生のために、死へ
※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。
しばらくして、三人は崩れた道を踏みしめながら、再び町へと戻っていた。
ミナトは町を見渡すように歩いている。
ヒヨリは無言のまま、ミナトたちのすぐ後ろを静かに歩く。
そしてシズクは、その目に決意を宿しながら、ただ前を見据えていた。
町は、まだ生きていた。
壊れた家々の間から、人々の呻き声や助けを求める声がかすかに聞こえる。
三人は散って、人命救助にあたった。
岩をどけ、崩れた梁を引き上げ、血にまみれた手を取り、必死に声をかける。
「大丈夫だ、今助ける!」
「しっかりして、ほら……!」
やがて、人々の間にどよめきが起きた。
「……あの子……」
「逝導様……?」
「ほんとだ…」
噂が波紋のように広がっていく。
気づけば、人々が、静かに三人の周囲に集まっていた。
囲む人々の顔は、疲労と絶望に塗れていた。
その多くが、家族を、愛する人を、この地獄の中で失っていた。
一人の老人が、ぽつりと声をあげた。
「逝導様…お願いです…煌を、浄化してください……」
「わしの孫も、妻も…目の前で……!」
別の女が涙ながらに叫ぶ。
「逝導様…あなたしかいないんです…!」
静かな懇願が、やがて祈りのような輪となり、三人を包み込む。
シズクは唇をかみしめ、うつむいた。
その肩が、小さく震えているのをミナトは見た。
やがて、シズクが口を開いた。
「すみません…今のままでは…できません」
「煌の浄化のためには…妖異を降ろす必要があります。そのために贄が必要なんです…祠で祈っていた贄の方達は皆、巻き込まれて……」
ざわめきが広がる。
「じゃあ……もう、煌は……止められないのか……?」
「また来るんじゃないのか……?」
「こんな……」
沈黙。
その空白を、ひとつの声が破った。
「俺が、贄になる」
若い男だった。傷だらけの体を引きずりながら、前へと歩み出る。
「家族も仲間も、全員死んだ…俺にはもう、何もない。だったら、最後に誰かのためになりたい」
「私も……」
今度は老婆が声を上げた。
「この歳まで生きて、もう十分や。若い子が死ぬのはもう見とられん」
「僕も……っ、やります……!」
次々に手が上がる。
血まみれの、涙まみれの、人々の声。
それは絶望ではなく、希望の形だった。
ミナトは、その場に立ち尽くしていた。
隣でシズクが、拳を握りしめ、震えていた。
そしてヒヨリは、いつもと変わらぬ無言のまま、ただじっと人々を見つめていた。
やがてシズクはゆっくりと目を閉じた。
瞼の裏には、たぶん、煌が焼き付いていた。
そして、再び目を開けたとき、その瞳は、揺らぎなく、前を見据えていた。
シズクは、一歩前に出た。
目の前の人々を、ひとりひとり、しっかりと見据える。
「…お願いします」
その声は静かだった。
けれど、誰の耳にも、確かに届いた。
「必ず、煌を浄化します」
その言葉に、辺りの空気が凛と張り詰める。
人々は息を呑み、胸を押さえながら、ただシズクを見つめていた。
ミナトは、その背中を見ながら、拳を握りしめる。
もう、止める理由はなかった。
そしてシズクは、振り返って言った。
「祠へ向かいましょう。贄となる方々も…案内します」
人々は静かにうなずき、列をなして動き出した。
誰も言葉を発しなかった。
けれどその歩みには、確かな決意があった。
峡谷の西の外れ、岩山の祠へ。
煌に立ち向かうための、次なる妖異を降ろすために。
それは、生と死のはざまに、静かに灯った光の行進だった。
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