を引き上げ、血にまみれた手を取り、必死に声をかける。


「大丈夫だ、今助ける!」

「しっかりして、ほら……!」

やがて、人々の間にどよめきが起きた。


「……あの子……」

「逝導様……?」

「ほんとだ…」

噂が波紋のように広がっていく。

気づけば、人々が、静かに三人の周囲に集まっていた。


囲む人々の顔は、疲労と絶望に塗れていた。

その多くが、家族を、愛する人を、この地獄の中で失っていた。


一人の老人が、ぽつりと声をあげた。


「逝導様…お願いです…煌を、浄化してください……」

「わしの孫も、妻も…目の前で……!」


別の女が涙ながらに叫ぶ。


「逝導様…あなたしかいないんです…!」

静かな懇願が、やがて祈りのような輪となり、三人を包み込む。


シズクは唇をかみしめ、うつむいた。

その肩が、小さく震えているのをミナトは見た。


やがて、シズクが口を開いた。


「すみません…今のままでは…できません」

「煌の浄化のためには…妖異を降ろす必要があります。そのために贄が必要なんです…祠で祈っていた贄の方達は皆、巻き込まれて……」

ざわめきが広がる。


「じゃあ……もう、煌は……止められないのか……?」

「また来るんじゃないのか……?」

「こんな……」

沈黙。

その空白を、ひとつの声が破った。


「俺が、贄になる」

若い男だった。傷だらけの体を引きずりながら、前へと歩み出る。

 

「家族も仲間も、全員死んだ…俺にはもう、何もない。だったら、最後に誰かのためになりたい」


「私も……」

今度は老婆が声を上げた。

 

「この歳まで生きて、もう十分や。若い子が死ぬのはもう見とられん」


「僕も……っ、やります……!」

次々に手が上がる。

血まみれの、涙まみれの、人々の声。

それは絶望ではなく、希望の形だった。


ミナトは、その場に立ち尽くしていた。

隣でシズクが、拳を握りしめ、震えていた。

そしてヒヨリは、いつもと変わらぬ無言のまま、ただじっと人々を見つめていた。


やがてシズクはゆっくりと目を閉じた。

瞼の裏には、たぶん、煌が焼き付いていた。


そして、再び目を開けたとき、その瞳は、揺らぎなく、前を見据えていた。


シズクは、一歩前に出た。

目の前の人々を、ひとりひとり、しっかりと見据える。


「…お願いします」

その声は静かだった。

けれど、誰の耳にも、確かに届いた。


「必ず、煌を浄化します」

その言葉に、辺りの空気が凛と張り詰める。

人々は息を呑み、胸を押さえながら、ただシズクを見つめていた。


ミナトは、その背中を見ながら、拳を握りしめる。

もう、止める理由はなかった。


そしてシズクは、振り返って言った。


「祠へ向かいましょう。贄となる方々も…案内します」

人々は静かにうなずき、列をなして動き出した。

誰も言葉を発しなかった。

けれどその歩みには、確かな決意があった。


峡谷の西の外れ、岩山の祠へ。

煌に立ち向かうための、次なる妖異を降ろすために。


それは、生と死のはざまに、静かに灯った光の行進だった。


読んでくださりありがとうございます!よければ、ブクマや感想いただけるととっても励みになります!

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