第一章《加速する物語(セカイ)》 4
「本当に申し訳ない!」
「気にするなと言ってるだろう。これに関して言えば勇輝の方にも非はある。お互い様だ」
「しかし……すまない」
「いや、だからな……」
首が落ちるのではないかと思うほどの勢いで謝罪するカイオスを片手で制しながらアルダレスは苦笑する。このやり取りも既に五度目だ。
「謝罪はもういい。それより、こんな事態に至った経緯は? 勇輝は理由もなく客人に斬りかかるような奴じゃないだろう?」
「え? あ、はい。実は……」
突然に視線を向けられて静観していた自警団員の一人は言葉に閊えながらも説明を始める。
「勇輝には聞かないんだ……」
「……俺に聞くよりも正確な判断だろうからな」
騒ぎを起こした二人の内、アクセルはカイオスの指示で先に宿へと戻っているが、それでももう一人の当事者である勇輝はこの場にいる。
勇輝ではなく近くに立つ自警団員へと問いかけたのは、主観によって真実が歪むことを避けただけだろう。
その後、一通りの経緯を聞き出した二人は揃って溜息を吐いた。
「勇輝、気持ちはわかるが……いきなり斬りかかるなよ」
「……すみません」
非難の色が混じるアルダレスの言葉に勇輝は俯き気味に答えた。頭を冷やしたところで自分の行いが間違っているとは思えなかったが、たしかに抜剣するほどのことではなかったと反省する。
「アクセルの悪い癖が出たか」
「悪い癖?」
苦虫を噛みつぶしたような顔で呟いた一言を聞き返すと、カイオスは渋い表情のままに頷いた。
「アクセルは剣術の腕を磨くことに熱心な真面目な性格なんだが、それが病的なほどでね……ただ、その反面に実力のある強者には強い反感を覚えるようで、強者を軽んじる悪癖があるんだ」
窓枠に手をかけ、窓の外に広がる露店通りを一望しながら、カイオスは先程よりも深い溜息を吐いた。
「……私も、初めて会ったときは手を焼いたものだよ。今でこそ多少軟化してきたが、それでも時折殺気を込めて私を見ていることもあるほどだからね」
「それは……心中お察しします」
殺気を込めた悪態を吐き続ける部下に態度が軟化するまで付き合うなど並大抵の労苦ではないだろう。今更ながらにこの騎士団長の器の大きさに感服する。
「彼にそういう悪癖があるのはわかったが、どうしてマティアスのことを知っていたんだ? 面識がないだろう」
「恐らく、アクセルはマティアスの噂を耳にしたんだろう。周辺の町でも有名だったからね」
アルダレスの疑問に答え、カイオスは外へ通じる扉へと足を向けた。
「帰るのか?」
「ああ、そろそろお暇させてもらうよ。皆さん、今日は本当に申し訳ありませんでした。このお詫びはいずれ、また」
流麗な動きで一礼し、カイオスは扉の外に指す日差しの中へと去って行った。
「……あいつも大変だな」
「団長とは大違いですね」
「そうだな……って、うるさいぞ」
ジュリオの軽口にアルダレスが笑いながら小突くと、それまでの慎重だった所内の空気が明るくなり、訓練所は普段通りの雰囲気を取り戻す。
「それより、カイオスさんの言葉ってこの前来た時より大分砕けてましたよね? 何があったんだろう……」
「それは俺が言ったからだ。俺のいるところでくらいあいつも手を抜いていいだろってな」
「……カイオスさんって、本当に団長とは大違いですね」
「ほっとけ!」
取り留めのない話をしながら詰所へと歩いていく二人を眺め、勇輝はカイオス達が去って行った方を振り返る。
「……アクセル=ファンタズマ、か」
呟く声は誰にも聞かれることなく、活気に満ちた空気に溶けていった。




