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怪談屋  作者: 伊藤修平
徒桜の怪
8/16

幕間

 桜の木の下には屍体が埋まっている、と言ったのは誰だったろうか。

 (たし)か……梶井基次郎か。

 彼は如何(どう)にも偏屈と言うか、捻じ曲がった性格をしているように思う。

 純真にものを見られないと言うか、疑り深いというか、何か一つの事柄に在っても無くても裏を探るような、そんな感じ。

 だから、美しいものの裏には凄惨な何かがあると信じた。

 そう信じねば、その美しさを直視できなかったから。何か美しいものの根底に醜いものが無ければ、そうでない自分が立ち行かれないとそう思ったのではないだろうか。

 美しいだけの存在があれば、では美しくなく醜いものを孕んだ己はどうなる。太陽の裏の影のようなそんな心持ちになる。

 なんだか自分が生きていてはならないような、そんな卑小な存在に思われてならないから、その憂鬱を取り払う為に存在しない屍体を見つけ出したのではないだろうか。


 何ということもなしに、理解出来る。

 この異様なまでに爛々(らんらん)と咲き誇る大きくて太い桜の花を見ていると。

 射干玉(ぬばたま)の様な夜の空に、月明かりなのか、将又(はたまた)自ら発光しているのか、妖しく、奇しく、怪しく、毒々しいような薄紅色が輝いていた。

 但し、この桜の木には屍体は埋まっていない。

 どころか、生まれるのだ。

 産まれるのだ。

 鮮やかに、そして(たお)やかに。

 そうして産まれたものが神々しいまでの神秘だとしたなら、その根底の桜はきっと、屍体という事になるのだろうな。


 どこか遠くで産声が聞こえた。

 唸る様に、(うね)る様に。


 (たし)か、あれはシェイクスピアだったろうか。

 赤子が泣くのは、阿呆ばかりのこの舞台に引き出されたことが悲しくて泣くのだと言ったのは。

 慥かあれは夢野久作だったろうか。

 胎児が腹の中で動くのは、母の心が分かって恐ろしいのだと言ったのは。


 どれも祝福されるべき生が悲惨で惨憺なものとして挙げられている。


 そうか彼らもきっと。


 神秘に醜陋(しゅうろう)な理屈をつけたかったのだな。

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