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第8話:ふくやか・ふくらか・ふくよか

どうにも文が雑になってしまいます。読みにくいことこの上ないかもしれませんが、そのうち直します。

 しばらく二人で庭の草花について話をしたり、この町のことについて色々と世間話のように聞いていると部屋のドアをノックする音が響いた。 

 ホビット族のモフモンさんと一緒に入ってきたのは、四十代くらいのふくよかな女性だ。

 豊満な体を黒いドレスで包み込み、ブロンドの髪を結い上げる銀の髪留めがキラキラとしていてる。



「ルミーナ!私の店に来てくれるなんて珍しいじゃないのさ!」


 部屋に入ってきた女性は、椅子に座るルミーナさんに勢い良く抱きついた。


「アイリーンったら、まったくもう!すぐに抱きつくのは相変わらずなんだから」


「うふふ、本当にひさしぶりねぇ。

 まえに貴女に会ってからだいぶ経つじゃない。ずっと会いに行きたかったんだけど仕事が忙しくてね。

 うちの旦那は家業に興味が無いし、うちの子供達はまだ学校に通っているし、隠居したお父さんは趣味のスライムいじりばっかりして、なんにも手伝っちゃくれないもんだからさ!」


「わかったわ、でもまずはお客さんを紹介させてちょうだいね。

 こちらはヒューマン族のマモルさん、一昨日からうちでお世話させてもらっているの。それで装備を整えたいってことだから、こうしてアイリーンのところにお邪魔したのよ」


「はじめまして、テイマーのマモルです」


「あらどうも、カリアン防具店の主・アイリーン・カリアンと申します。

 お兄さんテイマーなのかい?それならこの町で生活するには困らないだろうね」


 ギシリと音を鳴らしアイリーンさんは僕達の対面の椅子に腰掛けた。

 体重が100キロ越えてそうな女性の重さに耐える椅子もキチンと彫りが入れられた高級さがある。


「なんと言っても今のレバトンじゃ、スライムの人気がすごいからね!そこら辺の大工から料理人、それに小金を持った大店のご隠居連に貴族の隠居でしょ、みんながスライムとの契約を求めてギルドやモンスターショップはスライムの依頼や予約でてんてこ舞いだそうよ」


 カーライルさんにも聞いたし、ギルドで見た依頼書もスライムのモノが多かったっけ……


「そうねぇ、私もよく聞くわ。新聞にも品評会の様子が書かれていたけど、スライムの大きさや体のツヤなんかを競って何が面白いのかしら?」


「ルミーナにはわからないかもしれないけどね、昔から契約獣の優劣を競ったり植木を育ててみたり、冒険者を囲ってみたりとその時代その時代で下らないものが流行ったりしたそうだよ。

 実際うちの曾祖父さんは『クロウ』を大事に大事に育ててさ、王都の品評会に出したりしたんだそうさね。血を継いでいるのか私の父親はスライムに首ったけでね、毎日毎日餌を上げたり石鹸を使って体を拭いてあげたりしてさ、さっさとボケてくれればいんだよ、まったく!

 それにさ、最近のレバトンは……」




 その後もアイリーンさんの愚痴はなかなか止まることを知らず、三十分ほど経ち喉が渇いたのかお茶に手を伸ばし、それが冷えていたためおかわりを頼んだところでやっと本題に入れた。


「やれやれ、久しぶりに気が置けない友人に会えたものだから話が弾んじゃったよ。

 ……それじゃあそろそろ本題に入ろうか、お兄さんのジョブはテイマーだったっけね。他に戦闘系や魔法系のジョブは持っていないんだね?」


 僕がシングルのテイマーであることは誰にも言うつもりはないので、四つ持ちかトリプルで通そうと決めているのだが、どのジョブを持っていることにするのかはまだ決めていなかった。


「……はい。魔法系のジョブはテイマーだけですし、戦闘系も持っていません」


「そうかい、だったら身軽に動ける革鎧と盾があればいいんじゃないかねぇ?」


「それと、防具の下に着る普通の服ですとかズボンがあればと思うんですが」


「あら、マモルさん。それなら私が準備しますよ!」


 ニコニコと話を聞いていたルミーナさんが手を上げてテーブルに身を乗り出してきた。


「そうよ、ルミーナはこの街でも有名な裁縫師だったわ!トリプルのあんたが裁縫すればただのシャツにだってエンチャントをすることができるようになるだろうし、ズボンだって一流の品を仕立ててくれるわよ」


「あぁ、そう言えば『料理人』『戦士』『裁縫師』のトリプルでしたね」


「これでもレバトンでは一番の裁縫師と呼ばれているんですよ。家に帰れば裁縫に使うための道具が揃っていますし、私は一日中家におりますからマモルさんが空いてる時間に採寸をして調整などをしても一週間もあれば上下で5組くらいは作れますよ」


「えっ、一週間でそんなに作れるもんなんですか?」


「ふっふっふ、ルミーナはこう見えてもレベル50の裁縫師だからね。あたしらが初めて会ったのが寺子屋に通ってた時だけど、その頃にはもうレベル30あったけどあれには驚いたねぇ」


