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陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
二章 揺らぐ
3/31

転移


重たいまぶたが、わずかに開く。

世界は、緑だった。深く、濃く、息苦しいほどに。


土と苔の匂いが鼻を突いた。頭はひどく重く、身体はまるで水の中に沈んでいるかのように力が入らない。

ミナトは地面に仰向けに倒れていた。

視界の上には、高く伸びた木々の枝葉が、青空をほとんど隠すように重なっている。鳥の声ひとつ聞こえず、森はしんと静まり返っていた。


「…ここは…」

かすれた声が漏れる。のろのろと身体を起こすと、全身の節々が悲鳴を上げた。

服は濡れ、砂と泥がついている。足元には、草がびっしりと生えていた。


ここは、どこだ?


そんな問いが何度も頭をよぎるが、答えは浮かばない。

目を閉じれば、海、渦、波。そして、あの“何か”。


「…あれは、なんだったんだ……」

ミナトは立ち上がる。森は密に入り組み、どの方向にも同じような木々と茂みが続いている。

進むべき道も、戻るべき場所も分からない。ただ、動かないわけにはいかなかった。


ゆっくりと足を前へ運び始める。木々の間を縫うように進むたび、葉がざわめき、小さな枝が服を引っかける。時折、湿った風が吹き抜けるが、その風はまるで呼吸を潜めた何かがこちらを見ているような、得体の知れない気配を孕んでいた。


歩きながら、ミナトは朧げな記憶をたどった。

あの黒くて長い、龍のような――いや、龍などという生き物で済ませられるような存在ではなかった。

禍々しく、恐ろしく、ただ姿を見るだけで心を握り潰されそうな感覚。


「…化け物」

言葉にしてみて、あらためて身体が震える。

あれは現実だったのか? それとも、死の間際に見た幻だったのか?

けれど、この森の空気の重たさ、草の濡れた感触、心臓の鼓動。

すべてが、あまりにも生きていることを実感させていた。


 

どれだけ歩いただろう。

森の風景に変化はなく、まるで同じところをぐるぐると回っているような錯覚に襲われる。

陽は射さず、時間の感覚も失われていた。


「くそっ…どこなんだ、ここ」

声を上げても、返ってくるのは静寂だけだった。

誰もいない。誰もいないのだ。この世界には、自分一人しかいないような錯覚すら感じさせる。


進む先に、何があるのかもわからない。だが、立ち止まっていれば、あの恐ろしい存在が再び現れるかもしれない。

森の奥で何かが蠢いているような気配が、常に背後にまとわりついていた。

ミナトはただ、森の奥へ、足を運び続けた。

※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。


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