↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/81

EP 6

さよならトンさん。餃子の自己犠牲(自爆)

 焼肉バイキングにおける制限時間90分コース。

 魔導砂時計の砂は容赦なくこぼれ落ち、残り時間はついに四十分(折り返し地点)を切ろうとしていた。

「……網の温度(火力)が低下してきたな。店員、炭の追加(基礎補強)を頼む」

 六番テーブル。

 トリスは、マイ・トングを片手に、真っ赤に燃える炭火のコンディションをミリ単位で調整していた。

 網の上では、次々と投下される上カルビやハラミたちが、完璧なメイラード反応(焼き色)を起こし、ホープ・クローバーの面々の胃袋へとノータイムで吸い込まれ続けている。

「ひゃああっ♡ トリス君の焼いたお肉、焦げ一つなくて最高に美味しいよぉっ♡」

「こんキュラ〜! リスナーのみんな見て見て! この神がかった網の回転率! これが一級建築士の焼肉(タスク処理)だよっ☆」

 キャルルが頬を押さえて身悶えし、キュララが自律浮遊カメラに向かってピースサインを決める。

 俺の完璧な現場監督コントロールの下、俺たちのテーブルは全くペースを落とすことなく、タロキンの在庫(食材)を蹂躙し続けていた。

     ▽ ▽ ▽

「……ハァ、ハァ……。なんという恐ろしい奴らだ……」

 一方、厨房の冷蔵ショーケースの中。

 タロキン防衛軍の指揮官・トンデモナイトは、モニター越しに伝わってくる絶望的な戦況に、脂汗を滝のように流していた。

 先鋒のタンシオ部隊は秒殺。

 生ビールとカレーライスによる胃袋膨張作戦も、あの『貧乏神リーザ』のブラックホールによって無に帰した。

 頼みの綱だった暗殺者ホルモンはヤンデレの顎力に粉砕され、特攻をかけた飲茶部隊に至っては、熱湯爆弾を破裂させる暇すらなく丸飲みにされた。

「トンさん……! もう私たちの負けよ……。このままじゃ、ショーケースの中のお肉たち、全部あいつらに食べられちゃうわ……っ!」

「諦めるな、ハラミ姫! 我らタロキン防衛軍の誇りは、まだ……っ!」

 トンデモナイトが牙を剥いた、その時だった。

「……お待たせいたしましたー! 焼き餃子五人前でーす!」

 モニター越しに、六番テーブルへ一つの皿が運ばれていくのが見えた。

 そこに乗っていたのは、薄く儚い純白の皮に包まれた、小柄な戦士。

 タロキン防衛軍・サイドメニューの伏兵――『餃子ギョーザ』である。

「ギ、餃子……! バカな、お前、まさか本当にやる気か!?」

 トンデモナイトがモニターにすがりついて絶叫する。

 餃子の狙い。それは、ただ美味しく食べられることではない。自らの薄い皮を、最も火力の強い網の中央に『意図的に焼き付け(自爆)』、絶対に剥がれない最悪の焦げクレーターを残すこと。

 網が焦げ付き、交換作業ロスタイムが発生すれば、奴らのペースを数分間完全に止めることができる。

 だが、それは食材としての『ゴミになること』を意味していた。

「(……トンさん。今まで、いっぱい優しくしてくれて、ありがとう)」

 皿の上に乗った餃子が、モニター越しのトンデモナイトに向けて、静かに微笑んだ。

「(僕のデンプンと肉汁を網に癒着させて、炭になるまで焦がせば……あの現場監督トリスの完璧な網(現場)を、最悪の不良施工現場に変えることができる。……僕の命と引き換えに、ハラミ姫を守るための時間を稼ぐよ)」

「やめろぉぉぉっ! 餃子ァァッ! そんなことをすれば、お前はもう二度と、誰の笑顔も作れない『ただの消し炭』になっちまうんだぞぉぉぉっ!」

 トンデモナイトが、ショーケースのガラスをバンバンと叩いて泣き叫ぶ。

 だが、餃子の決意は揺るがなかった。

「おっ、餃子ッスね! 網の端っこでカリッと焼くと美味いんッスよ!」

 ユートが、トングで餃子を摘み上げ、網の方へと運んでいく。

 その瞬間。

「(……今だっ!!)」

 餃子は、ユートのトングから自ら身をよじって滑り落ち、網の端ではなく、最も火力の強い『網のど真んセンター』へとダイブした。

 ジウゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!!

 強烈な炭火の熱が、餃子の薄い皮を瞬時に焼き上げる。

「(さあ、燃えろ……! 僕の皮よ、破けろ! 内部の肉汁とデンプンを網の鉄線に絡みつかせ、絶対に剥がれない『最悪の接着剤』となるんだ!)」

 自らの身を焦がし、網と一体化していく餃子。

 薄い皮が破け、ジュワァァッ!と大量の肉汁が網に溢れ出し、焦げ臭い煙が立ち上る。

「あっ!? ちょっとユート! 餃子が網のど真ん中に落ちちゃったじゃない! 皮が破けて、網にくっついてるわよ!」

「あわわっ! す、すんません! 急いで剥がすッス!」

 ルチアナが悲鳴を上げ、ユートが慌ててトングで餃子を引っ張ろうとする。

「(……無駄だよ。もう僕と網は、分子レベルで結合(癒着)している! 今無理に引っ張れば、僕の体は完全に崩壊し、網の上には最悪の焦げスラグだけが残る! さあ、網交換ロスタイムという絶望を味わうがいい!)」

 勝利を確信し、炎の中で微笑む餃子。

「(さよなら、トンさん……。死なないでね……)」

「餃子ァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 厨房で、トンデモナイトの血を吐くような絶叫が木魂した。

