チュートリアル
私はメチャクチャ気分屋なので、こんな感じでとんでもなく更新が不定期になります。それでも読んでくれる方がいらっしゃれば、とても嬉しいです。
気になる点等があれば指摘していただければと思います。できる限り改善に努めます。
そこは森に囲まれた丘。その上には小さな小屋。その隣に置かれているのは学校で使われていそうな机と椅子、そしてホワイトボード。
そんな奇妙な光景の中に佇む1人の青年。1房の金が混じった銀を風に揺らしながら、紫水晶の瞳を森に向けている。
どうも、私です。
光が収まり、浮遊感も無くなったので目を開けてみれば、それはそれは良い景色が広がっていました。現代では見られないような広大な自然です。時間があれば散歩というのも良さそうです。
しかし作り込まれていますね。太陽の煌めきに肌に感じる風、そして森のさざめき。現実ではないかと勘違いしてしまいそうです。最新のゲームはすごいですね。
ということで、チュートリアル専用フィールドにやって来ました。
「あの~……す、すみませ~ん。」
後ろから声をかけられました。ものすごく不安げな声で、高さからして女の子でしょうか。景色ばかり見ていて気づきませんでした。
「はい、なんでしょう。」
「は、はい。私はカストルさんのチュートリアルの講師役を務めます、アクアマリンといいます。ちょっと長いのでアクアと呼んでください。」
年齢は中学生くらいに見えます。綺麗な水色の長い髪と目。人見知りなのでしょうか、常に浮かべている不安げな表情が特徴的な方です。
「丁寧にありがとうございます。もうご存知のようですが、カストルと申します。よろしくお願いしますね、アクアさん。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
小動物系女子とでもいいましょうか、守ってあげたくなるような子ですね。よしよしと頭を撫でたい衝動が……。
いけませんね、心が乱れまくってます。平常心、平常心っと。
話題を変えましょうか。
「ではアクア先生。講義はどちらで、どのように行うのでしょう?」
「えっ!?先生?………あ、えっと、まずはそこのホワイトボードと机のあるところで、こちらの世界での基本的な知識を学んでもらいます。その後はフィールドでの採取や戦闘を実際に体験してもらいます。」
簡単に動揺してしまうところも可愛らしいです。そのうち「ふえぇぇ……」とか聞くことができそうです。
「成程。では早速ですみませんが、お願いします。」
「は、はいっ!頑張ります!
……あ、それでは、どうぞそこに座ってください。」
ふふっ、生徒に対してずいぶん腰の低い先生ですね。
「では、これからLO講座を始めます。わからないことや不思議なことがあったら、どんどん質問をしてください。」
◆◆◆
講座で学んだことをまとめると
・現実での1日はこちらでの2日
・朝、昼、夕、夜の4つの時間帯に分かれていて、4:8:4:8の比率になっている。その時間帯限定のものがあったりする。
・通貨単位はG
・メニューウィンドウの機能の種類と使用方法
・レベル毎にステータスポイントを5、スキルポイントを1獲得できる。
・こちらではプレイヤーは『来訪者』と呼ばれ、認知されている。
大まかには、これくらいでしょうか。この他にも色々と勉強しました。
ついでにアクアさんと仲良くなれました。なんでも私と同じでお菓子作りが趣味なのだそうで、スイーツをメインとしたカフェを開いているそうです。最初の街にあるそうなので、場所も教えていただいて、落ち着いたら遊びに行くという約束をしました。
「これで講義はおしまいです。お疲れ様でした。
次は、フィールドでの動作を実際に体験していただきます。この機会に慣れてもらえればなと思います。では、身体を動かすので移動しましょう。」
「はい。先程は採取や戦闘をと聞きましたが細かくはどんなことを体験できるのでしょうか?」
「う~ん。そうですね……その2つがメインですけど、メニューウィンドウでアイテムの収納をしたり、装備を変更したり……あっ、セーフティエリアとボスエリアがどんなものか見ることもできます。色々あると思いますよ。
っと、ここら辺で大丈夫ですかね。」
丘と森の境界線くらいで止まりました。最初は何を体験できるのでしょう。
「えと、最初は採取です。この近くでは薬草が採れるので採取ポイントを探してみましょう。淡く光っている場所が採取ポイントですから、頑張って探してみてください。」
淡く光っている場所を探すんですね。なんだか探索系ゲームみたいで面白そうです。
ではまず最初に後ろを探しましょう。順路の反対側にレアアイテムがある。これは探索系ゲームの常識なのです。
……まぁ、振り返った足元にあるとは思いませんでしたけども。
足元には淡く光っている茶封筒が落ちていました。
「カストルさん、それを見つけたんですね!おめでとうございます!」
「あぁアクア先生、ありがとうございます。ですが、これは?」
「これでですね、自身の強化ができるんです。といっても、1回限りで、強化される項目もゲームのよさをより五感で感じてほしいとランダムに視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のどれかから1つが選ばれます。強化幅も微・小・中・大・特からランダムです。
