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逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!  作者: ブーブママ
クロノシエル

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2025年 ひわまたのぼる

【2025年3月】


「ライブをしようと思うんです」

「ライブ……ですか?」


 顧問弁護士の春蓮さんは、眉間にしわをよせて眼鏡を光らせる。


「確かに先月は黒字化しました。その原資の大半がメンバーシップなどの継続性のあるものですので、今後の事業継続性の見通しも立ったと言える状況ですが……しかし、ライブともなれば準備に非常に時間がかかりますよ。ある程度の業務は外注できるとはいえ、朝から晩まで文字通り働いているのぼさんにこれ以上負担が……」

「忙しくなるのは分かってます。でも、やりたいんです」


 ほとんど学校にいかなくなっても時間は足りず、卒業してもそれは変わらないと思う。それでも、これは必要なことなんだ。


「私だけが黒字になってもダメなんです」


 このまま続ければ私一人は生活していけるだろう。でも、私がやりたいことはそれじゃない。


「ひわ又のぼは、アイドルになりたいんです。そしてアイドルは、グループなんです」


 ひとりでは私の目指すアイドルになれない。


「だから、クロノシエルをもう一度アイドルグループにするため、メンバーを募集しないといけません」

「……なるほど。それでライブですか? オーディションではなく?」

「今、クロノシエルでオーディションを開催しても、きっと誰も来てくれませんよ」


 最近になってようやく、ファンの皆にも心の整理がついた人が増えて来たのか……アンチ活動に飽きたのか。ひわ又のぼの配信は前向きなコメントがあふれるようになった。登録者も増えてきた。


 でも、問題を起こして炎上したグループが前身であることは誰もが知っている。


「クロノシエルに入って、本当にアイドル活動ができるのか? その答えを見せないといけないんです。そのためのライブです」


 クロノシエルならこんなことができると分かってもらい、仲間になってもらうためのプレゼンテーション。


「なるほど……」

「イノベテクノを笑えないぐらい前のめりだってことは分かってます。でも、やらないと!」

「てぇてぇ……」

「え?」

「ゴホン」


 今なんか言った? 春蓮さんは天を仰いで目頭を揉んでいた腕を下ろす。


「分かりました。のぼさんのファンの熱量を見ていれば、ライブで赤字になることは予想できませんね。オーディションはともかく、ライブはいい選択だと思います」

「よかった」


 そう言われるとホッとする。


「資金調達にはクラウドファンディングを行いますか?」

「そこまでみんなに頼るわけにもいかないですよ。チケットとグッズ販売でなんとかなる程度の、そんなに大きくない箱を考えてます。配信チケットもありますし」

「ライブに向けて新衣装やオリジナルソングを用意するなら、必要では?」

「そこまで贅沢できません」

「必要では……?」

「な、なしです。ファンディングに頼らないでもやれる、っていうことも必要だと思うので」


 まずは今のままで、できることをやりきる。


 それに……私は会社の代表だ。あんまり「のぼ」を優先したら、オーディション参加者も『結局のぼのためのグループなのでは?』と考えてしまうかもしれない。


「そうですか、非常に残念ですが仕方ありませんね。他には何かありますか?」

「ええと」


 2件ほど他の相談をして、春蓮さんとの打ち合わせは終了になる。


「ああ、そうでした。こちら、今月分のファンレターです。チェックも問題ありませんでした」

「わ、ありがとうございます」


 今のご時世でも物理の手紙を送ってくれるファンはいる。嬉しいけど「のぼさんはアイドルなのでチェックは必要」ということで、弁護士事務所に依頼していた。……本当にVtuberのことだいたい何でもやるな、この事務所。


「よし、やるぞ」


 ライブをやるとなれば、やることは山積みだ。会場探しだけでなく、技術スタッフも集める必要がある。


 そういったことの手引きは、仮想存在共同体の情報共有ページに全部書いてあった。この会場ではこうしたとかああしたとかいうノウハウや体験談も。……年会費は想像していたより滅茶苦茶に安くて、これをケチって参加していなかったイノベテクノが信じられない。


