エピローグ この家の約束。
桜浜町。
――あの春から、数年が過ぎた。
星野家の八重桜は、今年も満開だった。
庭では花びらがひらひら舞い、縁側には今日も三姉妹の笑い声が広がっている。
「こら〜!そこ入っちゃだめ!」
陽葵の明るい声が響いた。
庭を、小さな影が走り回る。
子猫だ。
「あはは、元気だなぁ」
椿季が楽しそうに笑う。
「うふふ……大丈夫、大丈夫。元気なのはいいことよ」
お茶をすすりながら、桜花がいつもの口癖を言った。
その様子を、少し離れた縁側から――ワイは見守っていた。
……なんやねん、お前ら。
ワイが生きとって、なんか文句でもあるんか……?
まあ……あれや。
どてっ腹に穴が開いても、ワイはしぶとく生きとったんや。
……あいつらが、泣きよるから。
せやけどな……体は少し重くなったし、毛並みも昔ほどの艶はない。
どうやらワイも、歳をとったらしいな。
その時や。
新入りの子猫が、ワイの隣にやってきた。
(……ねえ)
キラキラした丸い目で、ワイを見上げる。
(この女の人たち、誰?)
ワイはゆっくり尻尾をゆらした。
(ぜんぶ、ワイの可愛い女たちや)
(……え、そうなんだ?)
子猫がきょとんと首をかしげる。
ワイは庭を見ながら言った。
(いいか、よう覚えとけ)
まず、陽葵を見る。
(あの女は一番やさしい。あとミルクみたいな良い匂いがするんや)
子猫がふんふん鼻を鳴らす。
(……ほんとだね!)
次に、椿季を見る。
(あの女は飯をくれる。ちょっと男勝りやが……まあ可愛いところがあるんや)
(へぇー……そうなんだ)
目を丸くしている子猫を、椿季がひょいと抱き上げた。
「おい、お前ら、男同士で何をこそこそ話してるんだよ?」
最後に、ワイは縁側で笑っている桜花を見る。
(……あの女は、飯がうまくて……働き者で……一番強いんや)
(いちばん? もしかして、この家のボス?)
(ああ……せやで。あと、な……)
ワイは少し目を細めた。
(この家の女はみんな、抱かれ心地が最高なんや)
(――うん、たしかに!)
子猫のやつが、妙に納得した顔でうなずく。
その時だった。
「マオマオ〜!」
陽葵がワイに手を振る。
「おいで!」
しゃーない。
ワイはゆっくり立ち上がった。
(ま、ワイは思うんや……ボウズ。この家はボロやけど、悪くない家や)
子猫も後ろをついてくる。
(この家は、ワイらを守ってくれる。それに、ここにいる女たちは皆、弱くはない。どいつもこいつも……負けへん強さを持っとる、最高にイイ女たちなんや。せやけど……いざという時は、ワイら男が守ったるんやぞ)
(――うん!)
三姉妹の笑い声が、今日も桜浜町に広がっていた。
満開の八重桜が、静かに花びらを落としていく。
その下で。
星野家の春は、これからもずっと続いていく。
―――ワイたちで守るんや。この場所を。
続く。
ここまで読んでくれて、ほんまありがとうな。
ワイはただのドラ猫や。
けどな――この一年で、いろんなもんをもろた気がするわ。
あったかい飯。
ぬくい寝床。
それから……帰る場所や。
桜花も、椿季も、陽葵も。
みんな不器用で、強がりで、ちょっと弱い。
せやけど――
それでも笑って、生きとる。
……ええ家族やろ?
ワイはな、こいつらを守るって決めたんや。
理由なんて、もうどうでもええ。
ここが、ワイの居場所やからな。
この物語は、ここで一区切りや。
せやけど――星野家の毎日は、これからも続いていく。
笑ったり、泣いたり、またくだらんことで騒いだりしてな。
もしまたどこかで、ワイらの話を見かけたら。
そのときは、ちょっとだけ覗いていってくれや。
ほなな。
また会う日まで――
元気でおるんやで。
ブックマークやレビュー、感想待っとるからな。