その中に強化される項目と幅が記載されているはずです。それを破けばその強化が反映されます。」
「成程。では先生、一緒に見ませんか?」
「え?あ、はい。それじゃあお隣、失礼します。」
「どうぞどうぞ。
では、いきますよ。」
『強化項目 聴覚
強化幅 特 』
「お~!1%の特を引くなんて、すごいですカストルさん!」
「へぇ、1%ですか。ついてますね、ラッキーです。どれくらい強化されるのかが楽しみですね。
これを破けば強化されるのですよね?」
「そうです。ビリッといってしまいましょう!」
アクア先生が私の服の袖を摘まんでぴょんぴょんしています……。なんですかこの可愛い生き物。とんでもないですね。
あっ、ビリッとですか?了解しました、今やりますからね。
《聴覚強化・特 反映しました》
おぉ、なんといいますか、耳が高性能になりました。小さく細かい音も聞こえて、音が混ざりあうこともなく1つ1つ鮮明に聞こえます。今なら喧騒の中から1つの声を聞き取ることも簡単にできてしまいそうです。
「どうなりましたか?」
「すごいですよ先生。音が今なら音の反射で距離を測ったりなんてこともできてしまいそうです。」
ん?なんとなく言ってみた言葉でしたが、そんなことができたら面白そうです。……後で練習しましょうか。
「よかったですね、カストルさん。
あっ、そうだ!実験してみませんか?どれくらいまで聞こえるか、みたいな。」
「それはいいですね。……しかしチュートリアルの時間は大丈夫なのですか?」
「それについては大丈夫です。時間に制限はありませんし、先程の封筒で採取のチュートリアルは終わった扱いになりますから。
それじゃ、試してみましょうよ。」
「そうですね。それじゃあ……。」
◆◆◆
結果としては、100mくらい離れたアクア先生の普通の話し声が鮮明に聞こえるほどの性能です。まだ余裕はありそうです。
「これほどとは思いませんでした。ご協力ありがとうございました、先生。」
「いや、私から言い出したことですから、そんな気にしないでくださいね。」
「そうですか。ありがとうございます。
あぁ、それと。次のチュートリアルはなんでしょうか。」
「次ですか?次は……いよいよ戦闘です。装備の着脱やスキルの扱い、ステータスで上昇した自分の身体能力に慣れてもらってからモンスターと実戦。という流れになっています。これで最後のチュートリアルですから、頑張ってくださいね。」
「了解です。」
「ではまずは装備の着脱です。講義で1度説明をしましたが、実際に試してはいませんから、質問があればいつでもしてください。」
◆◆◆
「最後に実戦です。今から20秒後にモンスターがスポーンしますから、それを倒してください。相手は最弱レベルのホーンラビットですが、無理の無い程度に頑張ってくださいね。」
装備の着脱もスキルの扱いも体慣らしも準備万端。トンファーの扱いもある程度上達しました。
後方10m程からはアクア先生が見守ってくれていますから、恥はかけませんね。
前方10m程の場所にどこからともなく出てきた青白いポリゴンが集まっていきモンスターを象ると光が弾けました。そこから現れたのは角の生えた兎『ホーンラビット』。分かりやすくて良いですね。
それでは、先手必勝です。
『踏み込み』で距離を詰め『昇脚』で掬い上げるように蹴り上げ。これで兎のHPの半分以上を削れました。特化型にしたスキルやステータスが効いていますね。
「ギュッ!?」
残ったHPを削りきるため、頭ほどまで落ちてきたところを正拳突きで追撃。
……ふぅ。よし、鳴き声に驚きましたが思っていた通りに動けました。
ちなみに兎は現れたときの逆再生のように青白いポリゴンに分かれて消えていきました。
「お疲れ様です。格好良かったですよ、カストルさん!」
「ありがとうございます。思っていた通りに動けたようでホッとしていますよ。
……しかし、これでようやくチュートリアルも終了ですか。先生もお疲れ様でした。」
「いえ、疲れてなんていませんよ。むしろ楽しかったくらいです。」
なんて言って笑いかけてくれます。杏里に次ぐ癒しです。
「チュートリアルが終了すると、メニューウィンドウに一時的に『転移』が追加されてます。それを使えばゲームスタートですよ。」
少し寂しそうな表情をしながらもそう言ってくれます。
まぁ、ここですぐさま『転移』をするほど、私も鈍くはありません。
◆◆◆
「改めて、本当に楽しかったです。また会いましょうね、カストルさん!」
もう20分くらい経ちましたか、アクアさんと雑談をしていました。
私が「もう少し残ってお話ししたい」と言ったときのあの嬉しそうな顔は、それはそれはもう……。
「私こそ、楽しかったです。近いうちに約束を果たしに伺いますね。そのときに、また会いましょう。……それでは。」
名残惜しいですが、仕方ありません。
『転移』をタップして目を閉じます。
「お待ちしてますね。」
という声を聞きながら、強い光と浮遊感に包まれました。
書いていて思いましたが、兎に鳴き声ってあるんでしょうかね?シマウマが犬みたいな鳴き声ってことは知っているんですが……。