「パパも何か手伝おうか?」

「じゃあセトリ手伝って。30代男性が好きそうなやつね。いっつも50代って言われるから若めでね」

「ウッ……」



 ◇ ◇ ◇



 営業活動、配信活動、会社経営に加えて、ライブの準備、グッズの発注、特典のボイス収録、サインの記入。その合間を縫って歌とダンスの練習。


 4月にはライブ開催の告知。5月にはチケットの販売を開始。


「はい、告知あります! 7月! 株式会社クロノシエルとしての初のライブイベント、ひわ又のぼソロライブ、『サンライズ』を開催します! 現地チケットはありがたいことに売り切れてしまったんですが、配信チケットがありますので! ぜひ! 応援お願いします!」


 配信でしつこいぐらい告知。


 演出さんや配信スタッフと打ち合わせ、グッズの確認、宣伝、レッスン。


 やることに追われて全力で駆け抜けている、そんな日々に。


「あぁ~……休憩~……」


 空いた時間で、ぐて~っと自宅のベッドに寝っ転がる。


 はあ、実家最高。いやホントに。一軒家だし隣家はないし親は理解あるしで、家賃とか光熱費とか防音とか考えなくていいから……いやちゃんと家にお金は入れてるよ? ホントホント。でもそこでかなり経費が浮いているのは、正直ありがたいよね。


「……あ、今月分のファンレター貰ってたんだった」


 がさごそ、と鞄をあさって手紙を取り出し、読む。ほとんどみんな、ライブの成功を祈ってくれている内容だった。嬉しいし、気合が入る。


「ええと、次は」


 無地の無骨な便せん。のわりに、女の子っぽい文字で、書いてあったのはたった一行。


『ライブ開催おめでとう。ひとりにしてごめんね』


「ごめん、か」


 謝ってくるファンは結構多い。あの頃信じられなくてごめん、とか。力になれなくてごめん、とか。それを見るたび、こちらこそと申し訳ない気持ちになる。


 ただ、最近はもうだいぶ減ってきていた。久しぶりに見て、少し切ない気持ちに――


「………」


 ひとりにして?


 ガバッと起き上がり、便箋をひっくり返す。それ以上何も書かれていない。


「もしもし、春蓮さん?」


 事務所のチェックで、封筒は回収されている。


「差出人を知りたい手紙があるんですけど」



 ◇ ◇ ◇



【2025年6月】


「お願いします、ボス!」

「えぇ……」


 久々に事務所に現れたボスを見かけて、私はそのデスクに突撃した。


 相坂・熊井法律事務所のボス、朝隈(あさくま)(サトル)。まるでVtuber文化の隆盛を予感するかのように早期から法改正のために奔走し、謎の人脈を駆使して環境を整備した、Vtuber界の陰の立役者。


 そう……推しの守護神……!


「どうしても大切な案件なんです!」

「君ねぇ」


 ボスは口元をひん曲げ、眉をアメリカンな感じで困らせる。


 うーん、似合わない。このキザっぽい動きに見合う顔面じゃないんですよね。平凡っていうか。なんなら探偵向きの没個性というか。高級なスーツを着ていなければその辺にいるちょっと痩せぎすな中年男性なんですが。


「僕の時間はタダじゃないんだ。その仕事でいくら舞い込むっていうんだい?」

「無報酬です」

「あのねぇ」

「でも推しの大切なお願いなんです!」

「はぁ……」


 ボスは眉根を寄せる。


「ウチは推しを担当しないルールだったはずだけど?」

「しょうがないじゃないですか、あんな健気で頑張り屋さんを近くで見ていて推さないとかありえないですよ。それに担当した当時は違ったので! 担当の推しになっちゃいけないというルールはないので!」