 一人の小さな戦士の、気高くも悲しい自己犠牲(自爆)。

 その尊い犠牲によって、タロキン防衛軍はついに、最強の現場監督の網に『修復不能なダメージ』を与えることに成功した――かに見えた。

「……おい、ユート」

 ガシッ。

 無理やり餃子を引っ張ろうとしていたユートの腕を、俺の左手がガッチリと掴んで制止した。

「ト、トリス? でも、早く剥がさないと網が真っ黒に……!」

「素人が無理に型枠(皮)を外そうとするな。……そんなことをすれば、コンクリート(肉だね)が崩れて、使い物にならなくなるだろうが」

 俺は、タバコを携帯灰皿に捨て、静かに息を吐いた。

 そして、右手で握っていたマイ・トングをクルリと反転させ、先端ではなく『側面の平らな部分』を、まるで左官職人のコテ(ヘラ)のように握り直した。

「型枠(皮)と基礎(網)が癒着したのなら。……物理的な『剥離剤(油分)』の計算と、テコの原理(力学)を使って、ミリ単位で引き剥がすだけだ」

 俺の眼光が、鋭い職人プロのそれに変わる。

 【建築工房アーキテクト・スタジオ】による、物質構造の完全スキャン。

「(……なっ!? なんだ、この男の目は……!?)」

 網にへばりついていた餃子が、俺の視線を受けてゾクッと震え上がった。

「網の温度、摂氏二百八十度。デンプンの糊化とタンパク質の熱凝固による癒着ポイントは、網の交差点クロスの四箇所。……そこへ、肉から染み出した『豚脂ラード』が流れる導線スリットを作ってやる」

 シュバッ!

 俺のトングが、魔法のような速度で網の上を滑った。

 無理に引っ張るのではなく。トングの側面を、網と餃子の皮の『1ミリの隙間』に滑り込ませ、焦げ付いた接点にだけピンポイントで衝撃タップを与えていく。

 カンッ、カンッ、カンッ!

「(ひぃぃっ!? ぼ、僕の絶対的な接着(自爆)が……ミリ単位で、正確に剥がされていくぅっ!?)」

「豚脂が接点に行き渡ったな。……よし、型枠解体(剥離)だ」

 クルッ。

 俺がトングの先を軽く捻った、次の瞬間。

 ペリォォォォォォンッ!!

「(――――え?)」

 絶対に剥がれないはずだった餃子の皮が。

 網に一欠片の焦げカスすら残すことなく、まるでシールを剥がすように綺麗に持ち上がり、そのまま空中で鮮やかに宙返り(フリップ)を決めた。

「完璧な『黄金色の焼き目(キツネ色)』だ。……おいリーザ、口を開けろ」

 ジュワァァァッ!

 完璧な焼き加減でコーティングされ、肉汁を限界まで閉じ込めた『最高の焼き餃子』が、トングから弾き出される。

「ふおおおおおっ! ナイスパスですのぉぉっ!」

 アァァァァァァンッ!!

 待ち構えていたリーザのブラックホール胃袋(大口)へと、美しい放物線を描いた餃子が、スポッとホールインワンを果たした。

「(……あ、あれ……? 僕の、自爆は……? 僕の、決死の……)」

 モギュッ。ゴクンッ。

「ぷはぁーっ! 外はカリカリ、中はジューシー! 最高の焼き加減ですの! 炭水化物とお肉のハーモニー、これぞ至高の前菜アペタイザーですのぉぉっ!」

 リーザが、幸せそうに腹をポンポンと叩く。

「……よし、産廃サイドメニューの撤去完了だ。網にスラグ(焦げ)は一切残っていない。次からは余計なもん落とすなよ、ユート」

「オ、オオッス! すんません、トリスのトングさばき、マジで神懸かってるッス!」

 俺の神業(左官技術)によって、餃子の決死の自己犠牲は、ただの『絶品の焼き餃子』として消費されるという、あまりにもあっけない最期を遂げたのである。

     ▽ ▽ ▽

「ギ、餃子ァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 厨房のショーケースの中。

 モニターの前で、トンデモナイトは崩れ落ち、脂身の拳で床をガンガンと叩きながら号泣していた。

「あぁぁっ……! 無駄死にだ……! あいつの命を賭けた決死の自爆作戦が、あの現場監督のトングの前では、ただの『最高の焼き上がり』に変換されるだけだなんて……っ!」

 どんな嫌がらせ(トラップ)も、最強の職人トリスの前では『極上のエンタメ(食事)』に書き換えられてしまう。

 タロキン防衛軍の戦力は、もはや風前の灯火だった。

「トンさん……っ! もうダメ……! 私、あいつらに食べられちゃうぅぅっ!」

 恐怖に震え、泣き崩れるハラミ姫。

 その涙を見たトンデモナイトは、ゆっくりと立ち上がり、自らの極厚の脂身(豚バラ肉)を震わせた。

「……泣くな、ハラミ姫。我々にはまだ、最後の奥の手(最終兵器)が残されている」

「えっ……?」

 トンデモナイトの視線の先。

 そこには、冷酷な光を放つ『デザート専用冷蔵庫』と。

 そして、己の身を業火に変える覚悟を決めた、脂まみれの重装甲部隊カルビの姿があった。

「デザート部隊による血糖値の急上昇(別腹攻撃)。そして、我ら脂身(カルビ&豚バラ)による、網の『大炎上ファイヤー』作戦……。姫様、必ずや貴女を守り抜いてみせますぞ!」

 残り時間、三十分。

 タロキン防衛軍の最後にして最大の波状攻撃が、最強のパーティーに向けて放たれようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。