胎動
「本当は、そんな面倒くさいことしないんだけど。……仕方ない。君達に協力するって言ったしね」
GM・ベリルは渋々了承してくれた。
「ただし、僕が教えるのは翔、君だけだ。光秀、君は、秋久か、リンに習うといい」
そこで、GM・リンが待ったをかけた。
「私がそのボウヤの相手をする。異論は認めないよ。どうやら、二人の中では、そっちのが楽しめそうだ」
GM・秋久が、
「いたぶりがいのある奴を、選ぶ、か。空鐘の、の悪癖がでたな。まあ、俺はミチコを指導しよう。まだまだADS完成には力が足りないからな。もし、変幻使いを復活できたとしても、戦力は多い方がいい」
美智子は、はい、よろしくお願いします、というと、GM・秋久とともに、この部屋を出ていった。GM・ベリルは、ため息をはき、
「何で、僕が生意気な光秀の相手を……」
光秀は、ニカッと笑い、
「ヨロシクオネガイシマス」
と棒読みすると、握手の手を差し出した。GM・ベリルも多少ひきずって笑うと、「こちらこそ」
と、返した。ところで、光秀とGM・ベリルの手にすごい力がかかっている気がしたのは気のせいだろうか?その後、二人は光の扉に入っていった。
「じゃあ、行こうかい」
と、GM・リンも光の扉を開き、入って行ったので、僕もついて行った。
そこは、ボロボロの闘技場の中だった。野球場ぐらいはあるだろうか。回りは客もいないのに、 客席がある。GM・リンは、何か、聞きたいことは、あるかい? というので、とりあえず、
「ここで、何を?」
GM・リンはわからないかい、と言うと、
「ここは、闘技場なんだよ? 思う存分戦っとくれ。戦うのはお前の中の天使だ。あたしゃあ、助言役兼監督さね。まあ、少なくとも自分の天使ぐらいは手な付けないとねぇ?」
GM・リンはそういい、どこからか、聞こえたリーンという鈴の音とともにどこかへ消えた。代わりに現れたのが、淡い緑色をした僕にそっくりの人だった。
「また、会えたな」
僕はこんな、僕にそっくりさんに会った記憶はない。素直に誰だか聞くと、
「私はお前の中に眠る、能力を司る天使だ。今は分かりやすくお前の姿を借りている」
それよりも、と、僕の天使は咳払いを軽くすると、
「強く、なりたいのか?」
と、聞いてきた。僕は天使を見すえて、なりたい、とはっきり言った。
僕の天使は、
「正直に言おう。お前は十分過ぎる程、強い。他の能力者と違い、リミットブレイク、上位の能力を各一種類ずつ持ち、さらに能力の付加能力、因果応報の力も相当なものだ。さらに、お前は吸収した能力を合成させる力も見いだした。光側の力としては、最大級のスペックを持っている。つまり、これ以上強くなるには、五年以上修行するしかない」
「そんな……」
僕は絶句した。この未来の世界でみんなと帰るには、強くなるしかないってのに……。おそらく、今のままでは、怜を操っている奴らには、勝てない。
「だが、短時間で強くなる方法がない訳ではない。おまえの中に眠っている闇の力を解放するのだ」
闇の力?
「それって……」
「そうだ、魔王の力だ。いや、くわしくは、魔王となるにふさわしい器の力、とでも言いかえるか」
「どういうこと?」
「見た方が早いか」
と、いうと、天使は手刀で、空を縦にきった。何も起こらない、と思って後ろを振り向くと、唖然とした。ぱっくりと地が割れていた。後ろにいけばいくほど、地割れの幅が広くなっている。僕がただただ唖然としていると、
「これがお前が邪影石と契約した時に発現する力だ。お前が魔王になった時の魔王の力だ。音もなく、力もだんだん強くなる、そんな、闇の、力」
「これを、僕に、使え、と? 無理だっ、このなの使いこなせる訳がないっ、仲間も、殺しちゃうよ」
天使は、
「甘えるなっ!」
と、一喝、僕は身を震わせた。
「お前は、全てのものを助けると、救うと、以前言ったな。それは、全てのものを助ける力を手に入れるということであり、全てものを破壊する力を手に入れるということと同義だ! 全てを救うというのなら、お前の中の闇くらい、コントロールしてみせろ」
僕はうつむき、しばらく考えていたが、
「わかった」
天使はフッ、と笑うと、
「それでこそお前に因果応報を授けたかいがある。安心しろ、先程の力は魔王になったときの力。今のお前では、一メートルの衝撃波がせいぜいだろう。バースト化、と言ったか、あれはお前の眠る力を引き出している。お前の精神状態に応じて力も変わるようだが、あのときの衝撃波は闇の力だ。そして、あのときの結界は光の力。闇の力を多用し、力に負けてしまえば、おそらく、お前は無条件で、魔王となる。闇の力は魔王の元のようなものだからな。気をつけろ。光の力、つまり結界をコントロールできれば、味方だけ結界をはることができ、ダメージを軽減、又、神域の中でも下位能力を使うことができるだろう。お前が絶対障壁と呼ぶバリアは神クラスのダメージでなければ、傷ひとつつかない。あれは結界とは別だが、使い方によって、かなり使えるだろう。今から、教える、光の力と闇の力をコントロールする力、それをマスターすれば、バースト化時に自由に能力を使えるようになる。それには闇になれる必要があってな、覚悟は、いいか?」
「ああ!」
天使はいい顔をするようになった、というと何か呟き、何かが起こるかと思ったが、鈴の音が聞こえかと思うと、GMリンが出てきた。
「そうか、お前が魔王か。いや、正しくは魔王となるべく定められた人、か。いや、しかし待て、守る力を司る天使よ、いきなり、その闇の力をぶつけては、耐えきれず、魔王と化してしまうんじゃないか」
天使は軽く笑うと黒くて、禍々しい球体を瞬時につくると僕に、当てた。
「うぁぁぁぁぁ!」
僕は、心臓が、破れそうなくらいなり、熱もでてきて、頭も痛くなり、……。
「バカなっ、天使よ、お前、操られているな? 天使を操るなど、デスブライターか、神を操るおなじGMしかできないはず!」
「ばれてしまったか、しかし、自分ではどうしようもできない。こいつを頼んだ。それと、……。世話をかける」
GMリンは、ぶつぶつなにかを言い始めた。スキルのようだ。GMリンは言い終えると僕の天使は消え、僕の体の異常も消えていった。しかし、それとは裏腹に、僕の意識がきえていくのを感じた。僕の耳元でGMリンの声がする。
「翔、天使の洗脳はといた。それと、お前の光の力を増幅しておいたからね。魔王の力なんかに負けるんじゃないよ」
そして、声が遠退くと、
「あんただったのかい」
という、GMリンの声とジャリっと土を踏む音が聞こえ、そこで、僕の意識は途切れた。