どうやらドライヤーは無いみたいで
『ところで、石鹸はあるがシャンプーが無いとはこれ如何に』
「兼用なんじゃないかな? 人間界でもあるじゃん、頭も身体も両方洗える石鹸」
『あったかそんなの……? まぁ、早く洗ってミーニャと代わろう。ガイドブック読まねぇと』
「はーい」
お兄ちゃんの言うことにも一里あるので、さっさと身体と髪を洗ってシャワー室を出た。
用意されてたバスタオルで身体を拭いて、ドライヤーで髪を──ドライヤー?
「ねぇミーニャさん。ラグナノヴァってドライヤーは存在するんですか?」
シャワー室の隣の洗面台にドライヤーが無いのに気付いて、ドア越しにミーニャさんに聞いてみる。ちなみに「さん」付けなのはミーニャさんが私より年上だから。確か17歳って言ってた。
「Dryer? そんなモノ、ありませんヨ?」
「え、じゃあどうやって髪乾かしてるんですか?」
「これデース!」
ガチャリとシャワー室のドアを開けてミーニャさんが差し出したのは、
──団扇。
うん、どこからどう見ても団扇。ウチワ。
日本に古来から伝わる、暑さを和らげるアイテム。しかも御丁寧に達筆で書かれた「終焉新星」の文字。ラグナノヴァの和訳ですね、分かります。
呆気に取られた顔で顔を向けると、ミーニャさんはサムズアップをしてドアを閉めた。
「これ……どうすればいいの?」
『そりゃあ、普通に扇ぐんだろ』
うーん、それはそうだけどさ……。扇いで濡れた髪が乾くの?
けど百聞は一見に如かずって言うし、試して見ないと分からないよね!
『お前諺の使い方間違ってるぞ』
『いいじゃん別に!』
お兄ちゃんに突っ込まれながらも、パタパタと髪を団扇で扇いでみる。
「……………………」
『……………………』
「……………………」
『……どうだ?』
「うーん……。さっきよりはマシかな?」
扇いでいくうちに確かに湿っぽさは無くなっていくけど、それでも結構ジメジメする……。
髪へのダメージ甚大だよ、これ。
取り合えず二、三分扇いである程度髪を乾かすと、浴衣を着てみる。
仕様は日本のと同じだから着るのに苦労しないけど、問題はサイズ。帯をしっかり締めても指先が見えないうえに、胸の所がガバガバ。下手に動いたら見えちゃう……。
『いや、その方が俺にとってはご褒美なんだが……』
『うん、お兄ちゃんが変態チックな事しか考えてないのが眼に見えて分かるよ』
全く、お兄ちゃんは少しでも変態性を自重出来ないものかね。
そんなこんなで着替え終わると、シャワー室を出てミーニャさんの所に。
「オー! ヒラかれたムボウビなムネがたまりませんネ!」
「そんなにこの格好危険ですか?」
どうやらミーニャさんも少しばかりお兄ちゃんと同類のようで。
「サスガにそのカッコウはアブなスぎまス。ネるときだけキればいいんじゃないですカ?」
「あ、それもそうですね」
急いでシャワールームに戻ると、浴衣を脱いでさっきまで着てた服に着替えて再びミーニャさんの所に。
「じゃア、Showerをアびて──」
きゅるるるるるるるる。
「──くるまえニ、Dinnerにイきましょうカ」
「…………は、はい……」
は、恥ずかしいっ!! お腹の音、盛大に聞かれちゃったっ!!
だってこっちきてから何も食べてなかったんだもん。お腹が鳴るのも当たり前。
でも、今みたいに大きな音出すなんてみっともなさ過ぎるよぉ……。
ブルーホールに重りをだいて飛び込みたいです。
「ベツにおなかがナるのはハずかしいことではありませんヨ。それニ、イマのはワタシのもナってたんデース」
「あ、そうだったんですか」
道理で微妙に二重奏に聞こえた訳だ。
でもミーニャさん、お腹の音気にして無いみたい……。よかったぁ。
『なんか女の子って大変だなぁ』
『分かった、女の子の苦労?』
『何となくな』
「Hay! ミライ、ハヤくdinnerにイきましょう!」
あ、ミーニャさんいつの間に部屋を。
お兄ちゃんと話をしてたせいか全く気づかなかった……。
「分かりました! すぐに!」
リュックサックから財布を引っ張り出すと、私はミーニャさんと一緒に一階の食堂に走っていった。