「仕方ないのよ私のウチはあまり裕福ではなかったし、巨人族は手が大きいから成長する前にひと通りの技術を習得しておかないと、針が上手に扱えなくなるからね。

 今は鍛冶師の方に頼んで専用の道具を作ってもらってるから何とかなっているけれど、早めに練習していなかったら今の私はなかったと思うわ」


 実際ルミーナさんの手や足のサイズはヒューマン族の僕やふくよかなアイリーンさんよりも倍とまでは言わないが、ひと目で大きいとわかるくらいの大きさだ。


「まあ、これで後は革鎧と盾を見繕えばイイってことだね。これから店の方にちょいと見に行こうか?」


「はい、お願いします」




◇◆◇◆◇◆◇◆



 大体テニスコート2面分くらいの広さがある店内には木製のマネキンやキチンとした姿見鏡、何で出来ているのかわからないがフカフカで高級そうな絨毯が敷いてある。

 僕は今までいた部屋から出て、入り口から見て右側にある革製品のコーナーでアイリーンさんにああでもないこうでもないと言われながら鎧の試着を繰り返していた。


「……どうもあんたの体型に合う鎧はちょいと無いねえ」


「そうですね……」


 短足胴長の僕には上半身を覆う鎧は着こなせなくて、というか簡単に言うと鎧を装備していると足の短さが強調されてしまって、まるでドワーフのように見えるのだ。

 日本人の特徴全開な僕には着こなせるモノではないみたいだ。


「とりあえず体だけはカバーできる簡単な鎧にしておこうかね。あとはこの下に着るルミーナの服にどれだけのエンチャントができるかだけど……」


「そうねぇ、私が作る服には2つまでエンチャントができるのだけど、この町にいる付与魔術師の方の腕前ではひとつしか付与できないと思うわ。もちろんそれだけでも十分な効果を持たせることはできるだろうけど……、代金がすこしばかり掛かりますよ、マモルさん」


「お金の事なら少しは蓄えがあるので大丈夫だと思いますけど、ちなみにいくらくらい掛かるんでしょうか?」


「素材次第だけど、仮にルミーナの服を上下で買うとすれば一組で金貨一枚はつけるね。

 エンチャントの料金は相場では大体銀貨で50枚くらいかね、相手にもよるし付与効果によっても値段は変わるけどさ。

 それと、この革鎧で金貨3枚だよ。これは大陸西部の大森林地帯に生息する『ヘビーライノ』の革を鎧に使っているだけど、革の量としてはそれほどでもないし装飾もそれほどされていないから、まぁお買い得だね」


 アイリーンさんが僕に見せてくれた革鎧は体の前後だけを守ることを考えて作られたもので、丈夫な革で出来たノースリーブ型の鎧だ。

 ところどころに青い刺繍が施されていてオシャレな感じなのだが、鎧だ武器だとそんなものとはまるで縁のない生活をしてきた者が着てみても、違和感しか感じられないので似合っているのかどうか判断できない。


「あら素敵な模様だわ、これはドワーフのゾンティーさんが仕上げたのね」


「さすがルミーナね。この刺繍はウチの職人が結構な時間を掛けて丁寧に縫ってあるからほつれる心配もあまりないし、革を繋ぎ合わせるのに『パッチスパイダー』の糸を使ってるから丈夫で長持ちするよ。

 なにより、あんたに似合うのはこれくらいっていうのもあるけどね!」


「仕方ないので鎧はこれでお願いします……それとモンスターに噛み付かれたりしても裂けることのない丈夫な手袋ってありますかね?」


「手袋ねぇ、あっそうか、あんたがテイマーだってことを忘れていたよ。さっきからあんたに似合うモノを探してたもんだからそのことが頭から抜けてたみたいだわ!

 テイマーならモンスターに近づく機会も多いだろうから、手を保護するグローブが必要だよね。

 グローブは盾のコーナーの隣にあるからついでに探そうかぃ」


 

 基本的にモンスターを相手にするジョブの人間が素手でいることはまず無い。

 毒性のある毛を持つモンスターもいるし、汗で武器を落としてしまうのを防ぐためにもグローブは大切な装備だ。

 

「実用性を追求するならこいつかね、表地は『ホールパイソン』の革で裏地が『チュップサーモ』っていう魚のお腹にある皮を使ってる。結構な高級品だけど使ってみれば納得できると思うよ、試してみなさいな」

 

 表面の見た目はザラザラとしているように見えるが、軽く押してみるとこちらの力の入れる量に従い硬さが増しているように感じられた。


「ポールパイソンの革は圧力がかかればかかるほど硬度が増す性質が合ってね、そこにチュップサーモの皮を組み合わせてるわけだけど、この魚は流れの強い川の底の石にひっついて生活しているのさ、だから吸着力が強いし水分を含ませれば更にその力が強くなる。まさにグローブにうってつけだろう?

