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さいしゅうわ。決め手はカツ丼でした。

最終話になります。

少し長くなってしまい申し訳ありません。





 

 あれからというものわしはこの宿屋兼食堂にて必死に働いた。


 毎日毎日村人Aことアリアのセクハラ事案をなんとか我慢して、我慢して我慢して乗り越えてきた。


 朝昼晩と毎食とても美味い飯が腹いっぱい食べられるという至福と、それらがすべてアリアの手作りという苦痛。

 相反するそれらを妥協と諦めで乗り越えたわしに、もう敵は無かった。


 そう、今のわしは完全に……。


「おはようレフィアちゃん」


「……」


「今日もかわいいねレフィアちゃん」


「……」


「おぱんちゅ見せてほしいな」


「……」


「れ、レフィアちゃん……?」


「……」


 そう、今のわしは完全に、心が死に絶えていた。


「レフィアちゃん! 目から光が消えてるよ!! ダメだ、それじゃあダメなんだ!」


 何を言っとるんじゃこの阿呆は。

 お主が毎日毎日くだらんセクハラばかりしてくるからわしはもう疲れてしまったのじゃ……。


 ただの生きる屍じゃ。


 何も感じないし何も考えたくない。

 でも生きなくてはならぬので無心で働く。

 働けばお金が手に入る。

 いつしかお金を貯めて我が家を手に入れるのじゃ。

 さすれば本当の意味で全ての柵から開放される。


「レフィアちゃん……こんなの、レフィアちゃんじゃない! もっと嫌がってよ! もっと睨んで、蔑んでくれよぉぉ!!」


「……き」


「き?」


「気持ち悪っ……!」


 死んだ筈の心を無理矢理現世に引きずり出されてしもうた。

 わしとても悲しい。


 こやつのセクハラにも慣れ、無心でいれば怖くないと悟った筈なのに……。


「お主、何故そんなにわしに拘るんじゃ……わしは魔王じゃぞ? 人間ですらない。しかもあの祭りで少し話しただけの小娘ではないか。どうして……」


「そんなの決まってるよ」


「ほう……言ってみよ。わしが納得したら、そうじゃな、わしを好きにして良いぞ。その代わり、わしが納得出来ない理由じゃったら二度とわしの前にその面を見せるな……頼むから」


 わしが納得する事など有り得ない。

 だから、これはお願いじゃ。

 もうわしに関わるなという切実な願い。


 こんな奴と一緒にいたらわしがどんどん壊れていく。


 生きる事さえ投げ出してしまいそうなほどに。


「分かった。その理屈だと俺は君の側にいる資格がないみたいだ。さよならだね」


「……なんじゃと? 納得させる自信が無いと言うのか?」


「まぁね。だって……いや、辞めておくよ。もう会う事はないだろうから最後に一言だけ言わせてほしい」


 なんじゃなんじゃこいつの真面目腐った顔は。

 本当にこのまま諦めて消えると言うのか?


「俺は、レフィアちゃんの事本気で愛してるよ」


「ばっ、馬鹿ものっ! そんな言葉誰が信じるか! 貴様など幼女趣味のロリペド変態不審者じゃろうが!」


「……まいったな。言い返す言葉が出て来ないや。とにかく、俺はこれで消えるから。レフィアちゃん、これからも頑張ってね」


「ふん! 貴様に言われずともわしは、わしは……!」


 一瞬、ほんの一瞬わしが目を伏せた間に、もう奴は居なくなっていた。


 部屋の荷物もそのままに、その日を堺にして宿に帰ってくる事はなかった。



 ――――――――――――――――――――――



「もう二年になるかねぇ? アリアはどこ行っちまったんだろ。部屋はそのままにしてるけど……レフィアちゃんは何か聞いてないのかい?」


 知るかあんな奴の事。

 わしは今幸せじゃ。料理も覚えて自分で作れるようになったし、金も溜まったからいつでもここを出ていける。


 今は人手不足じゃから面倒になった手前すぐにやめたりはせんが、人員確保が出来ればわし一人の生活が開始されるのじゃ。これほど喜ばしい事はない。


 しかし、何故じゃろうか。

 どんなに頑張ってもアリアほど美味しい飯を作る事は出来なかった。


 悔しい。わしの中で一番美味しいご飯の記憶がアリアの手料理とは……。


「それにしてもアリアのやつあんなに心配してたレフィアちゃんを置いてどこいったんだか」


「あやつが、わしを心配?」


「そうさね。アリアがここに住み込みで働くようになってからずっと、心配な子がいるんだって言ってたんだよ。なんでもあの子が自由になんでも出来る世界にしなきゃとか言ってさ。随分大きな事言う馬鹿がいるなーって思ったもんさね」


「な、何を……それがわしの事じゃと言うのか?」


「そうだろうね。私も名前まで聞いてなかったけどさ、レフィアちゃんが来てからはアリアの奴本当に楽しそうだったし、これから頑張らなきゃって張り切ってたもの」


 アリアがそんな事を……?

