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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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二本角

車を一時間程走らせたシュウたちは、無事目的の場所に着いた。

 時計を見るとまだ午後二時を少し過ぎた頃で、予定通りとはいえかなり早く着いてしまった。

 途中でコウガと運転を変わったシュウが肩を回していると、コウガはすぐに魔力を消費した魔動エンジンに魔力を充填し始めた。


 これは邪竜が現れるまでの間、余計な話はする気が無いというコウガの意思表示だった。

 コウガが不愛想なのは今に始まったことではなく、コウガと仕事以外の話ができるのは隊長の中では幼馴染のクオンとコウガに冷たくあしらわれても気にしないシュウとアヤネぐらいのものだった。

 いつもならコウガにちょっかいを出すシュウだったが、今回は他の二人、特にヴェーダの様子が気がかりだったので二人の相手をすることにした。


「ったく、そんな不安そうな顔するな。今は俺たちしかいないからいいけど、絶対に隊員たちの前でそんな顔するなよ」

「はい。…すみません」


 シュウの指摘に謝りこそしたものの、それでも不安そうな顔をしているヴェーダを見てシュウはため息をついた。


「いつも言ってるだろ。俺たち隊長は、自分が負けるわけないって顔するのも仕事の内だ。もちろんほんとに負けないってのが大前提だけどな」


 シュウのこの発言は正論で、ほとんどの隊長が意識してやっているかどうかの差こそあれ実践していた。

 命懸けの戦場で頼みの綱の隊長が不安そうな顔をしていては隊員たちの士気も上がらない。


 それが頭では分かっていても、ヴェーダには表情まで取り繕う余裕は無かった。

 元々ヴェーダは戦いが好きなわけではない。

 少しでもみんなの役に立ちたいと思いリクと相談し、猛反対した両親を説得して討伐局に入った。


 その後『レギオン』で隊員として活動していた時にシュウの目に留まり、その後紆余曲折あり二人は隊長に就任した。

自分たちが隊長になるなど考えてもいなかったヴェーダは、隊長に就任してから様々な不安と戦ってきた。


 シュウに目をつけられるだけのことはあり、ヴェーダ、そしてもちろんリクも才能には恵まれていた。

そのため周囲の支えもありこれまで何とかやってきたヴェーダだったが、まだ若いヴェーダは実力に自信が追い着いていなかった。


「やれやれ、コウガもお前もそれだけ強くてどうして戦いが嫌いなのか理解に苦しむぜ。なあ、リク?」

「僕も別に戦いが好きなわけじゃないです…」

「あっそ。ま、不安顔に出してないだけましか」


 シュウも精神的なことは今すぐ解決できることではないのは分かっていたので、これ以上は何も言わずにコウガに声をかけた。


「おーい、コウガ!あんま魔力使われても困るから、二十分経ったら俺と交代な!」


 こちらに振り向きもせずに短く返事だけしてきたコウガに苦笑しつつ、シュウはもうすぐ邪竜が現れるだろう空を見上げた。

 そして数十分が経ち、間もなく午後三時になろうかという頃、予報通り上空に巨大な渦が発生して渦の中から邪竜が現れた。


 現れた邪竜は一体で角の色は白でも黒でもなかった。

 予報通り邪竜が出現したにも関わらず、現れた邪竜を見たシュウたちは驚きと共に邪竜の角に視線を向けた。


「おい、これって…」

「つまり、そういうことだろう」


 予想外の邪竜の出現に言葉を失うリクとヴェーダをよそに、シュウとコウガは目の前の邪竜について短く意見を交わした。


「まさか二本角とはな」


 嬉しそうに笑うシュウの言う通り今回の邪竜には虹色と紫色の角が一本ずつ生えていた。

目の前の邪竜は能力を二つ持っていると考えた方がいいだろう。

 これまで聞いたこともない邪竜にあっけにとられていたシュウたちだったが、いつまでも邪竜を眺めているわけにもいかなかった。

 シュウは刀を抜くと他の三人に指示を飛ばした。


「とりあえず俺とヴェーダで突っ込むぞ。リクは待機、コウガは適当に雷降らしといてくれ」


 他の三人の返事も聞かずに走り出したシュウに一瞬遅れてヴェーダも慌てて走り出した。

 その後リクはヴェーダと五感をリンクさせ、いざとなったらワープでヴェーダを助けに行くために邪竜全体を視界に捉えた。


 その横ではコウガが落雷の準備を始めていた。

 ここで三人がシュウの指示を素直に聞いたのはシュウの強さだけが理由ではない。