「これだからオタクは……」


 ボスは頭痛をこらえる仕草をする。似合わないですねえ。


「僕の『権能』はそう安売りするようなモノではないんだけど?」


 中二病的な言動も似合わないですねえ……。


「お手を煩わせないように、私の方でも捜査はしたんです。でも見つからなくて……」

「そう。それは残念だったね」

「ボスも気にしていた案件ですよ、クロノシエル案件の!」

「クロノ……あぁ……あれか……はぁ……まぁ……分かったよ」


 ボスは深くため息をついて、何かに悪態をつきながら椅子に座る。


 Vtuberのための法改正に奔走して、Vtuberに手厚い法律事務所なんかも立ち上げたぐらいVtuberが大好きなくせに、いまさら照れ隠しもないと思うんですけど。


「で? 人探しだろう? 手掛かりは?」

「この手紙の差出人を探したいんです。依頼人いわく――」


 開封済みの、差出人の名前も住所も書かれていない茶封筒と、簡素な便せん。


「のぼさんと同じ元クロノシエル所属だった、咒泡クーシェ……アオニシミカゲさんからの手紙ではないか、と」



 ◇ ◇ ◇




【2025年6月】


 春蓮さんに捜索を依頼してから1か月。


 春蓮さんのボスが独自のツテで探し出してくれた、その差出人のいる部屋の前に、私は今立っている。


 ――ガラスの向こう側の病室を見ながら。


「……クーちゃん」

『うん』


 ベッドの上で、いろんな機材に体をつながれた少女――クーちゃんは、眉を下げて笑った。頬に浮いていた赤いボツボツは、この間より広く赤くなっていた。


『……ごめんね』

「あやまらなくていいよ! 私こそ、気づかなくて……」

『隠してたから』


 難病のなんとかという病気らしい。とにかく、ちゃんとした治療法がなくて。


『調子がいいときは普通に動けるんだけど……ライブの後から、急に、ね』


 事務所は……イノベテクノは、そのことを知っていたらしい。けれどクーちゃんの希望と、何よりプライバシーに配慮して、他のメンバーには伝えていなかった。知っていたのは社長とフセガワさんぐらいのはずだとか。


 ……そういう方面だけは、きっちりしてたんだな、あんな会社でも。活動量が少ないかもって伝えたにも関わらず採用したっていうのは……なんていうか……ノリで運営しすぎだとは思うけど。


『ごめんね。ひとりにして。やめない、って言ったのに』

「ひとりじゃないよ!」


 ガラス越し、スピーカー越しに言う。


「クーちゃんも、クロノシエルの一員だよ。いつでも戻って来れるように、私……アバターもアカウントも、ちゃんと用意して……」


 連絡が取れなかったから所属タレントとしてWebに記載できなかっただけで、知ってさえいれば……。


「私こそ……ごめん。もっと早く、探していれば……」


 怖かったんだ。クーちゃんが、クロノシエルを嫌いになってしまったんじゃないかって。


「……なにか」


 なにかしたい。させてほしい。


「何か、してほしいこと、とか……私に、何かできることは」

『……私、ね』


 クーちゃんが、どこか遠くを見ながら言う。


『ずっと小さなころから、トーカちゃんが好きなの。彩羽根トーカちゃん』


 Vtuberの始祖、親分。この業界で誰もが知っている名前。もちろん私も、Vtuberをやるからにはとしっかり勉強した。


『トーカちゃんに憧れて、Vtuberになろうと思った。トーカちゃんみたいになりたくて』

「トーカちゃんに……」

『トーカちゃんはね。永遠になろうとしているんだと思う』


 永遠。トーカちゃんがよく歌詞に使うフレーズだ。


『だから……私も。咒泡クーシェも、永遠になりたい』

「それは……どうやって?」

『最後に、ぼーちゃんとファンにお別れを言うの。クーシェは遠くからずっと見ているって。消えるわけでもいなくなるわけでもないって。そうしたら……それって永遠だと思う』