 いや、わしには関係ない。あやつが勝手にそう思ってただけじゃ。


 しかし、自由になんでも……?


 まさか。


 まさかまさかまさか、あやつは……。


 わしが魔王の娘と知って、わざわざ人間に化けて祭りに遊びに来たのを知って、それで……?


 わしが自由になんでも出来る世界を作る為に魔物を滅ぼそうとしたのか?


 わしが、魔王でなくなれば……自由になれると?


 馬鹿じゃろ。

 どう考えても馬鹿じゃ。


 あの時、わしが祭りを楽しめずに逃げてしもうたから、だからなのか?


 教えてくれ。

 アリアよ、お前は何を考えていたのじゃ?


「レフィアちゃん……泣いてるのかい?」


「馬鹿な、泣いてなど……あれ、おかしいのう、あれ、あれ……」


 きっと好きなだけ食事を取れるようになって体が栄養で満たされたからじゃ。

 そうでなければあやつの事でこんなに涙が溢れる筈がない。

 きっと、そうじゃ。



「の、のう……お願いがあるのじゃが、しばらく休みを貰えんじゃろうか?」


「ふふっ、いつかそう言い出すんじゃないかとは思ってたよ」


 何でじゃ。わしは別にあやつの事など……。


「探しに行くんだろ? いいよ、部屋は二つともそのままにしておくから。そのかわり、アリアを見つけたら必ずここに帰ってくる事。いいね?」


「……かたじけない。ただ、見つけても帰ってくるのはわしだけかもしれんがな!」



 わしは大量の保存食を鞄に詰め込み、アリア探しに旅立った。


 あてなどない。


 じゃが、見つけて一発ぶん殴って、あやつの真意を聞かねば納得出来んのじゃ。



 無論、十二歳の小娘一人旅などそう上手く行くものでは無かった。

 新たな街を訪れても馬車の一つも借りられん。

 アリアが可愛く見えるほどのド変態に付け回された事もあった。

 偶然アリアが生まれた村にも辿り着いた。


 しかしあやつは何処にもおらんかった。


 アリア探しの旅に出てから一年半、わしがもうすぐ十四歳になろうとしていた頃、とある街が魔物の残党に襲われたという話を聞いた。


 そして、一人の男によってそれらが全員倒されたとも。


 きっとアリアじゃ。あやつならそれくらい容易い。


 そう思い、その街へ辿り着いた時、その男と言うのが新たに神の洗礼を受けた勇者であると知った。


 関係無かった。アリアでは無かった。


 わしは再びあてのない旅に出たのじゃが、次の街までまだまだ遠い場所、深い森の中で土砂崩れに巻き込まれてしまう。


 無論わしはそんな事でくたばるような魔王では無い。

 ただ問題は、直近で寄った街にて補充しておいた食料が入った鞄が土砂に流されてしもうた事じゃ。


 その日は酷い嵐で、移動する事もままならぬ。

 大きな岩が抉れて出来た空洞に逃げ込み、そこで夜明けを待った。


 腹が減ったが、一日くらいどうということはない。


 そう思っていた。


 じゃが、天候は三日たっても全く回復せず、わしも迂闊に動けぬ状況であった為、何も食べる事ができなかった。


 雨水を飲んで飢えをしのぎ、四日目の夜、ようやく嵐がおさまった。


 森は連日の大雨であちこちに新たな川がうまれており、抜け出すのに苦労する。


 なんとか森を抜け出したあたりで、わしの空腹が限界に達した。


 何も食うものは無い。

 次の街まであと二日はかかる。


 こうなったら……あれしか。

 もう二度とやるまいと思っていた。

 もう二度と食う必要など無いと、そう思っていた。


 しかし、わしは生きなければ。

 その為にはやむを得ん。


 おもむろにその辺の雑草を引っこ抜き、ためらいつつも口へ運ぶ。


「はは……雑草など何年ぶりじゃろうな……」


 当たり前だが、不味い。

 吐き気さえ催すほどであった。


 それでも、涙を堪えて咀嚼する。


「あの馬鹿者め……」


 わしは、とうとう我慢できず大声で叫び散らした。腹に溜め込んだ鬱憤を、苛立ちを、全て。


