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逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!  作者: ブーブママ
クロノシエル

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2025年 永遠の別れ

【2025年7月】


『みんなーっ! ありがとーっ!』

「うおおおおお!」


 モニタの中でこちらに向かって手を振る少女に、俺も全力でサイリウムを振り返す。


 頭の後ろに大きな輪っかで結んだオレンジ色の髪。白を基調にして黄色とオレンジのポイントが入ったアイドル衣装。そんなガーリーな格好からはちょっと外れた、勇ましくかわいい熊モチーフの爪が伸びた手甲。


 俺の推し! クロノシエル代表取締役社長兼タレント、ひわ(また)のぼちゃん!


「はー、最高か? まさかこんな日が来るなんてなあ……」

「相変わらず声が大きいね、君は」

「自分の部屋で騒いで何が悪い。家主だぞ、家主。ていうかノックぐらいしろ」


 勝手にドアを開けて入ってきた男――悪魔の気配に振り向きもせずに返す。モニタから目を離す理由はない。おお、MCしているのぼちゃんのかわいらしいことよ。


「何見てるんだい?」

「推しだが?」

「選択肢が無数にある返しをされてもね」

「しょうがないな。お前も知るといい。のぼちゃんの尊さを!」


 俺は前を向いたまま布教を始める。


「のぼちゃん、ひわ又のぼ。元は別の企業に所属していて、今は自分で立ち上げたクロノシエルという会社でVtuberをやっている子だ。元の事務所の解散からずっと苦境にあったんだが……今日こうしてソロライブの開催にこぎつけるまでに至った。ずっと折れずにファンの方を向いていてくれたんだ。すごいことだと思わないか?」

「ふぅん? なんだか聞き覚えがある気がするね」

「前の事務所の名前はイノベテクノだ」

「あぁ」


 ぽん、と悪魔は欧米っぽく手を叩く。


「君が気にしていた案件か」


 俺と悪魔が手を回して環境を整えたこの世界は、俺の知る世界と違って遥かにVtuberに関する悲劇は少ない。……だが、少ないだけで、ないわけではない。イノベテクノはそのうちの一つだ。


「実働は部下に任せていたから詳細は知らないんだけど、ふうん。彼女が。成功したならよかったね」


 こいつも自分の弁護士事務所を持つようになって、人を使う立場になった。その事務所の主に扱う案件はVtuber関連。すでに業界では、Vtuber関連のトラブルといえばココ、という存在になっている。


 そういうセーフティネットに加えて、俺の仲間たちの所属する企業が中心となって作ったVtuber関連の技術や運営に関する情報を共有する、会員制の組織。これによって企業にもVtuberという存在の扱いを理解してもらうようにしているが……。


 それでもすべてを救うことは叶わない。備えていても起こるものは起きる。


 イノベテクノの――株式会社クロノシエルの前身、Vtuberアイドルグループ・クロノシエルの崩壊は防げなかった。


 けれど、今、のぼちゃんはここに立っている。


 小さくても輝く熱いステージで、ファンの声を受け止めている。


「すごい……すごいことだよのぼちゃん。輝いてるよ……!」

「照明が?」


 無粋なことを言う悪魔を無視していると、MC中のステージに異変が起こる。

 

『ぼーちゃん……ぼーちゃん……』

『はッ!? エッ!? この声は!?』

「はっ!? えっ!? ウワアアアアアアアアア!?」


 ガターン!


「うわあぶなっ。急に椅子から転がり落ちてどうしたんだい。ぶつかるところだったじゃないか」

「だッ、おまッ……声ッ! 声!!!」

「声?」


 聞き間違えるはずがない。この声、この声は……!


『クーちゃん!?』

「クーシェちゃん!」

『うん』


 ぽわ……と。


 ステージの上、上空に少女の姿が映る。


 紫色の大きな泡を頭の左右につけた、白いショートカットの髪。焦点の怪しい黒い瞳。


「わぁ……わっ……わぁぁ……あッ……アッ……」

「うわ泣いてる」


 泣きもする。もう見れないと思っていた推しの姿が見れたら。


『こんあわ~……。咒泡(まじあわ)クーシェです』

「うおぉぉおおおおお……!」


 俺が、会場のオタクが、雄たけびを上げる。会場のサイリウムが数本、のぼちゃんのカラー、オレンジから、ぽつぽつとクーシェちゃんのカラー、紫へと変わった。


 俺も変えた。自作したサイリウムは持ち手にRGBの調節機構があるので。クーシェちゃんは159・86・193!


「はぁっ、はぁっ……げほっげほっ」

「えぇ……引くんだけど。そんなに興奮すること?」

「するに決まってんだろ! クーシェちゃんだぞ!」


 この悪魔は長年Vtuberに触れているというのに、エモというものを全く理解していない。


「クロノシエルの黄昏担当、咒泡クーシェちゃん。グループの不思議ちゃん枠で、動画投稿が活動のメイン。普段の姿からは全く想像もつかないクオリティの高さの歌とダンス……初参加のライブではオタクたち全員度肝を抜かれてやられたよ。俺も下手をすれば致命傷だった」

「推しに痛めつけられる趣味でもあるのかい?」

「だが動画勢ゆえか活動頻度が少なくてな……事務所が問題を起こす前から投稿が途絶えていて、ファーストライブ以降は音沙汰がなく……引退や卒業の告知こそなかったが、それは事務所があんな状態だったし……のぼちゃんも触れることがなかったから……騒動のままに消えてしまったものだと、そう思っていた」