シュウの指示が的確だったというのもあったが、他の三人が積極的にリーダーシップを発揮する性格ではないというのが大きかった。


 もちろんメンバーが変われば事情も変わり、シュウの代わりにクオンがこの場にいたら全体の指揮を取る役割は消去法でコウガに回っていただろう。

 邪竜は自分の頭上で雷が発生しようとしていることなど気にもせず、迫り来るシュウとヴェーダに攻撃を仕掛けた。


 邪竜の注意を引くために不自然なまでに魔力を高めて近づくシュウに対し、まんまと邪竜が放ってきた火炎をシュウは『空間切断』で創った障壁で防いだ。

 いくら能力者が魔力により防御力を高められるといっても限界はあり、Aランク以上の邪竜の放つ火炎をまともに食らったら隊長といえども数秒で灰になってしまう。


 余程特殊な能力か技を持っていない限り、邪竜の火炎をまともに食らうのは自殺行為だった。

 それはシュウとて例外ではない。

立て続けに邪竜が放つ炎を防ぎ、時に避けながら邪竜との間合いを詰めていくシュウの顔には笑みが浮かんでいた。


「おいおい、あんまじらすなよ。俺はともかく、他の三人は遊ぶつもりなんて無いぞ」


 隊長たちにとってAランク以下の邪竜との戦いは単なる作業に過ぎない。

 Bランクの邪竜など話にもならず、帰った後の予定を考えながらでも勝てる相手だ。

 Aランクの邪竜も攻撃力こそ脅威だが、攻撃のパターンが単調のためそれ程危険な相手ではない。


 もちろん部下やアイギスを守りながら戦う場合は難易度が上がるが、それでも隊長自身が死ぬ可能性はまず無い。

 技の実験や戦闘衝動の発散という意味では一定の役に立っていたが、それでも戦闘を楽しむという意味ではAランクの邪竜程度ではシュウのお眼鏡には適わなかった。


 しかしSランクの邪竜なら予想できない一手を一つは持っているので、シュウはそれを今か今かと待っていた。

 時にはあっさり攻略できる能力もあるが、それでもSランクとの戦い、特に序盤のスリルは変わらない。


立て続けに邪竜の口から放たれる火炎を全てしのぎ、ついにシュウは邪竜の真下にたどり着いた。

 ようやく飛び道具でシュウを倒すことができないと気づいたのか、少し前から邪竜の火炎放射が止んだためシュウは予定より早く邪竜との間合いを詰めることができた。


 さっそく邪竜の体を斬り裂こうとしたシュウに対し、邪竜はシュウを踏み潰そうと前脚を振り降ろしてきた。

しかしまるで見当外れの場所を踏み潰そうとしている邪竜を見て、シュウは一瞬戸惑った。

 シュウは今邪竜の真下に潜り込んでいるので、邪竜の攻撃がある程度適当になるのは当然だ。


 最初はそう考えたシュウだったが、不意に悪寒を感じたシュウは後ろに大きく飛びのいた。

 その直後シュウが先程までいた場所が大きく踏み砕かれていた。

邪竜は全く違う場所を踏み砕いたにも関わらずだ。


「あれ?もしかして。…めんどくせぇな」


 邪竜が踏み砕いたはずの地面に傷一つ無いことを確認したシュウは、一応念のため頭上の邪竜の腹部を斬り裂いた。そして一切の手応えが無いことを確認したシュウは、ちょうどコウガの落雷攻撃が始まったこともあり一度邪竜と距離を取った。


 一方シュウの反対側から攻めていたヴェーダは、邪竜がシュウに気を取られている間に一気に勝負を決めるべく邪竜の首を目指して移動していた。

 あっさり勝負がつけばシュウは残念がるだろうが、ヴェーダには命懸けの戦いを楽しむ気など無かった。


 シュウにも決められるようならいつでも決めていいと言われていたので、ヴェーダは邪竜が飛び立つ前にかたをつけるつもりだった。

 リクにはいざとなったらテレポートで逃げるつもりで動いているのでその場から動かないように頼んでいた。


 邪竜の首まであと一歩で届くというところまでたどり着いたヴェーダは、魔力を足に集中して一気に踏み込み、そして何も無いはずの空中で何かに顔をぶつけてしまった。

 今まで何度も感じたその感触で現状を正確に理解したヴェーダは、その場に留まるのは危険だと判断してリクのもとに転移した。


 ヴェーダがリクのもとに転移してすぐに他の三人にシュウから通信が入った。

 邪竜は突然始まったコウガの落雷攻撃に気を取られ、シュウたちへの攻撃を中断していた。

 不思議なことにコウガの落雷は邪竜の体をすり抜けたと思ったら、別の雷撃が何も無い空間で何かにぶつかっていた。


「あいつの能力は幻術だな。邪竜が全然関係無い場所攻撃したと思ったら何故か俺のいた場所が攻撃くらってたし。俺の能力で斬れなかったってことは物質通過とか体を液体っぽくする能力じゃねぇ」