「馬鹿馬鹿馬鹿!! アリアの大馬鹿者!! いったい何処に居るんじゃさっさと出て来い!! そうでなければ……わしは、わしは……」


 思いを吐き出した事で、涙を堪えていたのも決壊してしまった。


「アリアのばかぁ……!」


「レフィアちゃん!!」


 耳を疑った。疲労困憊、空腹に加えて変な草を食ったせいで幻聴でも、幻覚でも見ているのかと思った。


「アリア……お主、何故……ここに?」


「それはこっちの台詞だよ! なんでこんな所で草なんて食べてるのさ……君は、もっと幸せに暮らさないと駄目じゃないか!」


 久しぶりに会ったアリアは眉間に皺を寄せて怒っていた。

 こんな顔見た事がない。


「わしは……居なくなった、お主を探しに……」


「はぁ……おかしいと思った」


「何がおかしいんじゃ」


 アリアはわしを見つめながら深いため息をつく。


「俺はさ、とうとうレフィアちゃんがお金貯めて、好きな事をする為に世界を旅し始めたんだと思ってたよ」


「待て、わしが旅に出た事を知っておったのか? 知っていてどうして……」


「言ったでしょ? 二度と君の前に現れないって。 それにこうも言ったよね。俺は君の居場所なら世界のどこに居ても分かるってさ」


「あぁ……そう言えば言っておったな、そんな気持ち悪い能力があると……」


「気持ち悪いは酷いな……でもレフィアちゃんがしばらく移動しないからおかしいと思って見に来て正解だった」


「……遅いのじゃ」


「え?」


「来るのが遅いんじゃ馬鹿者! わしがどれだけお主の事を探したと思っとるんじゃ!」


 こやつ、わしの居場所をずっと、ずっと分かってたからわざわざ遭遇しないように逃げ回っておったに違いない。


 律儀に、もう二度と会わないというのを守って。


 そりゃいくら探しても見つからんわけじゃ……。


 やっと会えた安心感と、自分の馬鹿さ加減になんだか笑えてきた。


「くくく……ふははははは!!」


「その笑い方すっごく魔王っぽいね」


「愚か者め。魔王などとっくに廃業しておるわ。ここにいるのはもうただの小娘よ。誰かのおかげで自由に生きることができるようになった……ただの小娘じゃ」


「クレアさんに聞いたの? 全く……余計な事を」


「余計なものか。大事な事じゃよ。とてもな」


 アリアは照れたように頭を掻いた。


「さて、やっと出会えたからには聞かせてもらおうか」


「何をだい?」


「わしに拘っておった理由じゃよ。今度こそ、逃げる事はゆるさんからな」


「えー、それ言わなきゃだめ?」


「駄目じゃ」


「どうしても?」


「どうしてもじゃ」


 アリアはまだ躊躇っているようで中々口を開かない。


「……お主の、アリアの口からきちんと聞かせておくれ」


「うん、わかったよ。俺は……ただ君を自由にしてあげたかったんだ」


「うん」


「ほんとに、最初はそれだけだった」


「うん」


「でも今は……魔王の城で会った君は相変わらず可愛くてさ、守ってあげたい! って思って……」


「……うん」


「やっぱりおぱんちゅ見たいなーって思ってさ」


「……うん?」


 ちょっと待て。なんだか思ってたのと違う。


「一緒に暮らし始めたら我慢できなくなってきちゃって、これ以上一緒にいたら俺変態になっちゃうと思って……」


「いや、それは……元からじゃろう?」


「えっ、そんな事は……ッ」


「無いと?」


「……はい。俺はちっちゃくて可愛いレフィアちゃんのおぱんちゅがどうしても見たかった変態です」


「ふふ……相変わらずで安心したわい。ちなみに、あれからもう何年も経ってしまったしわしはある程度成長してしもうた訳じゃが……これでお主の好みからは外れてしもうたな?」


「そんな事は無いっ!!」


 そこで力いっぱい叫ばんでいいじゃろ……。


「俺はちっちゃくて可愛いレフィアちゃんが好きだったけど、ちっちゃくなくたってレフィアちゃんはレフィアちゃんだから今だって、これからだってずっと、ずっと大好きだよ」