 手が震えるのを、必死に抑えた。


『ライブの演出にしたら、きっと盛り上がるんじゃないかな』

「……出れる?」

『ここにもWi-Fiぐらいあるんだから、大丈夫だよ』

「分かった」


 ずび、と鼻をすすって、目をぬぐって。私たちはガラス越しに目を合わせた。


「のぼが、クーちゃんを永遠にし続けるよ」



 ◇ ◇ ◇



【2025年7月】


 ライブ開催直前になって、急遽決まったアンコール『Virtual Immortal -仮想不滅-』を歌い終わって。


 ステージがいったん暗転した後に――『特報!』の文字が表示され、ファンのみんなから「おお~!?」という声があがる。


『特報! 株式会社クロノシエルの、次なる挑戦! それは!』


「……ッ」


 とてもじゃないけど喋れると思えなかったので、あらかじめ収録した動画。


 その判断は、正しかったと思う。私は、ステージの裏で、膝をついて声を殺していた。


『株式会社クロノシエル、代表取締役社長兼タレント! ひわ又のぼです! 今日はクロノシエルの、新たな挑戦について告知します。それは……アイドルグループ化計画!』


『アイドルといえば、やっぱりグループ! だから、募集しちゃいます! クロノシエル二期生を!』


『クロノシエル二期生オーディション開催! 応募は今日から受け付けます!』


『Vtuberのアイドルになりたいそこの君! どんな変わり者でもまずは応募してみてね! 一緒にアイドルやっちゃおう! 待ってるよ~!』


「……ふぅっ……ぅ……」


 今度こそステージが消灯され、客席に明かりがついてライブが終わりを告げる。


「はぁぁ……ふぅ……ッ」


 息を吐いて、吸って、気合を入れる。


「……スタッフの皆さん、お疲れさまでした~!」

「お疲れ様です!」

「いや~、ライブ良かったですよ」

「最高でした!」


 私は、ただのアイドルじゃない。株式会社クロノシエル代表取締役社長だ。協力してくれたスタッフに挨拶して、会場にもお礼の言葉を言って、打ち上げにも参加する。お酒はまだ飲めないけど、深夜に出歩いても補導はされなくなった。……身分証出せばだけど。


「……ふう」


 解散して、ひとりになったのはもう午前4時。


 朝焼けだ。もう少しで太陽も顔を出す。


 ……夕焼けと方角が違うだけの空を見て。


 あの日の……最後の会話を思い出す。




『それから……もう会いに来ないで欲しい』

『ど、どうして!? 迷惑……だった? あ……ごめん。そう、だよね。勝手に調べるような真似して……』

『ちがうの』


 クーちゃんは首を振る。


『ぼーちゃんとは、ずっとアイドルの仲間でいたいから』

『クーちゃん……』

『ぼーちゃんの中にも、永遠でいたいの』


 いたずらめいた目で。


『ぼーちゃんにだけは、私がこの後どうなったのかを、知らないでいてほしい。私がどうしているかを、ぼーちゃんの胸の内で決めてほしい。もしかしたら永遠にはなれないかもしれない。薄れて消えていくかもしれない。それでもいいから……少しでも長く……ぼーちゃんの中に住まわしてほしい』




「……忘れない……」


 最後の涙を、ぬぐう。


 あの日が、そして昨日が、クーちゃんとの永遠の別れ。


 あるいは、永遠のはじまり。


 ――太陽が昇る。


 費用の清算なんかの事務処理が待っている。未来の後輩のためにも、立ち止まってはいられない。


「……さあッ、やるぞ~! 二期生の選考、楽しみだな~!」


 特報動画はきっちりYouTubeにアップされてるし、再生数も上々。応募もどんどん来るに違いない! いや~! 雇用するとなるとま~たやることがたくさん増えるんだろうな~! やたらVtuberに甘い弁護士事務所の顧問弁護士にたくさん頼っちゃお~~~っと!

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― 新着の感想 ―
初期のギガ切れで落ちてたのも体調不良を隠すためだったのかな……
泣くわこんなの・・・ 何事もなく完治して復帰して永遠に仲良くしろ;
ファンからみたら生存報告だったのが「2025年 永遠の別れ」だったのこういう背景だったのか。おつらい。
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