表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!  作者: ブーブママ
クロノシエル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/169

2023年 原点

【2023年7月】


 クロノシエルの初の単独ライブイベント開催が8月に決まって。


 オリジナルソング……はないものの、全員で歌う曲が3曲もあり、私たちは頻繁に集まって練習を――


 ――できてなかった。


 『Virtual Galaxy #4』で知名度を上げたチャンスを逃すまいということなのか、イノベテクノはこれでもかってぐらい案件を取ってきたので、企画に収録にとメンバーの誰もが忙しく、3人どころか2人そろって練習できることさえ稀。


 結局全体曲は難しいフォーメーション変更を減らすことになり、個別の練習でなんとかすることになった。


 そしてライブ開催まで1か月を切った7月のある日。


「咒泡クーシェの中の人です。よろしくお願いします……」

「あ、よろしく……って、知ってるよぉ!?」


 私とクーシェちゃんは、一緒のスタジオで初めて練習することになった。


「そ、そうでしたか。すいません……」


 ぺこぺこと頭を下げるクーシェちゃんは、夏だというのにこの間会った時と同じように、大きな帽子をかぶってマスクを目元まで上げていた。


「もしかして私の方が忘れられちゃってる? あの、ひわ又のぼです」

「あっ、大丈夫、大丈夫です……はい」

「そ、そう? そうだよね。えっと……じゃあ、練習、しよっか?」


 全体曲の他に、クーシェちゃんと私はふたり組で歌う曲もある。朝焼けと夕焼けでコンビってことらしい。


「あ、はい……やりましょう」


 いそいそと準備をするクーシェちゃんをよそに、私は不安だった。というのも……クーシェちゃんは『Virtual Galaxy #4』以降、何も活動していなかったからだ。


 私を含めた他の4人が案件に引っ張りだこな中、クーシェちゃんにだけ何もない……ということは考えづらい。ぶっちゃけイノベテクノはクロノシエルに馬車馬のように働いて欲しいはずだ。


 それなのに何もない……ということは。もしかして。


 クーちゃんは、クロノシエルに愛想をつかしている? ……だって、案件をやるかどうかは、結局契約形態的に私たちが最終判断するもので強制じゃないし、だから……――


 ――と思っていた時期が私にもありました。


「ふぅ、ふぅ……はぁ……ど、どう……?」

「か、完璧だよ、クーシェちゃん」


 歌もダンスも。『Virtual Galaxy #4』の時に見せたパフォーマンスが嘘ではないことがはっきりわかる完成度だった。のにもかかわらず。


「……ううん。ここ、ちょっとターンおかしい。あと動きが合ってないね。もう一回やろう」

「あ、うん」


 録画を見返して、修正点を見つけてストイックに練習を再開する。微修正をしていく。腕の振り、指先の角度、アバターに反映させたときの見栄え。私が気づいていなかったところまで細かく。


 ものすごい熱意、情熱。それをはっきりと感じた。『Virtual Galaxy #4』のステージでのクーシェちゃんのパフォーマンスも、こういう努力を重ねた末にあったんだと理解した。


「すごいね、クーシェちゃん。私、そこまで気が回らなかったよ」

「のぼちゃんも、いい指摘をしてくれてありがとう」


 まあね。私も? アイドルには一家言ありますから? 言われてばっかりじゃあないですよ!


 とにかく、スタジオの時間いっぱい練習して――


「それじゃ、私はこれで……」

「待って!」


 外に出て解散しそうになったクーシェちゃんを、呼び止めた。


「……?」


 振り返る。大きな丸い眼鏡の奥の瞳。


 時間は、まだ夕方だ。


「その……ちょっとお茶して帰らない? ……未成年同士だし!」


 いやどういう誘い文句だ!?



 ◇ ◇ ◇



「私は、彩羽根トーカちゃんかな」

「基本だよね。私はFMBのゴスちゃん推し」

「いいグループだよね。あとは~……」


 駅前の喫茶店に入って、軽く『Vtuber誰推し?』の話から入る。まあ? 我々Vtuberですし? 会話の掴みとしては無難だよね?


「じゃあクーシェちゃんがVになったのって、えーっと……うーん」

「……?」

「いや、こういうとこでどういう名前で呼んだ方がいいかなって……」


 個室とかじゃないから、明らかに日本人じゃない名前で呼び合うのは目立ちそう。……まあ、ここで話していて身バレするほどクロノシエルに知名度があるかというと、そうではないんだけど。


「アッ……すいません。アオニシミカゲです」

「あっ、東野原翔子です。って、今更本名で呼ぶのもほらなんか……ね?」


 う~ん。


「……クーちゃんでいい? これなら特定されないと思うし」

「あ、はい。じゃあ……ぼーちゃん?」

「なんかそういうアニメキャラいたような……ま、いいか。クーちゃんがVになったのって、やっぱり推しの影響?」

「うん。見てて、私もなりたいなって思ったから」

「わかる。憧れだよね」


 憧れは原動力。わかるわかる。


「クーちゃんの歌とダンスを見て、そういう気持ちすごい伝わってきたよ。正直、ちょっと安心した。やる気なくなっちゃったのかなって思ったから……」

「……ごめんね」


 クーちゃんはまだ一口も飲んでいないアイスティーの水面に目を落とし、ストローをいじった。


「信じてもらえないかもしれないけど……やる気はあるんだ」

「そ、そうなんだ」


 思わず言っちゃったけど許して欲しい。だって活動頻度を考えたら……意外と思っても仕方ないじゃん?


