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虚空に刷る  作者: ベンゼン環P
第一章 B3P
2/11

1-1-2/3 2 保健体育の授業

1.病気や怪我によって、体の一部が壊れたり失われたりした場合。

 2.生まれつき体の機能の一部に問題がある場合。

 3.体の機能には問題が無いが、より優れた体を手に入れたい場合。(ドーピング、美容目的など)


「ちゃんと調べた訳じゃないが、おそらく臨床現場においては1の場合が多いはずだ。和戸がさっき戸惑っていたのは1のパターンを考えていたからじゃないか?」

「確かに……、それはありますね」

 北窓の提示する1のパターンであれば、体を元に戻すというだけの話である。

 技術こそ最先端ではあるものの、それは薬を飲んで病気を治すのと変わらない。つまり古くから人間が行ってきた営みである。倫理観に反する行為だと考える者も少ないのではないだろうか。


「一方で伝田が言っていたのは2のパターンに該当する。生まれつき体の機能に問題がある場合だな」

 北窓はホワイトボードに映された2の項目の下に1本線を引いた。

「そして障害が個性であるのかについてだ。その答えは障害を持つ本人にしか分からないだろう。同じ障害を持って生まれた方々の間でも、意見が分かれるところだと思う。それでも伝田が筆者に対して自身の感想を述べていたのは立派なことだ。なのでここでは、第三者視点からお前達も考えてみよう。」

「障害が、個性……」

 喜歩もその言葉を口に出してみる。これまでの14年間の人生において、辿り着いたことの無い考え方であった。故に意見がまとまらない。

 それはクラスメイト達も同様だったのだろう。各々考える素振りは見られるものの、一向に手が上がる気配が無い。


「そう言えば、今年の冬は札幌のオリンピックが盛り上がったな」

 沈黙を破ったのは北窓だった。 

「お前ら、パラリンピックの方も見たか? アルペンスキーの日本人選手がすごかっただろ?」

 興奮気味な北窓に、喜歩はこくりと頷き応えてやる。

 

 喜歩も大会の模様をテレビ中継で見ていた。そして(くだん)の選手がチェアスキーで雪山を滑り降りる姿を目の当たりにして、高揚感を覚えたものだった。

 後に喜歩はその選手について調べていた。生まれつき足に障害を抱え、自立することができなかったものの、幼い頃から様々なパラスポーツに挑戦していったとのことであった。

 夏のパラリンピックにおいても、彼が車椅子マラソンで入賞を果たしたことがあると知った時は驚いた。

 

「あれを見て真似できると思ったか?」

 できない。喜歩は心の中で即答する。

「あの選手の栄光は、才能の証であり、自らの個性を伸ばそうと努力した結果とも言えるんじゃないかな」

 北窓の言葉がすとんと腑に落ちる。

 

 喜歩がチェアスキーに乗ることも、車椅子に乗ることもできなくはないだろう。

 しかし、あそこまでのパフォーマンスができるとは到底思えないし、練習しようという意欲も湧かない。

 パラアスリートが努力できるのは、車椅子こそが自身の足であり、その特性を存分に発揮したいというモチベーションがあるからではないだろうか。


「大事なのは選択の余地があるということだと思う。B3Pを使えば、生まれ持たなかった腕や足を生み出すことができるかもしれないし、車椅子生活を強いられていた者が、立って歩く生活へと移行することも叶うかもしれない。その選択をしてもしなくても良いのが現在の風潮だ。そしてどちらの選択をとったとしても個性だとして尊重されるべきだと俺は思う」

 

 喜歩も疑問に思っていたことではある。障害を持っているのにも関わらず、なぜB3Pで治さない人もいるのだろうかと。

 北窓の考えはその疑問の解明に近づくものだった。

 喜歩は健常者だから歩けないことは不便なのだと感じるが、車椅子使用者にとってはその限りではないのだ。

 各々に適した生活を提供するのがB3Pの役割であり、選択の余地を与えたに過ぎない。その選択をするのは個人の意思なのだ。

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