「なるほどな。お主の気持ちは良く分かった。だったらわしから一言言いたい事がある」


「……あまり聞きたく無いなぁ」


「まぁそう言うな。とにかく帰ってこい。そしてお前の美味い飯を食わせろ」


「え、そ、それって……」


「いいから。帰ってくるのか? こんのか?」


「い、行く! 帰るよ。レフィアちゃんと一緒に……帰るよ」


「そうか……安心したら腹が減ったわい。何か食い物は持っておらんかのう? 雑草しか食べておらんのじゃ……」


「そ、それなら……実はお腹空いてるかなって思って用意してきたんだ」


「なんじゃと!? それを早く言わんか! なんじゃ? 何を持って来た!?」


 今ならばなんだって食うぞ。腹が減りすぎてどうにかなりそうじゃ。


「えと、カツ丼なんだけど……食べる?」


 カツ丼。


「そうか、ふふ……そうかそうかカツ丼か」


「ダメ……だったかな?」


「そんな事は無い。今一番……いや、わしがずっとずっと食べたかった物じゃよ」


 アリアが城まで押しかけてきたあの日から、ずっとな。

 妙なプライドが邪魔をして、カツ丼を作れとは言えなかった。


 ここまで運んできたというのに不思議と湯気が出ているそれを震える指先で口に運ぶ。


「……美味いのう。今まで食べたどんな飯よりも美味い」


 やはりこれは認めざるを得んのう。

 わしはこやつ以上の料理は作れない。

 そして、わしにはこやつが必要じゃ。


「……よし、決めた」


「どうしたの?」


「お前わしの飯を作れ」


「勿論。帰るならまた毎日三食作るよ」


「言ったな? ずっとじゃぞ? アリアは一生わしの飯を作るのじゃ。いいな?」


「え、そ……それって……」


「さて……腹も膨れたしそろそろ街へ向けて出発するかのう」


「待ってよ! 今のって、えぇー?? どういう意味なのか教えてくれ!」


「内緒じゃ」


「ちょっと待ってってば! もしかして、お、俺と……?」


 言わせるな馬鹿め。


「おぱんちゅ見ても許される関係に!?」


「……本当にお前と言う奴は……しかし、それがアリアじゃものな。まぁ……そういう事じゃよ」


 バタンっ!!


「おい……おい!? アリア、アリア!! こんな所で気を失うな! 帰るぞ!? 最後まで面倒な奴め……」


 仕方なくアリアを担ごうとしたが体格差的に無理だったので引き摺って移動するもすぐに力尽きてわしも倒れてしまった。


 これどーする気じゃよ……。


「レフィアちゃん」


「こいつ……起きたなら自分の足で歩け」


「大好きだよ」


「うっさいわ。そんなの宿に帰ったらいくらでも聞いてやるわい」



 やれやれ。わしもヤキが回ったもんじゃ。

 父上、申し訳ありません。わしは人間と共に生きる道を選びます。


「おぱんちゅ見せてくれたら元気出るんだけど……」


「ちょーしにのんなこの変態がぁぁぁぁ!」




 わしは勢いで早まった決断をしたかもしれん。

 最後に涙が出た。きっとアリアのせいじゃ。許すまじ。


「ぴえん」


 何故か、涙が止まらんのに……わしは笑っていた。






魔王レフィアちゃんと村人Aことアリアのおかしな恋愛(?)物語。いかがでしたでしょうか?


個人的にはとても楽しく書けたので、少しでも気に入ってもらえたら嬉しいです♫


感想は勿論、ブクマや評価、レビューなんかも大大大歓迎です! 大歓迎ですので!(笑)


今回は空いた時間にスマホにちまちまと書いていた作品になります。

今連載中の他4作品もこんなノリが多いので、もしこの作品を気に入ってくれた方でお時間のある方は是非作者の他作品を覗いてみてやってくださいね☆


目次上のリンク、もしくはページ下のバナーからどうぞ。


それではまた別の作品でお会い出来ることを楽しみにしております☆彡


お読みいただきありがとうございました♫

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新作公開!!
女の子だってざまぁしたい!【おさころ】〜幼馴染が特殊性癖のヤバい奴な上に私より可愛くて腹立つからこいつ殺して私も死ぬ〜
おさころ
渾身の学園カオスラブコメ!!


毎日更新中
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100万PV&1000ブクマ突破のTSファンタジー☆


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