「うん。だから」


 じっと。マスクと前髪と眼鏡で見えづらい瞳がこちらを真っすぐに見つめる。


「私、クロノシエルやめないよ。絶対。たとえ、ひとりになっても……咒泡クーシェをやめない」

「う……うん」


 その覚悟に、少したじろいだ。


 ……私は、アイドルになりたい。今、なりつつある途中だ。だからクロノシエルをやめる気なんかない。


 とはいえクロノシエルからみんながいなくなって、ひとりになっても続けるかと言われると微妙だ。私はみんなのことが好きだし……その好きな場所がなくなったら、別の方法を探すかもしれない。


「ま、まあ大丈夫だよ。最近、みんな忙しいし、ライブだってあるし! 順調なんだから!」

「あ、うん。そうだよね、ごめん。ただ、そういうつもりってだけで……」

「あははは……」


 縮こまるクーちゃんに笑って気にしてないことを伝えて、メロンソーダを一口。あ~、おいしい。


「ふう。あ、クーちゃんも飲みなよ。砂糖とか取ってくる?」

「あ、ううん。このままで……えっと。ごめんね、ちょっと見苦しいものをお見せします……」


 クーちゃんはそう言うと、練習中も外していなかったマスクを取る。初めてあらわになったクーちゃんの顔は……ほっぺに赤いぼつぼつがたくさん浮いていた。なるほど、ニキビかな? 青春の悩みですね。


「そんな、全然気にしないよ」

「そう……?」

「私だってね、この脚を隠してアイドルやるためにVを選んだわけですから。って誰がごん太ポンコツロボット短足じゃい!」

「ぶふっ」


 アイスティーが爆発した。わぁ大惨事。


「げほっ、ごっ、ごめん! げほ、けほっ、その」

「いいのいいの、練習中にたっぷり見て気になってたでしょ? 笑ってナンボよ。はい、拭くよ~」


 ハンカチを出してテーブルの上を拭く。


 ……それから少しの時間、私はクーちゃんとクロノシエルについて語り合った。クーちゃんもクロノシエルの全アーカイブを追っているオタクだと分かってからは、話が弾んだ気がする。私の配信を褒められるのは気恥ずかしかったけど。


「――じゃあ、今度! コラボ配信しようね!」

「うん……わかった」


 別れ際には、ライブを盛り上げるための直前コラボ配信の約束をして。


 私はクーちゃんと手を振りあって、駅で別れるのだった。



 ◇ ◇ ◇



【2023年8月】


「改めてだけど……今日はみんな、来てくれてありがとう!」


 のぼ~! のぼちゃ~ん! と、歓声が聞こえてくる。


 モニターに映った観客席では、わざわざみんな私のメンバーカラーにサイリウムを灯して振っている。名前を呼んでくれている。私たちが実際にいる、ステージ裏まで聞こえてくる。


 8月。クロノシエル初の単独ライブ。1000席もない座席は、みんなの呼びかけもあって早々に完売。ネット配信も、コメントが滝のように流れている。


 盛り上がった。盛り上がっている。ライブはきっと成功だ。あとアンコール含めて2曲残っているけど、もう胸がじんわりとしてしまう。


「のぼは、アイドルになりたくってクロノシエルに来ました。そうして、今日、このステージに立てて……アイドル、になれたなって、そう思います」


 アイドルだよ! と観客席のみんなとコメントが応えてくれる。


「このステージに立たせてくれた、みんなと。クロノシエルというこの場所が大好きです! これからもアイドルでいるためにがんばるので、応援よろしくお願いします! 今日はありがとう!」


 拍手と、ありがとうという言葉が観客席からあふれてくる。ぐっとこみあげてくるものを我慢しながら、私は最後の挨拶をする、クーちゃんの方を見た。


「あ……えと……」


 クーちゃんは……口元を抑えてそっぽを向く。目が赤いのが分かった。観客席からも、コメントも、泣かないでと声があがる。


「クーちゃん、がんばって!」


 マイクが拾わないように、小声で……言ったんだけど、拾われたらしい。コメントが「のぼクーてぇてぇ」と呻き始めた。


 のぼクー。先日のライブ直前コラボ配信は好評で、特にクーシェちゃんのファン、クー民からは、「貴重なクーシェちゃんの生配信をありがとう」と感謝された。それでそんなコンビ名がついたわけだけど……まあ、嬉しいよね。おかげでるー民にもクーちゃんの良さが伝わったし?


「……ごめん、くしゃみ出そうだった」

「くしゃみなの!?」


 ツッコミを入れると観客席が沸いた。……うん。くしゃみってことにしたいなら、それでいいけどね!


「クロノシエルも、デビューして1年と1か月。まだまだ、続いていきます。これからもよろしくお願いします」


 短いコメントだったけど、たくさんの人に想いは伝わったと思う。


「クーシェちゃん、ありがとう。それじゃあ、最後の曲にいきますわね。聞いてください――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