歩く者たち
昼の光がまぶしく差し込む中、ミナトとシズクはシラギ街道を抜け、新たな道に足を踏み入れた。
コガネ街道は、舗装された道が広く、両脇には見渡す限りの金色に輝く草花や木々が並んでいる。その金色の輝きが、まるで日差しを吸い込んでいるかのように明るく、鮮やかだった。道の上を歩くと、風が柔らかく肌を撫で、空気が少し冷たく感じられた。シズクが歩く足取りも、少し軽く見える。
ミナトは街道の入り口に書かれた道の名前に目をやった。
「へえ…コガネ街道か…名前の通り、確かに金色の風景だな」
ミナトは周囲の景色を見回す。道の両側には、金色の草が茂り、その草が微風に揺れるたびに、まるで金粉が舞っているかのように輝く。
「夕方になると、もっと綺麗なんだよ」
シズクがふと口を開いた。
「周囲の草や木々が黄金色に染まって、一面が金の海に包まれるような光景になるんだよ」
「それ、すごい綺麗だろうな…」
ミナトは思わずその景色を想像し、息を呑んだ。夕方の時間帯にまたここを通るのも悪くないかもしれないと思ったが、すぐに現実に引き戻されるように目を下ろした。
歩きながら、ふと、道の脇に掲げられた掲示板が目に入った。
そこには大きな文字で「煌討滅団員 募集」の文字が記されていた。
「煌討滅団?」
ミナトがつぶやいた。
掲示板の内容は、煌を倒すために必要な力を募っているというものだった。依頼主はユウキョウの商会や領主の名が挙げられ、煌と戦う者を集めているという。
「なんだこれ?煌を倒すって」
ミナトは掲示板に指を刺して質問した。
シズクは後ろでその掲示をじっと見つめていた。
そして小さい声で言った。
「人の力じゃ煌は倒せないよ」
シズクは掲示板から視線を外さずに、呟くように話を続けた。
「討滅団は…一年と半年くらい前に結成されたの。煌を倒すことを目的にしてるって書いてるけど…」
その声にはどこか哀しみと、少しの諦めがにじんでいた。
「人が、煌と正面から戦って勝てるわけがない。むしろ、討滅団が動くたびに、団員の犠牲者が増えていくばかり…できることはせいぜい、煌の被害を少しでも遅らせるための、壁になること」
「…それでも、参加する人はいるんだな」
ミナトが掲示板の下に貼られた名前や印を指でなぞりながら呟く。
「うん。多いよ。ほとんどが、煌にすべてを壊された人たち。家族を、故郷を、未来を…全部。戦う理由が、そこにしかなくなった人たち…」
風が静かに草を揺らし、金色の道がきらきらと陽に照らされる。
ミナトはしばらく掲示板を見つめたまま、目を細めて、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、早く煌を浄化しないとな」
その言葉は、風に乗ってコガネ街道の陽の中に溶けていった。
シズクは少し驚いたように目を伏せ、それから微かに笑った。寂しさを含んだ、けれどどこか救われるような笑みだった。
「…そうだね。そうしなきゃ」
ミナトはその顔を横目に見て、何も言わずに前を向き、また一歩足を進めた。
昼の陽が高くなり、コガネ街道はますますその名にふさわしく、道の両脇を金の光で満たしていた。吹き抜ける風さえ、どこか柔らかな温度を帯びていた。
そんな中、ミナトがふと足を止めた。
「あれ、誰か倒れてないか?」
ミナトがふと前方を指さした。道端の草の陰に、白っぽい布のようなものが見える。近づくと、それが人の姿であることがわかった。
「おい大丈夫か!」
駆け寄ったミナトの背中を追うように、シズクも足を速めた。少女は顔を伏せるようにして倒れており、呼吸は浅いがかすかに動いている。身体は薄汚れ、足元にはいくつか擦り傷や切り傷が見られた。靴は片方だけ脱げており、その足には土ぼこりがこびりついていた。
「……だいぶ歩いてきたみたい。足の筋も腫れてる。どこから来たんだろう…」
シズクが手早く容体を確認しながら、冷静に判断する。
「ひとまず、ここじゃだめだ。近くに休めるところはないか?」
「確か、コガネ街道から少し南に逸れたところに小さな集落があったはず。昨日、宿で地図を見たの」
「よし、運ぼう」
ミナトは躊躇いなく少女の身体を抱き上げた。驚くほど軽かった。その軽さに、彼女がどれほどの距離を、どれだけの思いで歩いてきたのかを想像し、胸が締めつけられた。
「…何があったんだ、いったい」
ミナトの問いに、少女は何も答えなかった。眠っているように目を閉じ、わずかに眉間を寄せているだけだった。
二人は言葉を交わさず、静かにコガネ街道を逸れて、陽の向こうに霞む集落を目指して歩き始めた。
※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。