 シュウの能力は伊達や酔狂で『万物切断』と名付けられているわけではない。

 体を不定形に変えられる相手でも斬り裂くことができ、回避以外では純粋な防御力で上回るしかない能力だ。


 そのシュウの攻撃が弾かれたならまだしもすり抜けたということは、邪竜の本体がシュウが狙った場所には無かったことを意味していた。

 そしてシュウの発言に続く形でヴェーダが発現した。


「私も邪竜に攻撃を仕掛けようと思ったら見えない何かにぶつかったので、あの邪竜が視覚をごまかす能力を持っているのは間違いないと思います」

「でも幻術自体はお粗末なもんだけどな。吐いた炎まではごまかせないみたいで、幻術使う前は炎吐いてこなかったし」


 先程邪竜が火炎放射を止めたのが不思議だったのだが、あの時にすでに幻術を発動していたのだろう。


「なるほど。さっきから空中で雷が何かにぶつかっているから間違いないだろうな。面倒な」


 コウガの言う通り邪竜に幻術を使われると面倒この上ない。

 もちろん人間が使ってきた場合も面倒ではあるが、人間が相手なら全方位の無差別攻撃をすればよく、防御に関しても魔力を高めて防御に徹すれば相手が相当な格上でなければ負けることはない。


 しかしAランク以上の邪竜は適当に繰り出した攻撃で倒せる程甘い相手ではなく、邪竜の巨体から繰り出される攻撃に対しては防御など選択肢にも上がらない。

 そんな相手が幻術を使ってくるというのだから、コウガじゃなくても面倒だと思うだろう。


 特に今回の討伐局側のメンバーは、四人中三人が接近戦タイプだ。

 接近戦で相手の正確な位置が分からないのは致命的で、特に邪竜が相手では一発で即死もあり得るのでこの状況で接近戦などとても挑めなかった。


 コウガが適当に大量の雷を降らせれば解決する問題ではあったが、邪竜の二つ目の能力がそれを考慮に入れた能力の場合、それは致命的なミスとなる。

 この場で唯一の遠距離タイプのコウガの魔力を無駄遣いするわけにもいかないので、シュウは地道に邪竜を削り殺すことにした。


「よし、じゃあ、俺たち三人で突っ込むからコウガがあいつを炙り出してくれ」


 シンラやセツナなら比較的消費魔力の少ない広範囲攻撃も行えるのだが、無いものねだりをしてもしかたがない。

 コウガの魔力消費を抑えるため、魔力の消費が少ない接近戦組でかたをつける必要があった。

 シュウの発言を聞き、シュウの作戦を理解したリクとヴェーダはシュウとは別の方向からそれぞれ邪竜に攻撃を仕掛けた。


「邪竜の位置がはっきり分からない以上、こっちが不利なことに変わりはない。お前ら二人はダメージを与えることよりやられないことを優先しろ。三人でじわじわ削っていけばその内殺せる。いいな?」


 後輩二人の返事を聞くと同時にシュウは動き出し、それに連動してリクとヴェーダも慎重に邪竜との距離を詰め始めた。

 邪竜に近づいていく同僚三人を見ながらコウガは、落雷による攻撃を止めると別の技の発動準備にとりかかった。


 コウガによる落雷が止まったことで自由になった邪竜は、自分に近づく三人を視界に捉えると正面の敵に狙いを定めた。

 邪竜はそこまで高い知性を持っているわけではなく、単に正面にいたからという理由だけで三人の中で一番の外れのシュウに攻撃を仕掛けた。


 この邪竜の幻術は、シュウの指摘した通りあまり精度が高いものではなかった。

 邪竜の知性の低さも相まって、自分の姿を消すと同時に別の場所に自分の幻影を創り出すという形でしか能力を使えなかった。


 もし姿を消す能力を単独で邪竜が使えれば、シュウたちはかなり苦戦しただろう。場合によっては死者も出ていたかも知れない。

 しかし今回の邪竜の発生させた幻の動きは本体の動きと連動しているらしく、慣れればシュウにとっては妨害どころか邪竜本体への攻撃の手掛かりにすらなった。


「ご丁寧にどうも。これは礼だ!」


 リクとヴェーダとの位置関係からシュウは邪竜の本体が幻の右にいると当たりをつけた。

そしてシュウは跳び上がると、幻の動きに合わせて邪竜が振り下ろした尾に刀を振り上げた。

 その結果邪竜の尾は、中心部に届く程深く斬り裂かれてしまった。


 これが普通の生物ならシュウは返り血で血まみれになっていただろうが、邪竜は傷口ができても魔力を漏らすだけだ。

 今回も巨大な衝突音がしただけで、シュウには染み一つ付いていなかった。


 思わぬ攻撃を尾に受けて動きを止めた邪竜だったが、ここで攻撃を止める程シュウはお人好しではない。

 邪竜が大きく動く前に大体の目星をつけて邪竜の尾に刀を突きつけると、シュウは一気に斬撃を送り込んだ。


 邪竜の叫び声が響く中邪竜の尾が斬り落とされたが、その後すぐに邪竜は空へと逃れた。

 いつもならすかさず追撃を仕掛けるシュウだったが、さすがに相手の正確な位置が分からない状況で空中戦をする程命知らずではない。

 しっかり斬り落とされた尾が消えている邪竜の幻を見て、無駄に正確な邪竜の能力に苦笑しながらシュウはコウガの支援が始まるのを待った。


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