 諦めていた。多くのオタクたちと共に、俺もまた。


『ぼーちゃん……ソロライブ開催、おめでとう』

『ありがとう! うれしい!』

「はぁっ! ――トウトイ……トウトイ……」


 見ることが叶わないと思っていたもの、その供給を受けたオタクは喘ぐことしかできない。


『ぼーちゃんのこと、ずっと見てたよ。力になれなくてごめんね』

『そんな、いいんだよクーちゃん。会えただけでうれしいよ! ね、みんなもそうだよね?』

「そうだよ! クーシェちゃん!」


 オタクたちの、特にクーシェちゃん推しの古参の声が、ステージに響く。


『ありがとう。実は今、私、遠いところにいて……こうして声を届けるのが限界で』

『そう……だったの?』

『うん……声が届くのも、今日が最後』

「あぁぁぁぁァァ……!」


 ダン! 机に拳を振り下ろす。


「えっ、こわァ……なんなんだい?」

「だって! だってこの展開さぁ……これは……これは……ッ!」


 理解できる。感謝もする。でもそれとは別に感情がジェットコースターだよ!


『だから……ぼーちゃん。そしてみんな。ちゃんとさよならを言いに来ました』

「ぅぅぅぐぐぐ……ぅぅ……」


 そういうことなんだ。


「もう……もう、クーシェちゃんは活動をしない……それでも、かつての仲間のところにお祝いに……そしてファンにきちんと別れを告げに来てくれた……いい子……いい子だ……うっ、うう……」

「なるほどねぇ」


 活動をやめる。その理由は人によって様々だ。環境、金銭、モチベーション……。だが理由なんて関係ない。裏側を知らないオタクたちは、推しの決断をただ受け入れるしかない。


『私は、遠くからずっとぼーちゃんを見守ってる』

『クーちゃん……』

『その証拠に……ふんッ』


 ぎゅ、とクーシェちゃんが顔に力を入れる。


『まじっくパワーをぼーちゃんに分けてあげた』

『クーシェ・まじっくを……?』

『ほら、髪輪っかがまじっくパワーに反応してる』

『うわ~!? 伸び縮みしてる~!?』


 にょいんよい~ん、と、のぼちゃんのトレードマークでもある頭の後ろで結わいた日輪のような髪の輪っかが、伸びたり縮んだりする。


「うおおおおあああああああッ!」

「うるさッ! 何!?」

「これはッ! アバターの調整ができてない初期の頃に起きてたバグ……! はぁッはあッ!」


 雑談配信を続けていると徐々に大きくなっていった謎の輪っか肥大化バグのネタをこすりつつ、それをクーシェ・まじっく……クーシェちゃんの動画で行われてきたバグじみた3Dならではの挙動ネタに昇華……!


『これでぼーちゃんも、のぼマジックが起こせるようになった』

『起きるの!? のぼマジックが!?』

『ぶい』

『ぶいじゃないよ!?』


 手書きのピースマークを体の前に表示するクーシェちゃん。懐かしい。この3D体があるのに適当な扱いもクーシェちゃんならではだ。懐かしい。あの頃と変わらない。涙が止まらん。


『あっ通信が……そろそろお別れだね』

『そうなの……?』

『うん。ギガがなくて』

『チャージしよ!?』


 あああぁぁ! ギガ切れ配信終了事件……! 事務所は回線引け!


『それじゃあ、最後にアンコールで歌うから! それだけ見ていって、クーちゃん!』

『わかった。ちゃんと、見てるよ。いつも見てる。これからもずっと』

『うん……うん! 見ててね! ずっと……見てて……ッ』


 ぐ、とのぼちゃんが目元を拭う。オタクの涙腺はとうに決壊していた。


『見てるよ……』


 スゥ……と、クーシェちゃんの姿が空に溶けて消えていく。


「いかないで……!」


 オタクたちの悲鳴がステージに響いても、空にはもう、何も映らない。


 静寂が訪れるのを待ったのぼちゃんは、顔を上げ、マイクを両手で持って、前を向いた。


『それじゃ行くよ。アンコールは……『Virtual Immortal -仮想不滅-』!」

「」



 ◇ ◇ ◇



【ライブ終了後 Twitter】


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 のぼちゃんのライブよかった……よかったなぁ……


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 推してきた甲斐があった


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 これからもずっと推し


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 ライブ終了後の告知驚いたわ。これからのクロノシエルに期待!!!


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 次回はオリソン欲しいね


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 アンコールの仮想不滅、意外なチョイスだったけどよかったな


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 ばちゃいものシャウトすっごかった


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 クーシェちゃんには驚いたな……


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 クー民は今すぐアーカイブを見るんだ


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 最後に出てきた子、昔のメンバーなの?


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 サボりのクーが出てきて萎えた

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  まだ繋がりあったのかよサボり魔


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 のぼちゃんとは仲良かったんやなぁ


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 おいしいとこだけ参加するのは変わらないのな


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 お別れしてくれたのは良かった。気持ちに整理ついたよ


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 アーカイブもアカウントも消さないの嬉しい。ありがとう、のぼちゃん、クーシェちゃん……


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 まあクーシェちゃんは消えたわけじゃないから……


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 生存報告してくれただけで十分よ


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 活動しなくても元気ならそれでいい


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 クー民訓練されすぎでワロタ


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 存在を残してくれたことに感謝


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 クーシェちゃんありがとう。またいつか会える奇跡を願って……!

毎週日曜14時更新です。

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― 新着の感想 ―
悪魔がちゃんと要求を聞いてくれた世界線……でしょうか? 更新楽しみです!
>毎週日曜14時更新 ありがとう、ずっと待ってた
のぼちゃん………トウトイ……… >毎週日曜14時更新 ……何ッ!! "幻想"じゃねえよな……!? 俺達の"配信時代"が帰って来る!!
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