 金貨5枚するんだけどね……」


「金貨5枚!アイリーン、グローブなんかでそんなに高いものを勧めるなんて感心しないわね」


 ルミーナさんがアイリーンさんに詰め寄るのを横目にしながら、僕はまだ貨幣価値についてイマイチ理解できていないので値段について驚いたりはしていないのだが、これから先のことを思えば装備に贅沢をしてもいいのではないのかと考えていた。


「そ、そうは言ってもさ、これくらいの物になると色々とお金がかかってるんだよ、ルミーナ。もちろん幾らかは値引きして提供したいとは思うけど原価よりも安くしたら赤字になっちゃうよ……」


「僕は大丈夫です、これ買います!」


「え、マモルさんこんなに高いものを買って大丈夫なんですか?」


「はい、え~と結構な額を蓄えてますんでお金のことは心配ありません。それに、これからもテイマーとして生活していくつもりなので装備は良い物を揃えておきたいんです」


「マモルさんがそうおっしゃるなら私はいいんだけれど」


「なんだい、あんたちゃんと分かってるねぇ。

 そこまで言われて下手なものを売ったりしたら、このアイリーン・カリアンの名が廃るってもんだ。

 あとは盾だったね、丁度出物があるから持ってこさせるね」


 近くにいた店員に何事か言いつけ、店の奥へ行かせた。

 しばらくして戻ってきた店員の手には僕から見ると何の変哲もなく見えて、そばに陳列されている他の盾とこれと言って変わりのない木製の盾だ。


「はいどうもご苦労様。

 ふふ、この一見何の変哲もない盾はこの春の大陸より遥か遠く、冬の大陸にのみにあると言われる『ツンディア』という樹木を加工して作られたものなんだよ。

 ツンディアは永久(とこしえ)の冬の中で育つ木でね、とてつもなく寒い環境で育ったせいかとても硬くなるんだそうでね、しかも日を浴びる時間が短いせいで幹がとても細い。そのせいでこの木を加工しようなんて思う職人はいなかったんだけど、脳天気な春の大陸人には考えつかないようなことを成し遂げたのが、冬の大陸にその人有りと謳われる名工『イラエティ』だ。イラエティっていう名前は私も聞いたことがあったんだけどね、どんな人なのかは私も知らない。この盾を輸入してきた商人も詳しくはないそうなんだけど、噂によるとイラエティはシングルかダブルの『木工職人』らしくてね、冬の大陸の王様に依頼されてツンディアを加工しようと試行錯誤を重ねたそうな。

 そしてついにこの圧倒的に硬くて、信じられないほど軽い材木を生み出すことに成功したんだとさ。今その王国ではいろんな商品を開発しようと大盛り上がりらしい、その御蔭でこの素晴らしい盾が私の店にまで並ぶ事になったわけだけど……」


「だけど、なんなんですか?」


「値段は金貨40枚になるんだよね」


「よ、40枚!?

 そんなに高いもの買えるわけないじゃない。盾一つで40枚だなんて、いくら冬の大陸からの輸入品だとしてもそんなに高いんじゃ誰も求めないんじゃないかしら?」


 ちなみに金貨10枚で一家族が一年間は遊んで暮らせる。


「僕としても40枚となると、さすがに出せる金額ではないんですが」


 実は金貨100枚あるけど……


「もちろん、このお兄さんが大金持ちじゃないってことはあたしもわかっているさね。

 そこで、あんたにある依頼をしようと思うのさ」


「依頼って言うとどういうことなの、アイリーン?」


「まあ、詳しい話はもう一度奥に戻ってからにしようじゃない。丁度お昼の時間だしね」


 お店の壁にかけられている時計はこの世界で12時を表す所まで来ていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 簡単な昼食を終えて、僕たち三人は先程の話を再開した。


「とりあえずあんたにはこの装備品を渡しておくよ」


 テーブルの上に先ほど購入を決めた革鎧とグローブ、そしてツンディアの盾が置かれた。


「それでアイリーン、マモルさんに何を依頼するのかしら?」


「基本的には今回買ってもらった防具の代金を払ってもらう代わりに、テイマーのお兄さんにしかできないことをいくつかやってもらうつもりだよ」


 つまり、テイムかな?


「いくつかですか?」


「ああ。だってあんた3つの防具、占めて金貨48枚なんて大金をまさか一度で払えるなんてことはないだろう?とりあえず今あるだけお出しよ」


 そう言って突き出された手に、一応このお店に向かう前にリュックから出して財布に入れておいた金貨20枚を渡すことにした。


「生活費は抜いてありますけど、これが全部です」


「ほぉ、金貨で20枚かい。あんたこれだけの大金を準備してから来るなんてなかなか見どころがあるねぇ」


「マモルさんって、お金持ちだったのね」


 あと80枚くらい持ってます。


「よしよし、これであとは金貨28枚っていうことになるわけだけど、えぇとマモルだったね。

 あんた今までにどんなモンスターをテイムしているのか見せてごらんな」



 二重あごが揺れるこの四十路の女性は僕の品定めするかのようにゆっくりと目を細めた。

 僕はその視線から、彼女は間違いなく商人なのだということにこの時気付いたのかもしれない。

 




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